屋敷と船上にて
夜、自らの屋敷で一人、物思いにふける男がいた。羽柴小一郎秀長だ。
「まあ、多少いざこざがあったけど、無事に終わって良かった」
一人、部屋の燭台を見つめ、
『——それにしても、あの時、猫丸を見たいって言ったから、忍びを使って、どの様に動くのか調べてもらっていると、こんな事になるとはね。放っておく訳にはいかないから、皆を呼んだけどね』
「だけど、摩訶不思議な国だね。こんな国が本当に存在するのかな? 夢の中の話だけど」
呟くと、天井を見上げた。
「でも気になる言葉は——日本、か。日ノ本の日と本で日本、か。その名が猫丸の住んでいる国、か。——我々の国の名と同じだ」
羽柴小一郎秀長は疑問に思いながら、
『猫丸、彼は何者だ。私達の知らない世界の者か?』
こうして夜は過ぎていく。
そしてある日の夕方、瀬戸内海に浮かぶ船にて、
「……」
その船上にて、小早川隆景が一人、佇んでいる。
「猫丸、か」
その小早川隆景の袖が動いている。
「ああ、出ていいぞ」
袖から出て来たのは、赤いカエルだった。
そのカエルを掌に乗せた。
「確かに、興味深い人の子だ。未熟者だが、中々見どころのある童だったのに、あやつも行くべきだったのに」
「ゲゲゲゲ」
「お主も、そう思うのか? ——こんな物を渡さずに」
もう一度、袖から出した物は掌に収まるサイズの黒い板だ。
「気になるのならば、自分の目で確かめる事だ」
その板を指で触れている。
「まあ、話をしてあげよう。絶対に後悔するだろう」
「ゲゲゲゲ」
「黙っておく事はしない。包み隠さずに言おう」
船は進んで行く。