猫とマカロン
午後、お豪ちゃんと八郎とエリンギで音楽を聴く事にした。
「この歌、すごい早口で歌っているな」
「本当、こんなに早く歌うお人がいるなんて」
お豪ちゃんと八郎が人だと思って聞いているので、オレが、
「これ、人じゃないんだよ」
「人ではない? 人ではなければ何だ⁉」
人じゃないと言うと、八郎は食いついて来た。
「えーと、パソコンで——」
「ぱそこん? ぱそこんとは何だ?」
「まあ、自分で作って歌っているんだよ」
「これも作る事が出来るのか」
「すごいでする! 猫様!」
二人は感心している。
「だが、猫丸、私の耳ではこの歌は聞き取れないな」
「まあ、聞き取れない人は聞き取れないから、そう気にしなくてもいいよ」
「ところで、猫丸」
「うん?」
「まかろんとは何だ?」「まかろんって何でする?」
「えっ⁉」
「この歌はまかろん食べたいと言っていた。まかろんは食べ物か?」
マカロンは聞き取れたんだ。二人とも。
「まかろんって食べ物ならば、食べてみたいです!」
「そんなこと、言われても……」
オレが困っていると、
「猫‼ まかろんとやらを作るのじゃ!」
「うわっ‼ 上様!」「父上!」「ととさま!」
お豪ちゃんの部屋のふすまが開き、上様が現れた。
「作るのじゃ! 材料や道具、料理人などは、こちでかき集める!」
「で、でも……オレ、料理なんて……」
上様は刀をオレの首に突き付けて、
「作るのじゃ! さもないと次こそ——」
「つ、つつ作ります! 作りますから~!」
こうしてマカロンを作る事になった。
「何だかすまないな。猫丸」
「いや、いいよ。八郎、気にするな」
とは言え、材料や作り方はわからない。
オレの身近でマカロンを知ってそうなのは……。
「マカロンの材料と作り方を教えてくれ‼ エリンギ!」
机の上に座っているエリンギに土下座をした。
「知っているが、その態度は猫に物を頼む態度か?」
「では、エリンギ様! マカロンの材料と作り方を教えてくださいませ‼」
「いや、まだだな」
「と、言うと?」
「麗しき貴公子エンリケ様と呼べ!」
エリンギは顎を高く上げて言った。
「いい加減にしろ! なんだよ、麗しき貴公子って⁉ お前、そんなガラか⁉」
「ふん、いいだろ事実を言っただけだ。では、最低限のマカロンの材料と作り方はこうだ」
エリンギは紙に文字を書いた。スパルタな勉強で多少は読めるようになっているので、読める範囲で読んだ。
「出来たぞ」
オレが紙に書かれた内容を見ると、マカロンの材料と作り方だ。
これを八郎に見せた。
「成程、まかろんの作り方か」
「ああ」
「だが、卵を使うのか……」
「それが、どうしたんだ?」
八郎が視線をそらしたので聞くと、八郎はため息をつき、
「卵は食べないが——」
「食べないのか⁉」
食べないって事は、釜玉や半熟卵の天ぷらとかはー‼ と心の中で叫んでいると、八郎がオレの肩に手を乗せ、
「——待て、猫丸。伴天連や吉利支丹は卵を使った菓子を作る」
「あ、そうなの」
「後、この扁桃の粉末は……あるのか?」
「わかんね」
「……父上から小西殿に聞いてみる事にしよう。後、猫丸、硝石がいるのか?」
「ああ、これを使えば冷やす事が出来るって、冷凍庫の代用だってさ。後、オーブンを使いたいから、吉利支丹の所に行って、相談したいけど……」
「そうか。用意は出来る。おーぶんとやらも、父上に聞いてみよう」
「悪いな。八郎」
「構わない。お豪も楽しみにしているのだ。——ちなみに父上もだ」
「上様もかよ! だから、あんなに」
「とにかく、これを父上に見せよう」
こうして、マカロン作りが始まった。
後日、マカロンが完成した。
「成程、これがまかろんか」
「まあ、何て美味しいのでしょう!」
「しかし、多くは食えんのう」
久しぶりの甘くて濃厚なマカロンの味だ。なんだか嬉しい。
「だけど……作りすぎじゃないですか?」
オレたちの目の前には、マカロンが山ほどある。大名たちに配っても、まだ残っている。
「そうじゃな。町の者達にも配るか」
「と、言う訳で猫丸」
「えっ⁉」
数分後、
「そこのおにーさん! どうぞ! お菓子だよ! 坊やにも、はいっ!」
「あま~い!」
「こんな菓子は初めてじゃ」
オレ一人で大坂の城下町を回って配ることになった。
「どうぞ!」
「いかが?」
そして夜、
「帰って来たぞ~」
直で宇喜多屋敷に戻った。
「猫丸、ご苦労だった。夕餉がある」
「おお! 晩飯‼」
目の前には、豪華な夕飯がある。オレが食べようとすると、八郎が止めた。
「猫丸、夕餉の前に伝言がある」
「えっ⁉ 誰から?」
「高山殿からだ」
「王の兄ちゃんから⁉ なにっ⁉」
「明日、説教集会を行うので時間が許すのならば来てほしい、と」
明日は……なにもない。
「そうだ。八郎は?」
「その日は出仕しなくてはならない。猫丸、すまないが一人で行ってくれないか?」
「わかった。そうする。あ——」
「続きがあった。猫殿の猫は連れて来なくてもいい、と」
オレが聞こうとした事を八郎は先に言った。
「エリンギはいいのか?」
エリンギはそっぽを向いた。
「もしかしたら、茶の湯があるかもしれないぞ」
「マジか⁉」
「それはわからない。推測だ」
「どうしよう……」
急に緊張してきた。