猫と鍛錬
オレは朝食を食べ終え、ある人の屋敷に行く。
「おし! 来たぞ!」
屋敷に入って、あいさつをする。
「福島殿! おはようございます!」
「ん? どうした? 猫?」
オレは目の前で土下座をして、
「福島殿! オレに武芸を教えてくれませんか!」
「何故だ?」
福島殿の目は不思議そうだが、口元は嬉しそうに笑っている。
「福島殿、オレは強くなりたいのです!」
福島殿は上機嫌になり、オレの頭を撫で、
「強く? そうか! 強くなって手柄を取りたいのか!」
「いえ、違います。強くなって八郎を守りたいのです!」
「宇喜多殿を?」
「はい! 今まで守られてばかりで、オレは八郎を危機に追いやってしまって、そんなオレだからこそ、八郎を守るため強くなりたいのです!」
さっきまでの上機嫌さではなく、真剣な眼差しで、
「……そうか。宇喜多殿を守るためか」
「はい!」
「——ならば、教えよう」
「本当ですか!」
「ああ、来い」
オレは福島殿について行く事にした。
庭に出た福島殿は、
「これを持て」
オレに先に布で巻いた槍を渡した。
「槍、ですか?」
「ああ、戦で一番使う武具だからな。槍が使いこなせれば、刀や火縄銃の使い方も教える」
「そういえば、足軽は戦う時に槍を使っていましたね」
オレが槍を持つと、
「違うな、猫」
「えっ?」
「左手と右手が逆だ」
右手が前で左手が後ろに持っていると注意された。
「そうですか」
「正しくは、左手が前で右手が後ろだ。猫の持ち方だと、腰に差している刀にあたる。後、槍は柔らかく持て、強く持つと体力を消耗する」
「わかりました」
言われた通りに持つと、
「そうだ。それでいい。——行くぞ!」
「ええ! ちょっと!」
槍も満足に使えないのに、持ち方だけで、いきなり実践に入った。
「えっ! あっ! ちょっと!」
オレは避けるだけで精一杯だ。だが、福島殿は攻撃を続ける。
「ちょっ! なんか厳しいですよ! うわ!」
槍がオレの胸に当たり倒れたが、福島殿は怖い目で、オレを睨み、
「何しているんだ! 立て!」
大声で怒鳴った。
「は、はい!」
オレが立ち上がると、福島殿はいきなり攻撃してきた。
「ああ! ちょっと! うわっ!」
今度は槍が腹部に当たり、また倒れた。
「いってえ! ホント、きついっすよ!」
「当たり前だ。このくらいでないとどうする。首級を取るだけなら甘いが、人を守るのなら厳しくしないといけないだろ」
「何でですか?」
福島殿の目には、怖さは無く、真剣な目だ。
「猫、お主が戦う相手も守りたい者がいるからだ。お主が宇喜多殿を守るように、相手にも守りたい者がいるからだ」
「左衛門さん……わかりました、行きます」
「いい目になったな。猫、その調子だ」
「はい!」
オレは左衛門さん相手に、ひたすら打ち合いをした。
そして、夕方になり、
「猫、避けるだけなら上手くなったじゃないか」
「そ、そうですか……」
「だが、ここからだぞ、猫。俺は明日も、お主を攻撃する」
「わ、わかりました……」
「覚悟は決めておけ」
「は、はい!」
オレは力を振り絞って言った。
そして、明日。
「左衛門さん! 来ました!」
「よし! 来たか! 行くぞ!」
「はい!」
夕方、
「今日はここまでだ。猫、昨日より速く避ける事が出来たな」
「え? 速いですか?」
「ああ、一日で成果が出るな。明日が楽しみだ」
「では、明日!」
そして翌日、
「猫、今日こそは攻撃しろ」
「はい!」
「ああ、どこでもいいから、俺に当ててみろ」
「では、当ててみせます!」
左衛門さんに攻撃するが、ちっとも当たらない。
「たあ!」
「甘いな」
槍が頭の上に振り落とされた。
「いで!」
「次!」
「左衛門さん! 待って!」
「どうした?」
「武芸って、持ち方だけで、技とか教えないのですか?」
「技? ああ、教えようと思えば出来る。だが」
「だが?」
「中途半端な腕前の武芸なら戦とかでは勝てない、それどころか死んでしまう。命がけの戦いになると技もへったくれもない。敵も卑怯な手段を使ってくる」
「……見たけど、皆、戦いが違いました」
「今は俺に当てる事だけを考えろ。そうする事で上達する」
「……はい!」
何度も練習した。
夕方になり、
「はっ!」
「!」
やっと、肩に一発当たった。
「よくやった。猫、やるじゃないか」
「ニャハハハ…………やった……」
「一発で俺に当てたら、次は刀の稽古だ」
「わかりました。では、また明日」
オレは宇喜多屋敷に戻った。
「帰ってきたぞー!」
「あっ、猫丸……⁉ な、何だ⁉ 疑問に思っていたが、その痣は⁉ 誰かにいじめられたのか⁉」
オレの体が痛いのは、全身アザだらけだからか。
「違うって、ちょっと左衛門さんと武芸の練習をしたからだ」
「ほう! 猫も武芸を覚えるのか!」
「おおっ! 上様」
八郎の部屋に上様が座って、オレを見て笑っている。
「そういえば言っていなかったな。今、父上が遊びに来たのだ」
「感心じゃ! そうじゃ! 明日、皆を誘って有馬に行かんか?」
「有馬?」
エリンギがこっそり近寄って、
「有馬温泉の事だ」
「湯治に行くのですか?」
「ちょうど、湯治に行きたいと思っていたのじゃ! 今から皆に伝えるのじゃ!」
「はっ!」
近習が出て行きかけると、
「あ、待て、夜叉丸と弥九郎には言うな。あ奴らは謹慎の身じゃからな」
「承知しました」
近習は出て行った。
「猫丸、明日は湯治だ」
「でも、練習……」
オレが困っていると、上様は上機嫌に、
「帰ってからすればよい! 市松も誘うからのう」
上様も八郎も嬉しそうだ。だけど、一番喜んでいるのは、
「にゃんにゃんにゃーん(女湯女湯女湯)!」