茶室にて
ある日の大坂城山里曲輪茶室にて、三人の男が茶を嗜んでいる。
「何? 猫を見たいとな?」
茶を飲み終わり、口を開いたのは関白藤原秀吉だ。
「はい。今や、あの人の姿をした猫は大坂だけではなく、京の都や堺にまで評判となっております」
茶人は次の茶を点てながら言った。
「そこで、堺に連れて行かないといけないのですが……」
「目的は見世物にして、金儲けかい?」
言い終わると、茶を飲みだした男は、羽柴小一郎秀長だ。
「豪商達が猫を見せたいと言い出したのだ」
「——それだけか?」
「…………」
「目的は何じゃ。師匠」
手を止め、茶人田中宗易は言った。
「実は——」
田中宗易は本当の目的を言った。
「……成程」
「小一郎、見せてやれ。それならば、猫は最適じゃろう」
「では、宇喜多殿を呼んで、猫丸を連れて来てもらおうか。それで、いつ行くのだい?」
「明後日になる。宣伝をするのに二日使うので」
「——で、豪商達は見物料をいくら取る気でいるの?」
「さあ、そこまでは……」
「まあ、いいさ。その事を考えれば、見物料なんて、いらないけどね」
「話は決まったな。今から八郎を呼ぼう」
「交渉は成立したね。師匠」
「では、私はこれで、次の茶会の準備があるので……」
茶会は終わり、田中宗易は去って行った。
そして、二人だけになると、茶も飲まずに会話をした。
「……とは言え、見物料は残念だねぇ」
「いらないと言ったのは小一郎、お主じゃろう。——あ! 後、堺の案内人として、弥九郎も呼ぶのじゃ」
羽柴小一郎秀長は首を傾げながら、
「呼ぶだけ?」
「いや、弥九郎と茶の湯もしたい」
こうして、山里曲輪は静かに時が流れるのだった。