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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と見世物

 翌日、ついに来てしまった。見世物の時がきた。

「あーあ、ついに見世物かぁ」

「猫丸、立っているだけでいいのだ」

「何かあったら、逃げるんや」

「——わかった」

 オレは単身舞台に立った。

 舞台を見ると、満員御礼の状態になっている。

「おおっ! あれがそうか!」

「これが本物! なんて変わった目なんだろう!」

 ちょっと尻尾を動かすと、

「尻尾が動いているぞ!」

「偽物とは大違いだ!」

 口々に言っていると、係員らしき人が来て、

「はい! ここまで! 次!」

「えー! もっと見たい!」

 見ていた客を追い出して、次の客になる。

「うわー。本物だぁ!」

「まあ、可愛い耳!」

 また同じ事かと思うと、

「ぎゃあ!」

「……本物」

 オレと同じくらいの年頃の女の子に尻尾をつかまれた!

「触っていいのか⁉」

「触らせて!」

 女の子がつかんでから、他のヤツらも手を伸ばして尻尾や耳を触ろうとしている。

「こら! ダメだ! 次!」

 女の子を含む、触ろうとしたヤツらは、係員に追い出され、また次の客になった。

「あらあら! これが!」

 見て追い出されての繰り返しだ。そうして夕方になり、見世物は終わった。

「はあー。終わっ、た……」

 オレがへばっていると、八郎が来て、

「大事は無いか? 猫丸?」

 オレの頭を撫でてくれた。

「ああ、大丈夫だ」

「大儲け、大儲けや」

「ホンマ、猫様様や」

「これもそれも、猫丸殿のおかげだ。礼を言う」

「はーいはい」

 周りの皆さんは上機嫌だけど、当のオレはぐったり横になっている。

「湯につかってくれ。温泉を持ってきたのでな」

「おー。悪い。宗易さん……」

「その間に夕餉の準備をする」

「ゆうげ? 夕餉って聞くけど、夕餉って味噌汁?」

「猫丸、食事だ」

「本当⁉ 八郎! エリンギ! 行くぞ!」

「ふにゃ!」

「夕餉ですぐ元気になったな。猫丸とエリンギ」

 風呂を見ると、上様のとは違って簡素だが、硫黄の匂いがする白く濁った風呂に入った。

「は~~」「ふにゃ~」

「温泉を取り寄せただけあって、いい湯だな。猫丸」

「それにしても、なんで小西殿、風呂どころか晩飯も『後でええ』って言ったんだろう? 冷めるのに?」

「恐らく、何か用でもあるのだろう」

「そういうものか? まあ、三人と一匹じゃ狭いしな」

「そういう事だ」

 風呂から出ると、夕食が待っていた。

「すげー‼」

 アワビやサザエにタイやタコなどの海産物が細々と盛り付けられている。

「ふにゃ~ん!」

 バクッ!

「だー‼ エリンギ! てめー‼ なに、オレのアワビ食ってんだよ! 猫だろうが!」

「むしゃむしゃ……」

 エリンギは横を向いてアワビを食べている。それを見た八郎が、

「猫丸、私の鮑を分けてやろう。だから落ち着け」

「そうしたら、八郎の分が……」

「気にするな。鮑なぞ、いつでも食べる事が出来る」

「なにか気になるが……でも、遠慮なくもらうぞ!」

「ふにゃ——」

「今度はオレのだ」

 飛びかかろうとしたエリンギを押さえつけて、アワビを食べた。

「ふぎゃー!」

 食べるとエリンギが引っ掻こうとした。

「いい加減にしろ! オレの分がなくなるじゃないか!」

「猫丸、えりんぎとの喧嘩はやめろ。やめなければ、私が全て食べるぞ」

「えっ? ええっ⁉」

「ふ、ふにゃあ⁉」

 夕食を食べ終わって、部屋で八郎と話をした。

「今日だけでいいんだな」

「ああ、丸一日全ての店が休んでしまったのだ。いくら見物人が減っても、これを二日三日も続ける事は出来ない」

「そっかー。明日の朝には帰宅だな!」

「ああ、もう寝る——」

「お二人とも、ええか?」

「「うわぁ‼」」

 いきなり部屋の戸が開いて、小西殿が入って来た。

「猫さん、坊ちゃま、今から着替えて行かへん?」

「えっ? どこに?」

「夜の町や。夜の町は夜の町で色々あるんやで」

「えっ⁉ でも……」

「ふにゃあああぁぁぁん‼」

 エリンギは、ものすごい速さで小西殿の足に擦り寄った。

「この猫さんの猫は行く気やな。どないするん?」

「仕方ないな。オレも行く」

「猫丸! 私も行く」

「決まりましたな。行きましょうや」

 こうして、夜の町に行く事になった。

「これが夜の町かー」

 見れば明かりが無いせいか、絶望的に暗く、全ての店も閉まっている。

「おーい。八郎、すげー暗いな。オレの町より暗いぞ」

「猫丸の町は明るいのか?」

「アーケードは、ある程度の時間は明るいし、街頭もあるから、見えないって事は無い」

「そうか、それはそれで敵も動きづらいな」

「敵……」

 このような言葉が、戦国時代であると感じさせる。

「で、どこに行くのですか。小——」

「「えっ⁉」」

 ——いっ、いない⁉ 小西殿! いない!

「お、おい! エリン——」

 ——こっちもいない!

「小西殿だけでなく、えりんぎもいないのか⁉」

「ああ! そうだ! どうせエリンギはどっかの女に引っかかっているだけだろうが!」

「だが、小西殿が……」

「ああ、いったいどこに?」

 その時、

「「⁉」」

 急に八郎の姿が見えなくなり、体が逆さまになると、何者かに抱えられている事だけがわかった。

「は、八郎⁉」

「ね、猫丸⁉ 何処だ⁉」

 下から走る音が聞こえてきた。

「猫丸! これは何だ⁉」

「オレが聞きたい‼」

 オレと八郎はどこかに連れ去られた。

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