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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と脱出

 オレはどうなるか、わからない状況だ。そんな時、

「猫丸ー!」

 刀を持った若様が走ってやって来た。

「えっ⁉ 若様⁉ なんで⁉」

「えりんぎが、ここまで案内してくれたのだ! ——お主! 猫丸を返してもらおう!」

 若様は刀を太ったオヤジに向けている。が、太ったオヤジは臆せず、

「嫌だね! やっちゃいなさい!」

「「「へいっ!」」」

 周りの連中が棒を振り回して攻撃してくる。若様はそれを一人、また一人と避け、斬りつけようとするが、相手も避ける。

 若様が上から斬りつけようとした時、連中の一人の棒が若様の腹を叩きつける。

「ぐっ! ……げほっげほっ!」

「若様!」

 嘔吐して倒れこんだ若様を連中が押さえつける。太ったオヤジが近づいて若様の顎を上げ、その顔を見る。

「ほうっ! これはこれは、なんと美しい!」

「確か、備前の宇喜多八郎では? どうなさいます? 我々の顔を見られてしまいましたが?」

 キツネ顔のヤツが聞くと、太ったオヤジは嬉しそうに、

「なぁに、二人まとめて奴隷にしてしまえばわからん!」

「おい! お前の目当てはオレだろ! 若様は関係ない! 若様は放すんだ!」

「猫丸!」

 太ったオヤジはオレに顔を近づけ、

「嫌だね! せっかく、珍しい生き物と美しく家柄の良い小僧が手に入ったのだ! とことん玩具として、可愛がってやる!」

「だから、オレだけにしろ! お前の言いなりになってやるから!」

「猫丸! やめろ!」

「言いなりにか? じゃあ、その小僧を犯せ!」

「なんだよ? 犯せって?」

 オレが聞くと、太ったオヤジは満面の笑みで、

「犯すを知らないとはね~。こりゃあ、ますます玩具として飼いたくなる」

「猫丸! 私の事は気にするな! お主だけでも無事に帰るのだ!」

「そんな事、無理だ!」

「まあ、まずはワシらで犯すってものが、どういうものか教えてやろう」

「そうですね。では……」

 若様の服をつかんだ瞬間、

「ぐわぁっ!」

 若様を押さえてた連中の一人が棒で、キツネ顔のヤツの顔面をぶん殴った! キツネ顔のヤツの顔は潰れ、前歯が折れた。

「な、何を⁉」

「か、体が、体が……」

 そう言いながら、連中の一人は棒を振り回し、残りの連中に向かって、

「勝手に動くんだぁぁああ!」

「な、なにぃ!」

 残りの連中は、向かってきた一人をよってたかって殴った。そうすると、棒で振り回した一人は、瘤ができ、血を垂らし白目をむいて歯が折れ、気絶した。

「は、はあ……」

「ざ、ざまあみろ……」

 と言うと、殴られて気絶した一人は、気絶しているのに、起き上がって攻撃しだした。

「ひ、ひええぇぇぇ!」

「に、逃げろぉー!」

 連中は逃げ出したが、すぐに殴られて血だらけになり、太ったオヤジ以外、全員倒れた。

「こ、こら! ワシだぞ! ワシを誰だと思ってい——」

 気絶した男は折れた歯を見せ、太ったオヤジに向かってきた。

「ひ、ひいいいいぃぃぃぃ!」

 太ったオヤジは、体格に似合わず大急ぎで逃げ出した。が、太ったオヤジは後頭部を殴られて気絶した。

 そうすると、暴れまわった一人は、糸が切れたかのように倒れると、若様は起き上がり、オレに駆け寄った。

「猫丸! 怪我は⁉」

「ああ、無い!」

「逃げるぞ! 猫丸!」

「わ、わかった!」

 オレと若様は急いで逃げ出した。

 そうして、戻って来た宇喜多屋敷にて、

「猫丸、本当に大事は無いか?」

「ああ、無事だ」

「そうか。良かった」

「若様? どうしたんだ?」

「良かった……。本当に……」

『私の世界の人は残酷かもしれない。ですが人は人、猫殿の時代の人と私の時代の人、人を思う心は同じですよ』

「あ……」

 若様はオレを抱きしめた。

「わ、若様?」

「武士は人前で感情を見せてはいけないのだ。だから、猫丸の前で泣いてはいけないのだ。もし、人前で泣いたら、一生、子供として見做されるから泣いてはいけないのだ」

 若様は涙声で言った。

「若様、オレの世界は笑いたい時は笑い、泣きたい時は泣く。若様、オレの前なら、いくらでも泣いていいんだぜ。オレも若様も子供だから」

「——猫丸」

 若様は音を立てずに泣いた。

「気が済むまで泣いていいんだ。オレたちは子供だからさ。——八郎」

 八郎が泣きやみ部屋を出ると、エリンギが戻って来た。

「エリンギ、お帰り」

「……」

 エリンギは無視して、座布団の上に座り眠った。

 こうして、災難な一日が過ぎた。

 翌日の朝、八郎は普段通りの表情でオレの部屋に来た。

「猫丸、目が覚めたか?」

「おう! おはよう、八郎!」

「猫丸、今日は父上に、お主の国の話をする日だ」

「ああ、そうだったな」

「猫丸、行くぞ!」

「いや待て、朝飯!」

「そう言えば、そうだな。食べたら行くぞ」

 こうして朝食を食べ、カバンを持って外に出て行くと、

「んっ? ——いいっ⁉」

 あの太ったオヤジとキツネ顔のヤツとオレたちを襲った連中と昨日のガラの悪い連中が、体を土に埋められ頭だけ出して、町人らしき人々が、のこぎりで嫌な音を立てながら首を挽いている。

「お、おいっ!」

 オレが止めようとすると、

「猫丸、いいのだ」

「いいのだって、殺されそうになっているんだぞ!」

「猫丸、彼らの声を聞くのだ」

「声?」

 オレは、のこぎりで挽いている人たちの声を聞いた。

「よくも息子をあんな目に!」

「息子を返せ‼」

 ある者は涙声で、ある者は笑い、ある者は声を荒げている。

「こ、これは……」

「猫丸。あの後、父上に事情を説明した。そうして、何人かで調べると、乱雑に捨てられた死人や、拷問で手足や目が無い者がたくさんいたのだ。彼等こそ、男子だけが失踪する騒動の犯人なのだ」

「……」

「これを知った父上が、全員、鋸引きの刑に処したのだ」

「でも、なんだか……」

「猫丸、お主の国から見れば残酷かもしれない。けど、これが私達の国でのやり方だ。父上も皆、国の為にしている事だ」

「——けどなあ」

「猫丸、行こう。父上やお豪が待っている」

「——ああ」

 遠くで聞こえる笑い声を無視して、オレたちは大坂城に向かった。

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