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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と目的

 オレたちは連れ去られ、何をされるのかわからないが、とりあえず何処かの家に入った事はわかった。

 戸が開く音がして、降ろされ、紐を開けるような音がすると、視界が見える様になった。

「なんだよ! ここは⁉」

「わからない」

 冷静になって見ると、窓が無く、出入り口が一つしかなく、わずかな火の明かりで部屋の中がわかる程度だ。

「連れて来ました」

「……これがそうです」

 恐らく、オレを連れ去ったのは、この二人だろう。年はオレと同じくらいの男の子と女の子だ。

 ん? 女の子の方は何処かで……

「あー! 君、あの時、オレの尻尾をつかんだ!」

 そうだ! あの見世物になってた時、

『ぎゃあ!』

『……本物』

 あの女の子だ!

 女の子はオレの方を見て表情を変えずに、

「……本物か偽物か、確認しただけ」

「そんなの本物に決まっているだろ! なんで確認するんだよ!」

「……尻尾が本物でなければ意味がない」

「本物ならば寄越せ」

 今度は男の子がはっきりと喋った。

「はあ⁉」

「尻尾が欲しいのさ」

 三人目の声がした。三人目の顔を見ると、

「あー! 薬屋の!」

 堺の町歩きで見かけた薬屋だ。

「なぜ、オレらをさらったんだ!」

 薬屋はオレを指さし、

「汝だけ連れてこれたらよかったのだ。もう一人はおまけだ」

「えっ⁉」

 オレが目的? 何をするつもりだ?

「さて、死んでもらおうか?」

「はあっ⁉ ふ——」

「ふざけないでもらおう」

 八郎が薬屋に斬りかかった! が、あの男の子と女の子に阻まれた。

「くっ!」

 八郎が男の子に斬りかかろうとしたが、男の子が持っていた短刀との鍔迫り合いになったが、同じく短刀を持った女の子が加勢して、形勢が不利になった。

「八郎‼」

 オレは男の子を押さえつけようとしたが、

「ぐっ‼」

 腹を殴られて吹き飛ばされてしまった。そして、八郎も刀を弾き飛ばされ、頬を殴られて倒れてしまった。

「八郎! 大丈夫か⁉」

「ああ……」

「ちくしょう! お前らは、なにが目的だ⁉」

「目的? 別にどうでもいいだろう」

「よくない! オレだけじゃなく、八郎まで巻き込んで! 何が目当てだ!」

「……目当て」

「その尻尾と耳と目だ」

「それが目的か」

「ああ、それを寄越せばいいだけだ」

「耳は渡せるが、尻尾や目もか?」

「尻尾や目もだ」

「オレで解決する事なら、八郎だけでも無事に返してほしい」

「猫丸! 何を言っているのだ‼ そんな事があってはいけない! 飼い主である私がお主に守られてどうする!」

「飼い主とか関係ない!」

 八郎の動きが止まった。

「オレ一人で解決する事だから、お前を巻き込みたくないだけだ!」

「猫丸……」

 薬屋は笑いながら、

「ならば、そっちは返してやろう」

「……その代わり、目を抉り舌を切り取る」

「なっ! 話が違うじゃねえか!」

「我々の話を聞いていたのだ。そのくらいの処置をして返すのは当然だ。さあ! やれ!」

「……は」「はっ!」

 男の子が八郎の胴を押さえ、女の子が八郎に刃を向けようとした時、

「やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉ‼」

 近くに落ちていた板を拾い、勢いで女の子を叩きつけ、男の子も叩きつけた。すると、八郎は刀を拾い、急いで二人から離れた。

「八郎、ケガは?」

「大事ではない。気にするな」

「八郎、逃げよう」

「ああ、せめて猫丸、お主だけでも」

「なに言ってるんだ! オレだけ逃げてどうする! お前も無事に帰るぞ!」

「猫丸……。ならば、二人で帰るぞ!」

「八郎、わかった!」

「ななし! 二人を捕らえろ!」

「……わかった」「わかった」

「「!」」

 二人が襲ってくる。

 オレは陸上と体操は得意だが格闘技はしたことがない。だけど、二人で帰るためには、やるしかない!

「えいっ!」

 板を振り回したが、女の子に避けられ、

「うわっ!」

 女の子が斬りつけようとした所を、間一髪避けた。

「はっ!」

「やあっ!」

 八郎も男の子と戦っているが、どう見ても八郎の方が押されている。

「くっ……」

「とおっ!」

 八郎は押し負け、男の子が斬りつけようとする!

「八郎!」

 持っていた板を盾に使い、守る事は出来たが、

「ぐあっ!」

「猫丸!」

 オレの腹を蹴られてしまった。

「猫ま——」

 八郎は斬られそうになったが、刀で短刀を受け止める事に成功した。

「猫丸‼」

 八郎も押さえつけるだけで精一杯だ。

「よし、いいぞ! ななし! このまま二人を殺せ! これで偽物は必要ない‼」

「……は」「はっ!」

「くっ……」

「ちっくしょー」

 男の子は八郎を押さえつけたままだが、女の子の方はオレの方向に向かってくる。

「……死ね」

 女の子の短刀がオレの首に迫ってくる。自分どころか八郎も守れないで、このまま終わってしまうのか?

「くそおおおおおぉぉぉぉぉおおおおお‼」

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