謁見にて
時は、少し前の大坂城表御殿御対面所、
関白藤原秀吉と羽柴小一郎秀長が座っており、その向かいには、小早川隆景と吉川元長が座っている。
「この度は——」
「そんなに畏まらんでもよい。それより、大坂はどうじゃ?」
「大坂は、安芸には無い物ばかりで、様々な物に目が移ります」
「そうかそうか! それはよかった!」
藤原秀吉は上機嫌だが、小早川隆景は視線を下にして、
「兄は、どうしても大坂には行きたくないと——代わりに、その嫡男を連れて来たのですが……」
「まあよい。また、気が向いたらでよい!」
「はっ、ありがたきお言葉」
小早川隆景が礼をすると、話を続けた。
「大坂に行く事が可能ならば、是非、見たい物がありまして……」
「何じゃ?」
「備前の宇喜多殿が猫を飼っていると……小耳に挟んだのですが?」
「ほう! 猫に興味があるのか⁉」
「はい。是非、大坂に来た際、猫を見たいと、かねがね思っていまして」
羽柴小一郎秀長は不思議そうに、
「青灰色の猫を見たいのかい?」
「いえ、耳と尻尾が生え、左右の目の色が違う、人の姿をした猫を見たいと思い」
「……その猫かぁ」
「やはり、話の話題作りにかのう?」
「いえ、違います。話題よりも、私が純粋に興味があるだけであります」
「そう……」
羽柴小一郎秀長は扇子で顔を隠した。
「それに、会話が出来ると聞きました。よろしければ、猫と話をしてみたいと思いますが」
「猫と会話か、構わんぞ!」
「忝い」
「では、八郎にも接待をさせよう」
「——猫とどんな話がしたいの?」
羽柴小一郎秀長が尋ねると、小早川隆景は恭しく、
「まあ、ちょっとした世間話みたいな物でございます」
「そういうのだけなら、いいけどね」
羽柴小一郎秀長は扇子で顔を隠したままだが、温厚な顔の裏には、険しい雰囲気を醸し出している。
「小一郎もそんな顔をせず、さあ! 宴じゃ!」
そうして、宴が始まった。