猫と説教集会
翌日、オレは一人で屋敷に向かった。
「南蛮寺は一回行ったけど、王の兄ちゃんの屋敷に行くのは初めてだもんなー」
屋敷に着くと、侍女らしき人が迎えてくれて、その侍女の案内で一室に通された。
「王の兄ちゃん! 来たよー! 八郎は来れないけど!」
「そうですか。わかりました」
部屋には、王の兄ちゃん以外にも二人いる。
「来たか」
「猫さん! 堺以来やな」
「弥九郎さん! と、黒田官兵衛さんですね? 四国におった」
「そうじゃが? どうかしたのか?」
「黒田官兵衛さんはどうして?」
「儂も吉利支丹じゃ。説教集会に来て、何がおかしい?」
「おかしくはないですけど、そうなんですか?」
「ドン・シメオンと洗礼名もある。最近、吉利支丹になったのだが」
「へー」
「他にも何人かおるんやけど、皆さん、出仕しておりますからなぁ。まあ、あっても儂はこっちを優先しますけど」
弥九郎さんが嬉しそうに言うと、王の兄ちゃんは少し呆れて、
「貴方も出仕はしなさい。では、始めましょうか」
こうして、説教集会は始まった。
説教集会中、
(それにしても、ついつい聴き入ってしまうな。顔は高槻市のラッパーなのに)
あっという間に説教集会は終わってしまった。
「本日はここまで……。では、また次、会いましょう」
「また今度やな」
「そうか」
「じゃあ、オレも——」
オレが二人と一緒に帰ろうとすると、
「猫殿、少し話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
王の兄ちゃんに止められた。
「えっ⁉」
茶の湯⁉
「茶の湯ではありません。世間話です」
「茶の湯じゃないのかー」
安心した。けど、わかるな。
二人は帰り、部屋はオレと王の兄ちゃんの二人だけになった。
「どうぞ」
「あっ、どうも……」
オレの目の前に、カステラとお茶を出してくれた。
「猫殿」
「あ、はい。何でしょう?」
「あの、まかろんと言う菓子は美味しかったですよ。あの菓子は、後の世の菓子ですか?」
「えっと、まあ、はい……」
後でエリンギに聞いたが、マカロンの原型自体は八世紀に出来ているみたいだ。
「そうですか。猫殿、後の世はどうなっていますか?」
「えっと……」
オレは王の兄ちゃんに現代を教えた。現代で流行っている物や、人、歌、どんな建物があるのか、全ては教えてないが、八郎よりも多くの事を教えた。
「——猫殿の世の文化は、私達の世とは違いますね」
「まあ、違うわな」
「猫殿の世は平和な国、では信仰はどうなっています?」
「へ?」
「南蛮宗を信仰とかは?」
「えーと、自由に思い思いの信仰をしています。していない人もいれば、王の兄ちゃんが信仰している南蛮宗を信仰している人もいますよ」
「…………そうですか」
「オレの国は平和でも国を離れれば戦をしている国もあります」
「人がいる限り、戦は無くならないか」
「……そうですね」
「今も昔も後の世も同じか……」
「…………」
王の兄ちゃんは戦、したくないのか?
「猫殿、悲しんでも仕方がありません。かすていらをどうぞ」
「あ! そうだな」
オレがお茶を飲みながら、カステラに手を伸ばそうとすると、
「猫殿、聞きたい事があります」
「なに?」
「本日こそ、教えてください。何故、私に後の世であると者であると教え、何故、私を王と呼ぶ——」
「ぶっ‼」
飲んでいたお茶を吐き出してしまった。
「ど、どうしました⁉」
「いや……その…………えっと……」
「言えないのなら、言えな——」
この際だ‼
「実は、現代に兄ちゃんとそっくりな人がいるんです。だから、教える事も出来たんです」
「わ、私にですか⁉」
「はい。兄ちゃんの言葉で王と呼ばれていて、芸能の仕事をしているんです」
「——私と同じ姿形をしている者が芸能をしているとは……。どのような芸を見せるのです?」
「歌だけど……」
「どのような歌を? 聖歌ですか?」
「歌えません! 後、聖歌では、ありません!」
ホントはスマホに入ってるけど、
「それでは、何を信仰しているのです?」
「わかりません‼」
「デウス様を信仰してくだされば、嬉しいのですが」
「……」
「猫殿、猫殿の世の話が聞けて楽しかったです」
「いえいえ~。オレの話で良ければ」
王の兄ちゃんは部屋にあった本を持ってきて、
「猫殿、これを」
王の兄ちゃんは本を渡してくれた。
「これは?」
「どちりいなきりしたんと言う、南蛮宗の本です。これを読み、神の教えを学びなさい」
「はあ……」
兄ちゃんも勉強ね。
「それと、猫殿」
「何ですかあ?」
「実は近々、茶会がありまして——」
「えっ⁉」
やっぱり、あるんかーい‼
「猫殿も参加しても良いとの事で、猫殿も、と思って」
「ええっ⁉ オレも⁉」
「はい」
「でもなー」
面倒なんだよなー。
「猫殿も茶会に触れるいい機会かと思い……」
「緊張する事は苦手だからなー」
「猫殿だけではありません。私も緊張します」
「そうなの?」
「緊張すると言う理由だけで、茶の湯を断ってはいけません。当主の心配りを無駄にしてはならないのです」
「……わかった。行くよ」
王の兄ちゃんは嬉しそうに、
「ならば、そう伝えましょう。日は後日、教えます」
「ところで兄ちゃん。誰の茶会に行くの? 宗易さん?」
「いえ、違います。今回の茶会は——」




