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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と行進

 次の城までの間の行進は、オレたちの前は鉄砲や槍や弓や旗を持っている人たちがいて、後ろは荷物を持っている人たちで出来ている。オレは馬に乗った若様の横で歩いていると、若様はオレに質問ばかりしてくる。

「猫丸。猫丸は幾つだ?」

「オレの歳? 十三歳だけど、早生まれだからな」

「早生まれ? 何だ、それは?」

「一月一日から四月一日に生まれた人のことだ」

「……私達は数え年で考える。生まれたら、その時点で一歳、そして次の正月で二歳となるのだ。猫丸の国は生まれた日に年を取るのだな」

「まあ、そうだけど。じゃあ、お前はいくつだ?」

「十四だ」

「って事は、やっぱタメか!」

 で、この年で殿かよ!

「猫丸の仕事は、何かあるのか?」

「中学生。学校に行って、部活しているぐらいだ」

「学校? 学校とは足利学校か⁉」

「ちーがーう! 高松中学校だよ! そんな名前じゃない!」

「そ、そうか……。違うのか……」

 なぜか若様は頭を垂れて、わかりやすくがっかりしている。するとエリンギがオレの右肩に飛び移り、左肩に前足を移して、

「足利学校とは、一通りの軍学を学んだ優秀な軍師を育て、卒業すれば引く手あまたで大名に採用されるのだ。お前みたいなヤツに、わかりやすく言えば東大みたいな物だ」

「す、すげぇな!」

 ——それにしても、

「若様、甲冑とかは身に着けないのか?」

 若様の衣装は早朝に会った時のままだ。

「当然だ。具足を全て身に纏っていては、動きづらく体力を無駄に使ってしまうではないか」

「そっか。それに……」

「それに?」

「その馬なんだよ! 小さいじゃねーか‼」

 若様が乗っている馬は着飾っていても、ずんぐりむっくりしたポニーみたいでサラブレットとか言う馬ではない。どうせなら、そっちの方が似合っているのに。

「小さい? そうか? 四国の馬は私が乗っている馬より小さいぞ」

「えっ⁉ そうなの⁉」

「この馬の気性は荒いが、力があり山道でも歩く事が出来るからな。荷物運びや移動には欠かせない」

「でもなあ……」

 お前には似合わねえよ。

「それにしても、行けども行けども荒野だな」

 村らしきところがあるが、その建物はすべて焼け焦げて廃屋になった家や、どうしようもなく荒れた田畑が広がっている。

「四国は二十年ぐらい戦乱が続いたからな」

 昔の香川県も町並みもなく野原だったのかと、考えていると、

「あっ……」

 どこからか、かすかな声が聞こえた。泣くような声が、

「どうした? 猫丸?」

 その声の出どころを見つけると、痩せた野良犬が何かを貪り食べている。

「な、なんだよ……」

 野良犬が食べていた物をよく見ると、へその緒が付いた赤ん坊だ。いや、赤ん坊らしき物だ。らしき物は、はらわたも出て骨が見えるのに、かすかな声を出し手足をわずかに動かしている。

「や、やめ……。うわぁっ⁉」

 赤ん坊に駆け寄ろうとしたが、エリンギがオレの足元に出てきて転ばされた。

「い、いてて……。何するんだよ‼」

 エリンギがオレの耳元で何かを言うより先に若様が、

「猫丸、何処に行く気だ?」

「あの、赤ん坊を助けに……」

「猫丸、あの赤ん坊は助からない」

「そ、そんなこと!」

 オレの耳元でエリンギがささやいた。

「お前の時代では生きる事が当然だが、この時代は死ぬ事が当然の世界だ。そんな世界でお前のような世間知らずの甘ちゃんの考えでは、この世界ですぐに死んでしまうぞ」

「……でも」

「猫丸、あそこまで喰われてしまっては手の施しようが無い。それどころか、お主を襲ってくるかもしれない」

「…………」

「捨てた親も捨てた親で、様々な事情があるのだろう。捨てた者を責めてはいけない」

「……」

「行くぞ」

 何もできずに、行進の列の中に混ざって歩いた。

「さて、そろそろ牟礼城だ」

 砦らしき物が見えてくると、若様以下半分の人数が甲冑や具足を身に着けた。

 そして、もう半分が手際よく陣を作り始めた。

 それにしても、牟礼に城ってあったっけ? まあ、いいや。

「はあ~」

「どうした? バカ猫?」

 オレがため息をつくと、エリンギがやって来た。

「いや~。甲冑を着けない人もいるんだな~。って」

「食糧を調達する者や、食事を作る者や、軍需品を調達する者や、陣地を作る者や、槍、弓、鉄砲をそれぞれ持つ者や、大将の甲冑を管理する者や、下級武士の具足の管理や、違反を取り締まる者や、大将の言葉を代筆する者など、多くの非戦闘員がいる」

「そんなにいるのか‼」

 瞬く間に陣も完成し戦闘の準備が出来て、いよいよ戦か。そう思うとイヤな気分だ。

 そんな時、

「来たわよ~」

 ハデな着物や無地の着物に、ケバい化粧の妖しい色気を醸し出すおねーさんから、年端もいかない少女の集団が現れた。

 その女性は着物を足どころか胸も露わにして現れ、陣の近くでムシロを使って小屋を作っている。

「な、な、なんですか? この人たち?」

「ああ、この者達は御陣女郎(ごじんじょろう)だ。私が呼んだのだ」

「御陣女郎?」

「陣で春を売る女性達の事だ」

「春って?」

 エリンギが肩に乗り嬉しそうに小声で、

「お子様だな。エッチをして金を貰う事だ」

「ええええええ! ななななな、なんで、そんな人たちが⁉」

「猫丸、彼女等の仕事はそれだけでは無い。まあ、見ているのだ」

「見ているのだって?」

 オレはこのおねーさんたちの副業に絶叫する事になるとは……。

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