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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と案内人

 翌朝、宇喜多屋敷の前、

「やっぱり、武士の朝は早いなぁ」

「ふにゃ~あ」

 その証拠に、エリンギはあくびをしている。

「当然だ。夜が明けると同時に起きるものだ」

「それにしてもさあ、案内人って、いつ来るの?」

「もう、そろそろ来てもいいが……」

 オレたちの近くに人が来た。その人は、

「石田殿」

「もしかして、案内人は——」

「違う! 馬鹿猫! 私は大坂城に行くのだ!」

「あー、そうですかー」

「猫丸、石田殿の屋敷は私の屋敷の近くにあるからな」

「ふん。それより馬鹿猫」

「なんすか?」

「その猫も連れて行くのか?」

 石田殿はエリンギをチラッと見て、

「ああ、そうだけど。それがどうか?」

「……ならばいい」

 そう言って、石田殿は不機嫌そうに去って行った。

「な、何だったんだろ?」

「まあ、いいだろう。それより案内人だが——」

「⁉ んぎゃあああぁぁ‼」

 誰かが握ってるぅうう‼ しかも強めだぁあああ‼ 痛い‼ やめろぉおおお‼

「へえ、この尻尾、本物やな。珍しいお人や」

「誰だ‼」「こ、小西殿!」

 その小西殿と言われた男は、オレの尻尾から手を放した。

「あー。ヒドい目にあったー」

「初めまして猫さん。儂は小西弥九郎行長と言います。今後、お見知りおきを」

 小西殿は黒い帽子を外して、あいさつした。

「おーう、よろしく」

 なんて言うか、この人の服は教科書で見た南蛮人のカッコそのものだ。だが、変わった形のメガネみたいな物と、この時代の日本人で初めて見た茶髪とピアスが目立つ。

「小西殿、猫丸の尻尾を乱暴に扱わないでもらおう」

「それはそれは、すんません。もしニセモノやったら、面目丸つぶれになるのは、上様や」

「……」

「猫さんの尻尾は本物やし、行こや」

 オレが行こうとしたら、尻尾から鈴の音がした。

「な、なんや! これ!」

「ああ、これは贈り物や、猫さんに似合うと思って」

 小西殿はエリンギに近寄り、鈴付きのリボンを首に巻いた。

「猫さんの猫にも贈り物や」

 エリンギの首に鈴付きの赤いリボンが巻かれている。が、エリンギは鈴を外して捨てた。

「ありゃあ、いらんのか。それ、純金やのに」

「ふにゃ~ん」

 純金と聞いた時点でエリンギは鈴を首に戻して、小西殿の足元に擦り寄った。

「猫さんの猫、媚びても(なん)も出ません」

「ふにゃ」

 分かりやすく、すぐに離れた。こうして、オレたちは堺まで行く事にした。

 堺までの道のり、小西殿と八郎が話をしていた。

「坊ちゃま、水干なんて今時年寄りしか着ない着物なんか着て、儂が買いましょか?」

「私は水干の方が好きなだけだ。無理に変える必要は無い」

「……ならええわ」

 少し静かになると、八郎がオレに、

「猫丸、堺を知っているか?」

「堺? 引越センターしか知らね」

「何やそれ? ま、とにかく堺は大坂に負けへんくらいのすごい所や」

「大坂と同じくらいすごいのか! へえー!」

「堺は南蛮との貿易が盛んだ。猫丸、お主も驚くぞ」

「へー」

「そう言えば、坊ちゃま。四国以来やな」

「そうですね。小西殿」

「四国? 四国に来ていたのか⁉」

「まあ手伝いを、それにしても坊ちゃま。当主になってからは他人行儀やな」

「お互い、立場が対等になっただけだ。他人行儀ではない。小西殿」

「——寂しいな」

「……二人とも、知り合い?」

「猫さん。——儂は坊ちゃまの父上に仕えていたんや」

「それって、実の?」

「せや」

「本当⁉ で、八郎の父ちゃん、どんな人なん⁉」

「……知らない方がええと思います」

 その時、小西殿の声色が変わったのに気付いた。隣にいる八郎も顔色が変わった。

「そんな事より、猫さん。猫さんの事は、右近さんから聞いとるで」

 さっきと打って変わって小西殿は明るく話を振った。

「えっ⁉ 王の兄ちゃんから⁉」

「ええ、色々と猫さんの話は聞いております」

 小西殿はオレが王の兄ちゃんから貰ったロザリオを見た後に、小西殿の首に掛けているロザリオを見せて、

「ま、儂も、あのお方と同じ吉利支丹(きりしたん)や。猫さんの事は色々聞いてます」

「そうなの?」

 ——変な事、言ってないよね。オレが男色やエロが好きな子とか言われてないよな。それは全て姉ちゃんのですよー。

「猫さんの変な事は言うてないで、安心しい」

「あ、そうなん?」

 安心した。でも、よくわかるな。

「それにしても、右近さんは男前で誰からも好かれるお方や、儂なんか足元にも及びまへん」

「……それ、本気で言っているのですか?」

「本気やけど、それが?」

 ——えーと、小西殿。あなた、色白で身長高いですよ。それでいて、顔は雑誌のナントカボーイのグランプリぐらいなら余裕で取れるイケメンですよー。

「猫さん、もしかして、右近さんの事をブ——」

「いえいえ! 思っていません!」

「さよか、それならええんや」

「はあ……」

 それから、少しして八郎が話を切り出した。

「豪商達は、猫丸を見世物にして金儲けか」

「ああ、それ以外に何があるん? 見世物にせえへんのやったら、堺の港が使えんようになるみたいやし、港が使えんかったら困るのは大坂の方や。猫さん一人で解決する事やから、上様も穏便に済ませただけや」

「猫丸、お主を政治に利用する事になるとは……」

「いやあー。気にせんでもいい、八郎。オレが見世物になって解決する事ならさ」

「——猫丸」

「猫さんは堺や京の都で噂になっておるんや。一度見たいと思っている者もおります。それに目を付けた堺出身の豪商達は猫さんを見世物にして一稼ぎしようって魂胆や」

「オレ見て楽しい?」

「猫さんは知らんと思いますが、大坂の好事家達には、猫さんの事が一番興味のある事や。猫さんの話で持ち切りや。それを考えたら猫さん一人で大儲けが出来るって事や」

「——そんなに……」

「そんなこんなで着いたで」

「おおー!」

 目の前には、塀をめぐらせ、門があり、その近くには門番らしき傭兵がいて、その足元あたりを見ると水を(たた)えた深い堀がある。

「猫丸、着いたぞ。堺に!」

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