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備前宰相の猫  作者: 山田忍
33/153

猫と救出

 もうダメか、って思った。その時、

「⁉」

 銃声がして、見ると女の子の腹と口から血を出して前のめりに倒れた。

「ね、姉さああああああぁぁぁぁぁああああああんんんんっっっ‼」

 オレと八郎がドアの所に振り向くと、

「危ないところやった」

「こ、小西殿‼」

 銃を持った小西殿がいる。

「ふにゃあ」

 ——と、その肩にはエリンギがいる。

 男の子は苦しそうに涙を流し、叫び声をあげ、

「こ、殺す! 絶対に——」

「「!」」

 襲い掛かるよりも先に、小西殿の腰に差していたレイピ……いや、刀身が波打っているレイピアを抜き、短刀を持っている右腕を切り落とした!

「ぎゃああああああ!」

 右腕を斬られ、男の子はのたうち回っている。

「悪いんやけど、邪魔しないでもらえます」

「ひっ……」

「汝の目的はこれやろ?」

 小西殿は薬屋に桶を差し出した。桶を覗き見ると、

「これは……⁉」

「いいっ‼」

 中に入っているのは……、

「桶の中身は木乃伊(ミイラ)や」

 手を上に上げ、見上げているミイラが桶の中にある。

「……助かろうとしたのか」

「こ、小西殿、あいつ、なにが目的なん?」

「木乃伊だけやない、これもや」

 小西殿が持ってきたのは、得体の知れない黒い物体だ。

「あのー。これは?」

「人の内臓や」

「「な、内臓!」」

「せや、内臓や」

「——くっ……」

 薬屋が逃げ出そうとしたら、

「ぐわっ!」

 小西殿が薬屋の足を刺し、動けないようにした。

「小西殿、何故、彼奴等は猫丸を誘拐したのだ?」

「そうだ! 小西殿! こいつら、何でこんな事をするんだ?」

「ああ、それ? 猫さん、分からんのか?」

「わからないですよ」

「……薬や」

「薬? えっ? 薬ぃ⁉」

 オレがわからないでいると、八郎は理解した表情になり、

「成程、薬か」

「せや、人を攫っては、薬を作って闇で売ってたんや」

「はあっ⁉」

「人は薬の材料になるんや」

「……うぇ」

「——猫さん、知ってます? 猫さんの耳と尻尾や目は、一部では不老不死や若返り、不治の病を治す材料になると噂になってるんや」

「な! なるワケないだろ!」

「調べたところ、その噂の出どころは彼奴らで、彼奴らによって、大坂、堺、京の都では多くの偽物が出回っているんや」

「偽物はどの様に作るのだ?」

「耳や尻尾はその辺の動物から、——目は南蛮人から」

「いいっ‼」

「最近、堺で問題になっていたんや、青い目や緑色の目の南蛮人の水夫が行方不明になると、目だけ取って、他は加工して売っていたみたいやな」

「……」

 偽物どころか、オレのせいで、デマをばらまいて関係ない人が殺されて、薬になってしまうなんて、現代ではオレの目や尻尾は父ちゃんと母ちゃんの子である証なのに……この時代では、オレが原因で騙されたり殺されたりする人が出てきて……。

「……猫丸」

「はっ、八郎」

 八郎が不安そうな顔で、

「猫丸、お主どうかしたのか?」

「い、いや! なんでも!」

「さて、彼奴らを捕まえ——」

「こ、小西殿!」

 小西殿が近づこうとすると、

「死ねぇ!」

 右腕を斬られた男の子が、左手で短刀を持って襲ってくる!

 だが、小西殿は慌てずに、

「! ぎゃああ‼」

 男の子の左目を刺した。彼の目から血が涙のように流れている。

「汝らからは聞きたい事が山ほどあるんや。殺しはしーひん」

 薬屋が足を引きずって、小西殿の足元に来た。

「わ、わしの命だけでも助けて……」

「……どっちにせよ、汝らは全員処刑や」

「そ、そんな!」

「それまで、しばらく眠っているんやな」

 銃で殴りつけ、薬屋が倒れると、

「こ、小西殿! 今度は!」

 女の子がよたよたと起き上がり、小西殿に襲い掛かってきた!

「……に……げ…………て」

「で、でも、姉さん……」

「あん……ただけ……でも…………い……きて」

 女の子は力を振り絞り、短刀で刺しにきた。

「……わかった。姉さん……いつか……あの男は……」

 男の子は振り返らず、オレたちの前を横切り去って行った。

「……死——」

 言うよりも速く、小西殿は女の子の胸を刺した。

「——汝らだけ特別やない。汝らが誘拐した水夫の中には兄や弟がいたのもおるんや。残された者の悲しみを知るんや」

 血に染まった小西殿は冷徹に言い、その言葉と同時に女の子は倒れ、血の海が出来た。

「「……」」

「これで終わりだな」

「——どうするんだ?」

「実行した者の一人は取り逃がし、一人は殺してしもたけど、薬屋は生きてるんや。薬屋から聞き出したら処刑やけど」

 これで、終わったんだ。けど、

「オレがいたから、ここにいる人たちは死んだのか……」

「違う。猫丸が悪いのではない、ここで薬になった者を殺したのは彼等だ。噂を流したのもそうだ。猫丸の身がある事が罪ではない」

「八郎」

「猫丸、私にとってお主は大切な者だ。お豪も気に入っている。その者達の為に生きてくれないか? 猫丸?」

「まあ、右近さんも猫さんの事は気に入っています」

 エリンギはそっぽを向いた。

「八郎……。弥九郎さん……。エリンギ……」

 皆の言葉に安心した。

「じゃあ——」

 視界が真っ暗になった。

「猫丸!」「ふにゃ!」「猫さん!」

 二人と一匹の声は遠くに聞こえた。

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