猫と堺
初めて見た堺の町は大坂に比べて人は少ないが、それでも活気はある。通行人を見ると、外国人の数が大坂よりも多い。
「うわー。すげーなー」
つい、大声をあげてしまった。
「堺の商人の大半は大坂城下に移りましたが、それでも活気は変わりまへん」
「猫丸、堺もすごい所だろう!」
「ああ! 都会だ!」
ついつい見ていると、
「あ、あれは⁉」
「大坂で噂になっている猫か?」
「おい! 猫がいるぞ!」
すぐに嗅ぎ付けて、人が集まりそうになってくる。
「猫さん、坊ちゃま。あっちや!」
人が集まる前に小西殿に連れられ、オレと八郎は外れに逃げ込んだ。
「昔と変わりまへんなー。さて、目的地に行くで」
「ああ」
「小西殿、行こう」
歩いていると、海の匂いが強くなった。
「おおっ!」
「ガレオン船や。大きいやろ」
港にはマンガで見たような大きな船が山ほどあり、周りは日本人や外国人がひっきりなしに働いている。
「すげぇ……」
「南蛮の船は初めてなん?」
「ここ堺は安南、シャム、ルソンにも手を広げる日ノ本における経済の重要な場所や。ここには、全国から人や物が集まってきます」
「ふえー」
「猫さん、見学は後や。もう行かんと待たせてしまう」
「ああ、そうだ。行くぞ、猫丸」
「わかった」
堺の町を見ながら、目的の屋敷に到着した。
「落ち着いた雰囲気だなー」
中に入って行くと、広場に恰幅のいい人や金糸やらを使った派手な着物の人がいた。そして中央には、地味な着物だが、品と威厳のある老人が座っている。
「宇喜多八郎秀家、参りました」
「小西弥九郎行長、参りました」
「よく参られた。その後ろにいるのが——」
「あ、猫丸です。よろしくお願いします」
オレが紹介し終わると、中央の人以外の商人がやって来て、
「噂通りや。左右の目の色が違い、耳と尻尾が生えている」
「前に偽物を売られたが、本物は本当に左右の目が南蛮人のような目や!」
「えっ⁉ 偽物⁉」「偽物って⁉」
オレと八郎が驚いていると、小西殿がよって来て、
「お二人とも、知らんかったんか? 堺の見世物小屋では、猫さんの偽物を作って金儲けや。で、この中の商人も騙されたんや。それで、本物の猫さんを連れて見世物小屋の連中に一泡吹かせたうえ、金儲けもしようってのが目的や」
「……要するに、物まねタレントか」
「えっ⁉」
「いや、こっちの話」
「まあ、ええわ」
「よろしいですかな。小西殿」
「ああ、はい。どうぞ」
「翌日、猫丸殿は堺の外に作った小屋に来てもらう」
「で、オレは何を……」
「ただ、立っているだけでよい。堺は本物の猫丸殿を見た事が無い者が多いのだ」
「あー。わかりました」
「それでは明日に」
あの老人以外の商人は出て行き、オレたちが残った。
「——どうですかな。お三方、茶の湯でも」
きた!
「も! もちろん」
「喜んで」
八郎が小声で、
「猫丸、やはり来たな」
「ああ」
「小西殿は?」
「参加します」
「ふにゃ~ん」
「エリンギは留守番だ」
「ふぎゃ(何だと)!」
「仕方ないだろ。お前、昨日好き勝手したからだ」
「ふんっ!」
エリンギは大人しくなり、オレたちは茶室に行き、茶会をした。
「んっ! ——け、けけっこ、うな、お、お点前で」
「猫丸、緊張しすぎだ。落ち着け」
「落ち着いて飲まないと、茶の味や香りがわからないだろう」
「すすす、すいません……」
とは言え緊張する。とにかく緊張する。
「昨日教わった通りに出来ているのだ。だから落ち着け」
「あ、ああ」
練習の時、王の兄ちゃんが、あんな事を言うから……。
『猫殿、掛け軸や花入れ、茶器を見て感想を言う事も大切です。客の為、亭主が趣向を凝らしているのです』
『へー。こんなのにもかー』
オレが茶入れを回して見ていると、
『確か、滝川殿と言う方が居まして、あの方は褒美に城よりも茶入れを欲しがりました』
『?』
『茶器一つに五千貫もつぎ込む者もいて、茶器次第では国一つと交換出来る物もあります』
『えっ? 国一つ? 五千貫?』
『ふにゃ!』
『エリンギ⁉』
エリンギが躙り口を開けて入って来て、オレの耳元で、
『五千貫と言うのは、お前の時代で言うと、約七億五千万円くらいだな』
『七億‼』
——なんて言うから……。
この黒塗りの茶碗も高いんだろうなと思うと、緊張してしまう。
「やはり、茶会は初めてみたいだな?」
茶会の亭主をしている老人、田中宗易と言ってた茶人さんが、オレを見かねて言った。
「あ、は、はい。初めて、です」
「その茶碗は安物だ。安心したまえ」
「あ、そうですか!」
「……」
「どしたん?」
小西殿は顔色が悪い。
こうして、茶会は終わった。
「……にしても、宗易さんは今日は厳しくあらへんな」
「言われてみれば、普段はかなり厳しいのに」
「いいんじゃねえの。終わったんだし!」
「そうだな」
「猫さん。なら、堺の町に行きまへんか?」
「ああ! 行く!」
堺の町を見学する事になった。




