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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫とひったくり

「猫丸、見学はどうする? これでは、目立ってしまうぞ」

 確かに耳は外せる、けど、言葉がわかりにくくなる。それから、尻尾の方は隠せる。

「耳は手ぬぐいを巻いて、尻尾は服の下に隠す」

「せやけど、猫さん。目はどないすんねん。隠せるものやないで」

 目の色は隠せない。目を隠さないと、オレだってわかる。

「しょうがねえなあ、ちょっと待ってろ」

 オレは顔を隠し、アレをつける事にした。

「出来たぞ!」

「ね、猫さん!」

「ね、猫丸! その目はどうした⁉」

 今のオレの目はカラコンをつけて茶色になっている。学校や色々な所で言われないように用意したカラコンを持っていてよかった。だが、それを知らない二人はオレの顔を何度も見て驚いているが気にせず、

「まあ、変装っす。気にしないでください」

「な、何で、目の色が変わるんや?」

 カラコンを外して、

「それは、このカラコンと言う目の色を変える道具を使って、目の色を変えているだけです」

「そ、そんな、目の色が変わるなんて……」

「不思議やな……」

 エリンギがこっそりと、

「お前、何故、最初からつけない」

「オレ自体、コンタクトは苦手なんだ。視力だっていい方だし」

「そうか」

「……では、猫丸。行くぞ」

 こうして、落ち着きを取り戻した二人と堺の町歩きをした。

「いらんかねー、いらんかねー! 薬はいかがかなー! 病から美容の薬、上出来な薬が候!」

 漢方薬らしき物を売っている薬屋が呼びかけている。

「いろいろあるなぁ」

「ああ、何でもあるだろう」

 堺は大坂よりも異国の品物を取り扱った店が多く、見ていても飽きない。

「猫さん、これや! これ!」

 小西殿が、ある奇抜なデザインをした小屋の前に止まった。

「ん?」

 看板を見ると、『猫人』と書かれている。

「入りますよ。お二人とも!」

 人がまばらに集まっている。

「さあさあ、お立会い。讃岐で捕らえた人みたいな猫だよ!」

 で、出てきたのは、

「みゃー」

 着物に尻尾を付けただけの毛深く腹が出たおっさんが来て、ダミ声で猫の鳴きマネをした。

「くくくっ……」

 エリンギは前足で口を押えて笑いを堪えている。

「笑うなよ。エリンギ」

「——猫丸ではないな」

 ニセモノを見た八郎は呆れている。

「出ましょうや。他にも……」

 他の見世物小屋も猫人と書かれている!

「なんだよ! これ⁉」

「要するに、これが猫さんの偽物や。最近は『偽物や』って知り、見に来る人も減ったみたいやけど、それでも見に来る人は減りまへん」

「はあ‼ なんだよ! それ!」

「せやから、本物の猫さんを見せるんや」

「「…………」」

 知らなかった。

 オレは、こんな風になっていることを、偽物が出来るなんて思っていなかった。ちょっと話題になるぐらいだと思っていたのに……。

「どうせ、人の噂は七十五日だ。気にするな」

 エリンギが慰めたが、それでも気になる。

「猫丸……」

 八郎もじっと見つめている。すると小西殿が、団子屋を指さし、

「二人とも、落ち込まんといて、団子を出しとくわ」

「ほんと!」

「……猫丸、立ち直ったな」

「ニャハハハ」

 団子は串に五個刺さっており、程よい甘さで、いくらでも食べた。

「皆さん、儂の奢りや、好きなだけ食べてええで」

「本当!」

 オレとエリンギは食べた。とにかく食べた。五本十本と食べた。

「うめー!」

「ふにゃーん!」

 小西殿はソワソワしながら、

「……しかし、よう食うわ」

「猫丸とえりんぎは、たくさん食べるからな」

 さらに二十本四十本と食べた。

 そんな時に、

「だ、誰か~~! お金が!」

 声の方向を見ると、人の好さそうな婆ちゃんが持っていた山吹色の巾着を奪って逃げる若い男がいる。

「ひったくりか! 待ってろ!」

 走って追いかけることにした。逃げるひったくりはスピードを上げた。

「待てー!」

 オレもスピードを上げて追いかける。あと少しで捕まえれると思った時、

「くそっ!」

 ひったくりは、積みあがった箱を使い、屋根に登ると、箱を倒してから逃げる。

「へっ!」

「逃がさねえぞ!」

 箱の一つを踏み台にして、飛び上がって屋根の上に乗った。

「な、なに⁉」

「待たんか!」

 屋根から屋根に、逃げるひったくりを追いかけると、

「はあ、はあ……」

 ひったくりは、へたり込んだ。

「捕まえたぞ!」

 ひったくりを捕まえると、屋根の下から手を打つ音や足を踏み鳴らす音が聞こえた。

「見事みごと!」

「いいぞー!」

「何という動き!」

「い、いやー」

 何だか町人たちが拍手みたいな事をしているので、何となく照れる。

「これをどうぞ」

 町人から貰った縄でひったくりを縛っていると、二人とエリンギが来た。

「猫丸! お主、あんなに走り飛び上がる事が出来るのか⁉」

「見た目だけやなく、動きまで猫やとは」

「まあ昔、原付乗ったひったくり犯を捕まえた事あるし」

「にしても、何でそんなに動けるんや?」

「部活は体操部と陸上部の兼部だからな。それに体力テストはパーフェクトだ」

「何だかよくわからないが、すごいのだな。猫丸」

「ニャハハハ。でも、あの婆ちゃんに巾着返さないと」

 オレは巾着を返しに行った。

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