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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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茶会にて

 田中宗易の屋敷内の茶室にて、

「……どうでしたか?」

「……」

 茶の湯を楽しむ二人の男、田中宗易と高山右近である。

「猫殿は恥ずかしくない振る舞いでしたか?」

「猫丸殿は緊張していたが、所作には障りない」

「そうですか……」

「お主が教えたのだろう。ならば出来る当然だ」

「もったいないお言葉……。アウグスティヌスから堺の話が出た時に、茶の湯の話を聞いていなければ、想像するだけでも……」

「わざわざ書まで送って、猫殿に間違いがあれば、その時は……。なぞと、書きおって」

「初めの時の猫殿は……いえ、何でも……」

「今後、猫丸殿に茶の湯を教える気か? 右近」

「勿論、そのつもりです。師匠」

「そうか、猫丸殿はお主の弟子になるのだな。ならば、猫丸殿が点てた茶も飲める日が来るのを楽しみにしよう」

「はっ」

 一方、大坂城山里曲輪の茶室にて、

「今回の件は大儀であった」

「二人には悪い事をしてしもうたけど」

 ここでも、茶の湯を楽しむ二人の男、関白藤原秀吉と小西弥九郎行長だ。

「南蛮人の水夫が連続して行方不明になる一件、そして、堺で起きた妊婦が失踪する一件は全て、あの男が犯人の様です」

「ああ、拷問する前に一部始終白状した様子じゃ」

「弟から聞いた猫さんの体に関する悪質な噂も彼奴の仕業であると」

「……そうか、後で事実無根であると言わなければ」

「そうせんと、第二、第三の行方不明者が増えるでしょう」

「しかし弥九郎、二人を危険な目に遭わすとはな」

「それは悪いと思いますわ。——そうせんと、敵の居所が分からんもんで、その為、儂は二人だけにして隠れて尾行した訳です」

「八郎と猫を囮にした訳か……。そういう事はあまりさせるな」

 藤原秀吉の口元は笑っているが目は笑っていない。

「次から、囮になってもらう時は、猫さんの許可を貰いますわ。貰えるんやったら、やけど」

「——それにしても、堺政所は何をしていたのじゃ!」

 五日前、藤原秀吉と羽柴小一郎秀長と田中宗易との茶会にて、

『実は堺で妊婦が連続して失踪する騒ぎが起きたのだ』

『何かあったのかい? 勾引(かどわかし)でも?』

『それは何ともいえません、ですが全てに失踪する理由が無いのは確か』

『それは、おかしいのう』

『そして最近、大坂や京と堺に、闇で人由来の生薬が出回っていると、そして猫丸殿の耳や目に尻尾は不老不死や若返り、不治の病を治す物である噂を耳にしました』

『へぇ……。そんな噂が』

『まったく、何処からじゃ!』

『出どころはわかりません。その噂の事や妊婦の失踪について堺政所に相談したのだが、良い返事は貰っていないので……』

『……成程』

『小一郎、見せてやれ。それならば、猫は最適じゃろう』

 五日前に、この様な出来事が起こっていた事に対して、

「で、それで、儂が上様の茶会に呼ばれて」

 田中宗易の茶会の後、山里曲輪の茶室にて、

『いったい、何の用ですか? 上様?』

 小西弥九郎行長は、藤原秀吉の茶会に呼ばれたのだ。

『弥九郎、たいした事ではない。明後日、堺の町で猫を見世物にするのを手伝ってくれんか?』

『何でまた四国で見かけた猫を?』

『一つは、堺で妊婦が連続で失踪する騒動があったのじゃ。二つ目は猫の体は不老不死の薬になるとの事じゃ』

『二つとも、弟から聞いた噂ですね。それならば、儂からも一つ』

『何かあったのか?』

『実は、堺で南蛮人の水夫が行方不明になると、その様な話があったのです』

『何じゃと!』

『それも、青い目や緑色の目の南蛮人ばかりが、それが耳に入ったのです』

『ほ、本当か⁉』

『はい、堺政所に相談したが、一切相手にもしてくれないので伴天連から、吉利支丹でもあり船奉行である儂に話が来たという訳です』

『何じゃそれは!』

『堺政所が役に立たない以上は、儂の方で調べさせてくれまへんか? 上様? 海を守る船奉行として無視は出来まへん』

『……いいだろう』

 そして現在、

「堺政所の宮内卿法印(くないきょうほういん)は、あの薬屋の男に買収されていた様です。薬屋も認め、買収で手に入れた茶器も見つかりました」

「堺政所は金で見て見ぬふりをしていた訳か!」

「そうみたいですね」

「許さん! 堺政所は——」

 関白藤原秀吉は堺政所の処置を言った。

「まあ、その方がいいと思います。ああ、後」

「何じゃ?」

「手柄は全て、宇喜多殿と猫さんに」

 そうして、二か所の茶会は過ぎていくのであった。

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