猫と木刀
武芸の訓練をしていた、ある日の事、
「とおー!」
「はっ!」
オレの一撃が左衛門さんの腹に当たった。
「最初の一発で当てるとは、成長したな! 用意してよかったぜ! ほらよ!」
「わわっ! これは?」
左衛門さんが投げた物をキャッチして見ると、それは木刀だ。
「今から、刀で戦う鍛錬をする!」
「はい!」
「刀も使えないとな」
「そうですね!」
「では、行くぞ‼」
「お願いします‼」
初めて刀を使うが、槍の練習の成果があったのか、思ったより速く避け攻撃が出来る。だけど、左衛門さんもオレの動きを見抜いているようで、簡単に避けている。
「よっと」
「いで!」
オレの頭に木刀が直撃した。
その後も、
「いってえー」
「おお! やってるな」
「虎之助! 来たのか⁉」
声が聞こえたので、見ると加藤殿が立っていた。が、気になる事が、
「あのー? 加藤殿、謹慎は?」
「もう解けた! が、あれと同じ日に、と言うのが納得いかねぇだけだ」
「ああ……」
あの人と一緒か……。
「それより、猫、武芸の訓練をしているんだろう?」
「あ、はい。しています」
オレの返事を聞いた加藤殿は嬉しそうに、
「俺もまぜろ。武芸は大人数で訓練するもんだ」
「そうなんですか?」
「——まあ、敵味方入り乱れて戦うからな。そうするぞ」
「わかりました」
こうして、二対一で戦うことになった。
「オラオラ!」
「はあっ!」
「わわっ!」
左衛門さんだけなら、なんとかなっていたが、加藤殿と一緒だと、避けて防ぐので精一杯だ。
「猫! どうした!」
「二人がかりでは厳しいか?」
「くっ!」
確かに厳しいけど、これが出来なきゃ、何も出来ないヤツのままだ!
「はあー!」
向かったが、
「「でぇい!」」
頭と腹に激痛がして、それと同時に意識を失った。
「……ん?」
気がつけば、木の下で横になっていて、左衛門さんと加藤殿が横になったオレを見ている。
「気がついたか?」
「あ……はい……」
「少し強かったみたいだな。悪ぃ」
「い、いえ……それより! 練し——いたた……」
まだ、頭と腹が痛い。
「おいおい、もう少し休むぞ。それからでもいいだろう」
「わかりました。では」
今回はオレの体に気を遣ってくれたのか、左衛門さんは酒ではなく白湯を出してくれた。
「猫、本来なら真剣ぐらい使いたいのだが……」
「いやいやいやいや! それは使わないでくださいよ!」
「昔、教えてくれた人は何も巻かない槍で教えたのだが……」
「死にますよ!」
よく生きていられましたね!
「お主が守りたいのは、宇喜多殿だけか?」
加藤殿は酒を少し飲みながら、オレを見ている。
「! 八郎だけではないです。オレのせいで死んだ人や傷ついた人がいます。そういう人たちを増やしたくないのです」
加藤殿は木刀をオレに向けた。
「ならば、死ぬ気で行け。死ぬ気で行かないと自分どころか、誰も助けられない」
「——はい」
「では、休憩は終わりだ。行くぞ」
「はい!」
また打ち合いをした。今度は少し攻撃が出来るようになった。
「やるじゃねぇか! 猫!」
「その調子だ」
「はあー!」
とにかく練習をした。夕方になる頃には、
「たあっ!」
「⁉」
左衛門さんの脇腹に当てた。
「やるな! だが——」
「とお!」
「いでっ!」
オレの肩に加藤殿の木刀が当たった。
「まだまだだな。だが、よくぞここまで強くなったな」
「そ、そんな……まだまだですよ……」
「今日は、ここまでだな」
「ありがとうございました!」
オレが一礼をすると、左衛門さんは、
「猫、明日は俺ら、大坂城に行かなくてはならない。明日は自分で練習してくれないか?」
「わかりました!」
オレが左衛門さんの屋敷から出る時、加藤殿が話しかけて来た。
「猫、少しの間、一緒に帰らねえか?」
「いいですよ」
オレは加藤殿と短い時間だが、一緒に帰る事になった。
「加藤殿は真剣ぐらい使いたいと言いましたけど」
「けど、何だぁ?」
「加藤殿、なぜ使わなかったのですか? オレが初心者だからですか?」
加藤殿は視線をそらしてから、
「そういうんじゃねぇ。俺が太刀とか使うと歯止めがきかなくなるからさ」
「えっ⁉」
「俺が何処まで暴れるかわからねぇ。わからねえから、太刀とか使いたくねえだけだ」
「そうですか。じゃあ、弥九郎さんには?」
加藤殿は目を輝かせながら、
「あれは殺すしかない」
「……虎之助さん」
そうして、虎之助さんと別れて宇喜多屋敷に帰った。
「はあー。疲れた。明日は自主トレだ」
オレが剣術の練習をしていると、足元にエリンギがやって来た。
「ふん。よくやるな、バカ猫」
「やるに決まってるだろ。そうしないと強くならないし」
エリンギと話していると、八郎がやって来た。
「猫丸、お主に用がある」
「なに? 八郎?」
「今、石田殿が来た。どうやら、お主に用があるみたいだ」
「オレに? なに?」
八郎に呼ばれると、目の前には石田殿がいた。
「……馬鹿猫」
石田殿は腕を組んで、目を細めてオレを見つめている。
「な、なんですか⁉」
「明日、私の屋敷で学問を教える」
「へっ⁉」
オレが驚いていると、石田殿は話を続けた。
「汝には学と教養が無いからだ。そんな怪物を上様に近づける事が出来るか」
「まあ、中学生だけど、頭の中は小学生レベルですし」
石田殿は呆れて、
「何だそれは? とにかく汝に学問を教える。私の屋敷に来い」
「なんでこんな時に左衛門さん仕事なのー⁉」
すると八郎が小声で、
「猫丸、石田殿なら強引に明日は学ぶ事をすると思うぞ」
「えー‼ 勘弁してよ!」
「後、馬鹿猫」
石田殿の表情は変わらないが、声は嬉しそうだ。
「なんですか?」
オレは落ち込んでいると、石田殿の嬉しそうな声のまま、
「その猫も連れて来い」