猫と辻斬り
三件目の辻斬りが起きた後、急いで八郎を連れて行き現場を見せた。
「成程、猫丸の言う通り、背中を斬られて殺されているな」
「ああ」
「これが、三件も続いたのか?」
「そうだ」
「ならば、父上に報告した方がいいだろう。行くぞ、猫丸」
オレたちは、大坂城に行く事になった。
大坂城御対面所にて、
「——つまり、今、大坂の町は辻斬りの騒ぎで持ち切りと言う事じゃな。八郎」
上様は真剣な目で、オレたちを見つめ、話を聞いている。
「はい。猫丸が全て確認しています」
八郎に目で合図をされ、オレから話す事になった。
「えっと、一か所目が上町で、二か所目が平野町で、三か所目が小橋寺町で、全て職業は人夫で、背中を斬られて殺されています」
「そうか……こうしてはいられん! よし! すぐに手配する!」
その後、
「ん? 八郎? あれは?」
時代劇でよく見る看板みたいなものがあり、何やら文字が書いている。
「御触書だ。あの辻斬りの事が書いている」
「なんて書いているんだ⁉」
「では、要約だけまとめて言おう。あの辻斬りを捕まえると黄金十枚をだす。と、書いている」
「黄金十枚? 黄金十枚って?」
「百両だ」
「百両って?」
金額が分からないので、小声でエリンギに聞くと、
「おおよそで一千万だな。くくく……」
なぜか、エリンギは嬉しそうだが、オレは、
「いっ⁉」
一千万と言いかけると、八郎が不思議そうな目で、
「? どうした? 猫丸?」
「あ、いや、なんでもない。けど、黄金十枚って大金だな」
「そうか? だが、このくらい懸賞金があれば、すぐに捕まるだろう」
「そいつはどうかな」
小声でエリンギはつぶやいた。
「ん?」
それから七日たって、
「さて、行くぞ」
「オレも!」
「ふにゃああ!」
大坂城に遊びに行く事になっているので、行こうとすると、
「あれ⁉ 八郎⁉ あれ⁉」
「また辻斬りか」
黄金十枚の懸賞金をかけたが、辻斬りは捕まっておらず、いまだ大坂の町で斬りまくっている。
「おいおい……」
「酷い……」
野次馬の声には怯えや恐怖が含まれている。
「すいませーん‼」
「見せてくれないか?」
何だか様子がおかしいので見に行ってみた。
「う……」
遺体を見ると、片足が斬られているだけではなく、体中をめった斬りやめった刺しにしている。そのせいか、今まで以上に血飛沫が飛び散っている。
「これは……」
「この者も人夫なのか?」
八郎が尋ねると、
「ああ、そうだけど……」
町人は震えながら答えた。
「調子に乗ってきたか」
「犯人はまだか?」
そして大坂城では、
「お豪に会う前に父上か誰かに聞きたいものだが……」
「聞こうぜ。八郎」
「きちんとした理由があるのなら、お豪も許してくれるだろう」
大坂城を歩いていると、
「あ、石田殿」
「どうした。宇喜多殿……と猫」
「ふにゃあ」
オレはシカトですか?
「辻斬りについて、何か噂はないでしょうか?」
「辻斬り? 辻斬りなら——」
石田殿の視線の先には、縄で縛られた大勢の人が歩いている。
「な、なんじゃありゃあ⁉」
「全員辻斬りだ」
「今朝も人が殺されたのに、それはおかしいでしょう」
「……しかし、犯人らしき人物の情報は入ってくるのだ。山の様に」
「山の様に? なんで?」
石田殿は気まずそうな顔でになった。
「上様の掛けた懸賞金が高すぎたのだ。それにより、どの情報が真実なのか分からないのだ。それで、仕方なく全員捕まえたのだ」
「うわ~」
「これは……長引くかもしれんな」
「ああ、懸賞金を減らしてみようと思うが、それをすると批判がくるかもしれん」
「難しいっすね」
「そうだな——おや?」
「「「「⁉」」」」
ものすごく速い風が吹いた。と、思ったら、
「あの下郎‼」
「あれは——」
「弥九郎さん?」
弥九郎さんの向かった先には虎之助さんが!
「汝かぁ‼」
弥九郎さんが抜刀すると同時に、虎之助さんも抜刀して抵抗した。
「何がだぁ?」
「汝が儂を辻斬りと告げ口したんやろうが!」
「はっ⁉ ——そうなのか! なら、辻斬り退治と行くか‼」
「ちゃうわ‼ ボケェ‼」
また斬り合いになると、石田殿が、
「汝ら‼ 今度は改易にするぞ!」
「「……ちっ」」
二人とも納刀し、大人しくなり戻った。
「……弥九郎さんが犯人——」
「ではない。辻斬りがあった時、小西殿は小豆島にいた」
「そっか!」
「では、違うな」
「…………ちっ」
オレは屈んでエリンギに小声で、
「なあ、今の『ちっ』ってなに?」
「残念だな。あの南蛮かぶれを処刑して、懸賞金丸儲けと思ったのに」
「言ったの、お前かよ‼」
「どうした。えりんぎと、こそこそして」
「い、いや……」「ふにゃあ」
八郎に不思議そうに思われたが、一方で石田殿の視線は逸らしている。
「実は、我々の中で疑われた者は小西殿だけではないのだ」
「「えっ⁉」」
「その、な……」
「どうしたんだよ⁉」
普段の石田殿と違い、戸惑っている。
「…………実は、大坂城の中では紀之介が真犯人ではないかと言われているのだ」
「な、何故⁉」「なんで⁉」