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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と夢

 接待の日、当日、

「八郎、オレも直垂着るの?」

 オレは尻尾穴がある直垂を着ている。それを見たエリンギは笑いをこらえている。

「当然だ。小早川殿が猫丸を見たいと言っているのだ。直垂ぐらい着ないでどうする」

「そっか」

「猫丸、そろそろ来る頃だ」

 そうして人が来た。来たのは小早川殿、一人だけだ。

「お待ちしていました。小早川殿、不躾ですが、吉川殿は?」

 八郎、明らかに相手の方が年上なのに、堂々とした態度だ。

「彼は少し疲れてしまい、屋敷で休んでおる。(じき)に来る」

「そうですか。では、猫丸」

「は、はい!」

 なんだか緊張してきた。が、小早川殿の前に行った。

「えー。猫丸と言います。よろしくお願いします!」

 オレが縮こまっていると、小早川殿はオレの頭を撫でた。

「そんなに畏まらなくても構わん。それより、接待よりも先に猫と二人で話をしたいのだが、よろしいかね?」

「え⁉ いいけど? 八郎は?」

「承知しました」

「なら、少し借りよう。——ああ、その猫はここに置いてくれ」

「エリンギを?」

「ふにゃん(わかった)」

 エリンギは了承して、八郎の近くに来た。

「では、また後だ。猫丸」

 エリンギを抱いた八郎に見送られながら、小早川殿に連れられ外に出た。

 人気の無い大坂の郊外まで連れ出された。

「えっと、屋敷の外まで出る意味ありますか?」

「宇喜多殿に話を聞かれたくないからじゃ」

「そうですか。では、話って?」

 小早川殿は真剣な顔になり、オレに話した。

「実は近頃、奇妙な夢を見るのだ」

「ゆ、夢ですか⁉ まあ、オレも夢を見ますよ」

「どのような夢を?」

「まあ、家族の夢とか、友達の夢とか、ですね」

 ここに来てから、頻繁に見るようになった。夢を見るたびに寂しくなる。

「そうか。私は摩訶不思議な夢を見たのだ」

「摩訶不思議な夢、って?」

「ああ、それは奇妙な国だ。——その国は、夜を迎えたというのに光り輝き、大大名の姫君や豪商の娘以上に着飾った人々は外に出て夜を楽しみ遊び続け、尽きる事の無い食糧や贅を尽くした美食を提供する店もあり、店が食べ物を捨てても誰も見向きもせず、娯楽と言う娯楽、快楽と言う快楽が集まった、極楽とも地獄とも言える国だ」

「——えっ⁉」

「外に出ない者も、大きな板、または小さな板、もしくは、その間の大きさの板に夢中になり、その板の動く絵を楽しみ、板に文字を書き、その板の文字は増え続け、それを見て喜び嘆く人がいる。そして、死の恐怖に怯えず安らかに眠る」

「——なっ⁉」

「戦でもないのに多くの人を集める祭り、その祭りは芸を見るだけの為に、人は鉄で出来た巨大な鳥の中に入り、その地へ向かう。その鳥の中は菓子や飲み物を用意する親切な物で、その鳥に乗れば、朝鮮や明、天竺、果ては南蛮まで行く事が出来る」

「——はあっ⁉」

「好きな職に就き、自らの意志で結婚して、自由に信仰をして、飢えに苦しまず、死を恐れ、戦を反対し、太平の世を願う人がいる国」

「ちょ、ちょ、それ……⁉」

 それって、

「これが、私の見た夢だ。この夢をどの様に考える?」

「え、えっと……、その……」

 胸がドキドキしてきた。オレの胸元を掴むと、小早川殿はオレの顔を覗き込んだ。

「どうした? 具合でも悪いのか?」

「あっ! いえ、あ……」

 これって、これって……。

「ど、どうして、そんな夢を見たのですか⁉」

「どうして、と言われても、見てしまったのだ。この様な摩訶不思議な夢を」

「そ、そうですか……」

 でも、この夢は……。

「お、オレはその夢の国を知ってます」

 小早川殿は、その言葉に反応し、

「その国の名は?」

 真剣な口調になった。

「その国の名は、——日本と言います!」

「にほんとは、どの様に書くのだ」

「日ノ本の日と本で日本と書きます」

「日本か。そうか……」

「…………」

 しばらくすると、小早川殿はゆっくりと微笑んだ。

「すまない。その国の名を知れてよかった。猫丸」

「えっ⁉ いえ、そんな……」

「では、戻るとしよう」

「あ、はい!」

 小早川殿と一緒に帰っていると、

「猫丸」

「な、なんですか?」

「私は、君から話が聞けてよかった」

「そ、そうですか?」

 そんな会話の後、少し歩いた所で、

「⁉ 伏せろ!」

「わっ!」

 小早川殿に突き飛ばされ倒れると、

「⁉」

 オレたちが歩いていた所に、ナイフみたいな物が刺さっていた。

「これは……⁉」

ヒ首(ひしゅ)だな」

「ヒ首?」

「暗殺者が使う暗器だ」

「なんで、そんな物が⁉」

「それより、また来るぞ」

「うおっ!」

 また飛んできて、地面に突き刺さった。

「……危ね」

 今度は自分で避けた。

「誰だよ!」

「……来るぞ!」

 小早川殿の近くに、顔を隠した男がやって来た。

「悪いが死んでもらおう」

 ヒ首を投げたかもしれない男は抜刀して、小早川殿に向かってきた。

 小早川殿も抜刀して、相手を向かえる。

「ど、どうすれば……」

 足元に木の棒が落ちている。これを手に取り、

「待ちな! オレが相手になる‼」

 オレは敵に向かった。

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