猫と物(前編)
大坂城表御殿御対面所にて、
「おおっ! 来たか!」
「あらあら、しばらくぶりね」
「ごきげんさま! お兄様! 猫様!」
「猫、面白い書だ」
「おーい! 猫だぞ!」
「本当だ」
「ほほほ。来たぞえ」
「ふん」
見ると、知っている人たちが来ている。
「えっと、みなさんお揃いで」
「猫の国の話を聞くのだ。このくらいは呼ばなければ、いかんじゃろう」
「はあ……」
聞くような事なのかと、思っていると、お豪ちゃんが近寄ってきて、
「猫様! 本日は袋を持っていますね! 何が入っているのです?」
「えーと、カバンの中身は、お菓子やら、食事やらが入っています」
八郎やお豪ちゃんだけでなく全員が目を輝かせた。
「まあ! お菓子が!」
「菓子があるのか⁉ 書以外はわからない物だらけだったから聞かなかったが」
カバンから、お菓子を出した。
「えー、まずは、このミルクチョコレートから」
ロングセラーのCMソングが印象的なチョコレートを用意した。
「みるくちょこれえと?」
「何だぁ? これは紙か?」
「紙に包まれているな」
板チョコを上手く割って、全員に行き渡るようにした。
「何だ? この食感は?」
「南蛮の菓子より甘さだな」
「他の菓子は?」
「ソフトキャンディって言う柔らかい飴です」
もう一つあるけど、あの王の兄ちゃんに、また会った時にあげよう。
「この、お菓子も甘いわ!」
「猫丸、これはどれだけの高貴な者が食べているのだ? お主の身分は本当は上の者では?」
「だから、一般人だって! こんなのコンビニ……店で安く買えるよ!」
「や、安く……。猫丸の国は豊かな国だ」
「他のお菓子は?」
「ガムがあります。紙を外してから、食べてください」
これもまた、CMの歌とダンスが印象的な、ふにゃんとしたガムを一人ずつに配った。
「これもまた、板みたいだが……」
と言い、全員噛んだ。
「このガムは——」
「もう食べたぞ」
「猫丸、次の菓子は何だ?」
見ると、お豪ちゃん以外、全員飲み込んでいる!
「このガムは、味が無くなるまで噛んで、無くなったら、この包み紙に出して、捨てる物ですよ!」
「味わって捨てるのか? もったいない物だな」
「毒でもないのに捨てるのかよ」
「これは、菓子とも食べ物とも言えん。何に使うんだ?」
「噛んで唾を出すぐらいか……」
——もういいや。
「……次はポテトチップスです。どうぞ」
うす塩味のポテトチップスの袋を開けて、上様から渡した。
「どれ」
一枚食べた。すると、
「これは何だ⁉ なんで出来ておる⁉ どの様に作られておる⁉」
ものすごい速さで食べだした。
「ジャガイモを薄く切り、揚げた物です」
「じゃがいも……初めて聞く名だな?」
「ジャガイモは芋の仲間です」
「どの様な形じゃ?」
「黄色っぽくて、丸いのや細長いのがあります」
「そんな芋があるのか……」
ジャガイモは無いのか、フライドポテトやコロッケやポテトサラダは食べられないのか……。
「あ! もう少なくなった。——おねねと五もじの分しか無い」
「「「えっ⁉」」」
「あ、あの、違う味がありますよ。それを食べますか?」
二つ目のコンソメ味を開け、袋を渡した。
「他にもあるのか! では、余は一枚だけじゃ」
「では、いただきますよ」
「お豪も頂戴!」
「俺は少しでいい」
「猫丸、初めての味だ! こんな菓子を食べているのか⁉」
八郎は大谷殿に渡すと、
「本当、初めての味。ほほほ」
大谷殿が石田殿に渡そうとすると、加藤殿が取り上げ、
「……体に悪そうな味だな」
とは言え、ポテトチップスをしっかり取って食べながら、福島殿に渡す。
「だが、酒の肴に合うな」
小さなポテトチップスを、たくさん食べてから、石田殿に渡す。
「私で最後か……。んっ?」
石田殿が袋の中を見て手を突っ込み、オレの顔を見た。
「——馬鹿猫、この菓子は無いのか?」
「えっと、その……あの、無いっす!」
「馬鹿猫ぉー!」
「ぎゃああああ! 責めないで! 次の菓子は最初にあげますぅ!」
次のお菓子を急いで出した。
「清涼菓子です! 石田殿! どうぞ!」
箱に入っている数粒出して渡し、それを全て口に入れた。
「ん? 何だ? ——何だこれは⁉」
「えっ?」
石田殿は、ものすごい剣幕で抜刀し、
「馬鹿猫! 汝は上様に毒を盛る気かぁー‼」
「えっ? ええっ⁉」
「あぁ、菓子だろ?」
「確かに、『何だこれは』だが、毒では無いだろう」
「これは美味、もっと欲しい」
「大谷殿、私の分も」
周りは清涼菓子に夢中で、オレと石田殿の事はスルーだ。
「馬鹿猫ぉ」
石田殿は物凄い目つきで睨んでいる。
「だーかーらー‼ 毒じゃありません! お菓子です‼」
「こんな菓子があるかぁ!」
石田殿は抜刀したまま、オレに向かってきた。
「ぎゃー! 助けてー!」
斬られたくないので、走って逃げた。