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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と土産

「ん……」

「気がついたか! 猫丸!」

「ふにゃ!」

「八郎……。エリンギ……。ここは?」

 見た事ある部屋だ。確か……。

「宗易殿の屋敷だ。食事をしたら帰るぞ」

「あー。どうりで……ところで弥九郎さんは?」

「小西殿は先に大坂に戻ると、言っていた。帰りは我々だけで帰る事になる」

「そっか、じゃあ……ん?」

「どうした?」

「そういえば、着物は?」

 オレの着物が普段の着物ではなく、小袖になっている。

「ああ、猫丸が倒れた時に、小西殿が抱えて運んだのだ。その時に猫丸の着物に返り血が付いてしまったので、新しい着物にしたのだ」

「ぎゃああああああ!」

 出された朝食を食べ終わると、宗易さんが見送りで出て来てくれた。

「そなたらのおかげだ。礼を言う」

「いや、別に何も……」

「それなら、小西殿に」

 二人と一匹での堺の帰り道に立ち止まり、ふと思った事がある。

「そういえば、お豪ちゃんに、お土産買わなくてもいいのかな?」

「よくないだろう。お豪の為に何か買うぞ」

 近くには扇子や櫛などが売っている店がある。その内の一つに鏡を扱っている店がある。

「八郎、これはどうだ?」

「鏡か……いいかもしれないな」

「そうと決まれば、これはどうだ!」

 オレは花が彫られた手鏡を選んだが、八郎は、

「いや、これの方が良いのでは?」

 八郎は異国情緒漂う文様が刻まれた手鏡を選んだ。

「えー、オレが選んだ手鏡だろ」

「私の選んだ方が喜ぶ」

「オレの方がもっと喜ぶ」

「私の方だ!」

「オレだ‼」

「私だ‼」

「「うう~~~‼」」

「とにかくこっちだ!」

「いいや! こっちだ!」

「八郎! こっちが喜ぶ!」

「猫丸! こっちだ!」

「お豪ちゃんには、この手鏡が似合う!」

「お豪の気持ちは私がよく知っている!」

「八郎‼」

「猫丸‼」

「こっちにしろ‼」「これにするのだ‼」

「ふにゃん!」

 オレたちが見ると、エリンギが西洋の幸せそうな家族の絵が描かれた手鏡を指さした。

「エリンギ!」

「もしかして、えりんぎはこれを?」

「ふにゃあん(そうだ)‼」

「「……」」

「これにしよう。猫丸」

「ああ、そうだな」

 結局、エリンギが選んだ手鏡になった。

 堺から離れ、道に出ると、

「これで、お土産は決まったな」

「ああ」

「それにしても……」

「どうした? 猫丸?」

「堺は目まぐるしく終わったな、って」

「そうだな。もう少し——」

「ただ、見世物かと思えば、ひったくり捕まえて、薬の材料になりかけて、また、お前に迷惑かけて、弥九郎さんに助けてもらって、短いのに色々あったから」

「確かに色々あった。が、私は嫌ではない。お主がいたから、私は様々な事を知った。それは猫丸だからこそ得られる事だ」

「八郎」

 ここに来て、まだ慣れない事もあるけど、ここまでやっていけたのは、皆が助けてくれたからだ。

 現代とは違う、けど、人を思う心は同じだ。その心があれば、どんな時代でもオレは生きていける。

「猫丸、大坂に着いたぞ!」

「おお!」

 変わらない大坂の町、町人は相変わらず多い。

 だけど、帰って来たという安心感に包まれている。

「屋敷に戻る前に、大坂城に行くぞ。お豪にお土産を渡さないと」

「ああ! 行くぞ!」

 大坂城奥御殿にて、

「まあ! 素敵な手鏡! お兄様が選んだの?」

 お豪ちゃんはオレと八郎の目を星の様な瞳で見つめている。

「それは——」

「ふにゃああん‼」

 エリンギが、お豪ちゃんに飛びつき、お豪ちゃんはエリンギを抱きかかえた。

「もしかして、えりが選んだの?」

「ふにゃん(うん)!」

「まあ! こんな素敵な手鏡を贈るなんて、賢いわ!」

 お豪ちゃんがエリンギの体を撫でている。エリンギの顔はまんまスケベオヤジの顔になっているだけかと思いきや、オレたちを見てドヤ顔をした。

 ——一瞬、殴ってやろうかと思ったが、

「この手鏡の絵、ととさまとかかさまとお兄様とお豪みたいだわ! 本当に嬉しいわ!」

「……」

 あんなに喜んでいるから、殴るのはやめよう。

「お豪、父上は?」

「ととさま? 今は忙しそうだから、堺の事なら明日の昼頃にした方がいいわ」

「そうか」

「それに茶会をするみたい」

「……成程、わかった」

「茶会って、あの緊張する、あれだろ。上様もするの?」

「そうでする」

「猫丸、茶会は大切な事なのだ。だから、関わってはいけない」

「わかった」

 疲れるので、したくないからいいけど、

「そう言えば、堺はどうですか! 楽しかったですか?」

「ああ、堺は——」

 オレたちは、堺の思い出を話した。もちろんヤバい話は避けて。

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