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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と約束

 夜、オレ達は虎之助さんの屋敷で宴をする事になった。

「猫が強くなったのを祝うぞ」

「すげぇな! 猫、こんなに強くなるとは!」

「いや、たまたまですよ」

 オレが謙遜していると、左衛門さんはオレの背中を叩いた。

「たまたまでも、実力は実力だ。強くなった事に変わりはない」

「猫丸、私より強くなったのではないか?」

「左衛門さん。虎之助さん。八郎……ありがとう!」

「よし! 飲むぞ!」

 皆で飲んでいると、

「ふにゃあ!」

 いつの間にかエリンギも混ざって、肴を持って酒を飲んでいた。

「おお! この猫、いい飲みっぷりだな!」

「よし、猫も飲め!」

 二人がエリンギの杯に酒を注ぐと、エリンギは嬉しそうに飲んでいる。

「んぐんぐ……」

「エリンギ‼ なに飲んでんだよ!」

 エリンギは小声で、

「ふん、いいだろ酒ぐらい、猫が飲んで何が悪い」

 言い終わると、また飲んだ。

「悪いわ!」

「ん? どうした。猫? 猫に怒鳴りつけて」

「猫! 猫に怒鳴るつけるなら、飲め!」

 今度はオレの杯になみなみと注がれた。

「えっ? ええっ⁉」

「さあ! 飲め‼ 猫!」

 こうなったらヤケだ!

「んぐんぐ……ぷはー」

「おお! 猫達は、いい飲みっぷりだ。宇喜多殿も」

「わかった」

 八郎も優雅に飲んでいる。

「よし! 朝まで飲むぞ!」

「おおっ!」

 こうして朝まで飲んだ。

 だが、朝まで飲むと、

「うえー」

「飲みすぎたな。猫丸」

「ふにゃあ!」

 エリンギだけ顔を赤くして踊っている。

「元気だな。えりんぎは」

「そうだな」

 八郎は立ち上がり、

「私も——ととっ」

 倒れそうになった。

「八郎、ムリするなよ。オレも苦しいんだし」

「そうか。では無理は禁物だな」

 八郎は座って外を見ている。それから、しばらくすると、

「猫丸」

「ん?」

「お主は強くなったな」

 八郎は穏やかに言った。

「そうか? そんな事はないと思うぞ」

「いや、強くなった。お主は、私の見ていないところで強くなっていくのだな」

「——悪い?」

「悪くはない。むしろ、嬉しい事だ」

「嬉しいって、そんな……」

 何だか恥ずかしくなってきた。

「猫丸が強くなったのに、私が弱いままでは、いけないな」

「八郎はオレより武芸が出来るだろ」

「私はお主の飼い主なのに、猫丸を守れないなんて、それは飼い主として失格だろう」

「八郎、飼い主とか関係ない。お前の足手まといが嫌だから強くなっただけだ。それだけだ」

「——猫丸、約束だ」

「ん?」

「お互いを守るために強くなろう。私が危機に陥った時は猫丸が守り、猫丸が危機に陥った時は私が守る」

「——わかった。約束する」

「では、約束だ」

「ああ」

 そして日は経ち、

「帰るぞ、エリンギ」

「ああ」

 今日はヒマなので、大坂の町を散歩した後の帰り道に、

「猫殿」

「あ、王の兄ちゃん」

 王の兄ちゃんが話しかけてきた。

「猫殿、小早川殿から賊を追い払ったのですね」

「王の兄ちゃんまで届いていたのか」

「本日は、その事で話があるのですが」

「話って、なに?」

「ここでは何ですし、エケレンジヤに……」

 こうして、南蛮寺に行く事になった。

「猫殿、あなたは強くなったみたいですね」

「えっと、皆さんから言われています」

「そうですか……猫殿」

「なに?」

「あなたは人を殺める事出来ますか?」

「はあっ⁉ な、なに言ってんだよ! 出来る訳ないだろ!」

「出来ないのですか。本来ならば出来ない方が良いのですが」

「ですが?」

「もし、敵が貴方や宇喜多殿に危害を加える者ならば、その時、猫殿はどうするのかと思ったので、その事を伺いたいだけです」

「殺したくないに決まっているだろ! 相手にだって家族はいるんだし!」

「それならば、それで良いのです。人を殺めないで済むのなら」

「どうしたんだ。王の兄ちゃん」

「私は昔、悪行を働いたのです」

「脱税とか収賄とか?」

「何ですか? それは? そんな物ではありません」

「じゃあ、なに?」

「…………主君の殺害ですよ」

「えっ⁉」

「あの時、私は命を狙われていました。ですが、自分の身を守る以上に野心が勝っていました。そして下剋上に成功しましたが、私も死にかけました」

 王の兄ちゃんは首の傷を見せ、

「それが、この時の傷です。私はその時に神に会いました。そして信仰に目覚めたのです」

「…………」

 王の兄ちゃんはオレの手を握り、

「猫殿、この世は乱世の世です。もし汚れても貴方は傷つかないでください。この世界の者は皆、何かしらで手は汚れています」

「……オレは汚さないようにするが、もし汚れたら……」

「耐えられないのなら誰かに言いなさい。きっと、その者は猫殿の力になるでしょう」

「ああ、約束する」

 もう一つの約束が出来た。

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