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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と陣中

 オレは戦を見たくないので、エリンギと一緒に陣の中にいると、

「不思議な目と耳やなぁ」

「この子と子作りしたら、こんな子が生まれるかしら?」

「産まれて女の子なら、良い客寄せになるわぁ」

 などと、御陣女郎たちは目を輝かせながらオレの事を好き勝手に言っている。が、オレぐらいの子やおねーさんたちの多くは、とにかく丸出しの柔らかそうで形のいい豊かな胸や、白く艶めかしい足などを見せて、目のやり場に困る。

 オレの顔が赤くなると、

「あらー。照れてる‼」

「ウブで可愛いわ!」

「タダで遊ぼうかしら?」

 なんだか恥ずかしい。それに対して、

「ごろごろごろ……」

「見てよ。この猫ちゃん、可愛いわぁ」

「本当、大人しくて可愛い」

 エリンギのヤツ、喉を鳴らして可愛らしくしているが、ところどころスケベオヤジの顔みたいになっている。

 そうしていると足軽がやって来て、

「これ、頼むよ」

「あいよ」

 足軽が御陣女郎に、お金と一緒に渡した物は生首だ! それも、すぐに他の足軽からの生首でどんどん増えていく!

「さあて、お仕事、お仕事」

 御陣女郎は渡された生首の口を手でこじ開け、歯に黒い液を塗り、白い歯を黒色に染める。塗り終わると、これもまた手で、強引に焦点の合わない黒目を真ん中にする。そうして髪を整え、顔に白粉を塗り、また次の首に移る。

「う、うえっ!」

 それを見て、気分が悪くなっていると、

「ちょっと、あんた!」

「は、はいっ! なんでしょう⁉」

「あんた、暇なら手伝ってくれない。猫だから男とか関係無いでしょ?」

 妙齢の御陣女郎が、生首の髪の毛をつかんで、オレに見せる。

「ムリムリムリムリムリ‼」

「簡単な仕事なのに。——もしかして骸を見た事無いとか……」

「はいっ! ありません!」

 御陣女郎は口をぽかんと開けて、

「そんな子おるんやなぁ。うらやましいわぁ」

「うちら、物心ついた時から、こんな事していたからなぁ」

「私はこの仕事をするようになってから、首化粧をするようになりました」

 これが本当の戦国時代の世界だと、思うと恐ろしくなってきた。オレはここで生涯を終えなきゃいけないのかと思うと、恐ろしくなる。

「怪我人が出たぞ!」

 肩から血が出ている足軽や、足に矢が刺さっている兵たちは苦しそうに無傷の足軽に支えられて来た。

「そうか、わかった!」

 ここに残っていた具足を身に着けた男たちが反応した。

「いででで」

「キウキウ、ツウカウ、ランナウラリソコハカ」

 その男たちは怪我人に焼酎を塗りつけたり呪文らしいものを唱えたりしている。そして他には、

「ぎゃあああああ‼」

 矢を大きなペンチみたいな物で、刺さった矢を強引に抜いたことで怪我人はそのまま気絶した。

「あれは金創医と言う、外科医もどきの兵だ」

「もどきって?」

「兵士の怪我の手当てをする兵士達だ。金創医になったのは戦が怖くて安全な場所にいるためだ。これを見ろ」

「?」

 ある人を見れば、傷を洗って薬をつけている金創医らしき人もいる。

「あの様に知識がある者も居れば、民間医療や医療の真似事をしている者達もいる」

「知識があるのならいいけど、医療の真似事で効果は?」

「運任せだ」

「えええええええ!」

 そんなこんなで陣中を過ごし、牟礼城の戦いは済んだ。

 戦の後、戦場での働きを評価する首実検と言う事をするのだが、この首実検の時に少しでも評価を上げるため首化粧をするのだと、エリンギは言っていた。

 オレはこれ以上見ることがイヤなので陣の外に出て、終わるのを待っていると、

「ん?」

 近くに、鎌を持った男が周りを見渡しながら歩いている。

「なんしょん?」

 男がオレに気付くと、鎌で切り付けようとしてきた!

「うわっ!」

 間一髪のところで避けると、そいつは陣中に行こうとする。

「おい、どこに行くんだ!」

 男が陣中に行こうとした時に甲冑を着けた三十半ばの武将が出てきて、男の首を刀で綺麗に切った。

 首は血を垂らしながら落ち、無くなった首から下は血を噴き出しながら前のめりに倒れた。

 その武将は刀を拭きながら、

「この近くの百姓か。陣中に忍び込み、武具か具足か兵糧かを盗もうとしていたのか……そんな事はどうでもいい。猫よ!」

「はっ、はいっ! なんでしょうか⁉」

「そなたの声で若様の命が救われたのだ。礼を言うぞ」

「い、言われるような事では……」

 この騒ぎに若様も出てきて、

「猫丸! 怪我は⁉」

「あー。ないっすよ」

「そうか。助兵衛、お主が猫丸を助けたのか」

「いえ、若様。猫の声があったからこそ、賊から若様を助ける事が出来たのじゃ」

「助兵衛、戦が終わり次第、お主に褒美を与えよう。——猫丸!」

「な、なに?」

「お主は何が欲しい?」

 若様は優しく聞くが、

「いやー。特に何も……」

 物より帰りたい。その時エリンギが、

「ふにゃ~——」

「エリンギに水を」

「そうか、ならば猫丸の分も用意しよう。首実検が済んでからでいいか」

「あ、ああ」

「助兵衛、戻るぞ」

「はっ」

 若様と助兵衛と呼ばれた武将が去ると、エリンギが、

「金か女か酒かご馳走を頼め! 何が水だ!」

「いて!」

 エリンギが強力な猫パンチをした。

 翌朝、また次の戦のため、行進が始まった。

「また戦か……」

「四国が終われば、お主は静かな生活になる。それまでの辛抱だ」

「静かねぇ……」

 今日は移動だけで終わり、どこかの民家に泊まることにした。が、

「ひ、ひぃ~! 他の者は構いませんが、あ、あ、あの怪物だけは……」

「し、塩、塩持ってきて!」

 その民家の住人は汗をかき、オレの方を見て言っている。

「そん——」

「いいよ。オレ、外で寝るから」

「しかし……」

「もう、慣れたよ。言われるの。だからオレ、外で寝るよ」

「……」

「若様、さあ」

 こうして、オレは一人で野宿になった。もう、野宿も慣れているのが悲しい。

 そういえば、エリンギは……中か、

「!」

 足音がして、オレの目の前に数人の男が!

「ひっひっひっひっひっ」

「へへへへへ」

「身ぐるみ全部よこしな」

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