猫と見学
「すっげ~! 広いな~」
中には、オレでもわかる見るからに高そうな調度品があり、外を見ると落ち着いた品のある庭園が見事な屋敷にいる。
「ここが、備前島にある私の屋敷だ」
「やっぱ、金あるな~、こんなにでっかい屋敷のだもんな~」
「そんな訳は無い、他の者の屋敷も、このくらいの広さはある」
「って、言ってもな~」
「それより、猫丸。新しい着物はどうだ?」
「まあ、いいけどさ……」
新しい着物、黒色の袖なし着物と短い袴はいいけど……。
「なんで尻尾を出す穴があるんだ! 隠してたのに!」
「せっかくだ。見せればいいではないか」
「あ~の~な~」
嬉しそうに言うなよ。気にしているのに~。
「お豪は耳や目だけで無く、お主の尻尾も気に入っていただろう」
「確かにあの後、一番触ってたけど……」
嬉しそうにフニフニ触っていたお豪ちゃんの笑顔と嫉妬しているエリンギを思い出した。
「猫丸。いいじゃないか、尻尾」
もう諦めるしかない。
「はあ……。でも……」
「でも? 何だ?」
「いやー。若様の着物、お公家の子どもが着ている着物みたいなんだよな~」
それが、似合いすぎだよな~。武士っつーより、本物の貴公子みたいでさ。
「これか? これは水干だ。武士も着ている着物だ」
「武士も着るのか、甲冑のイメージしかないけど」
「話は後にしよう。猫丸、今日は大坂城に行く日だ。父上が猫丸の為に大坂城の案内をするそうだ」
「あー。あの城を……」
追いかけられるわ、刺されそうになるわ、飛び降りるわ、びしょ濡れになるわ、裸になるわ、尻尾を触られるわ、の印象が強いのですが……。
「では、行くぞ。猫丸、えりんぎ」
「ああ」
「ふにゃ!」
そして、オレたちは大坂城に行く事になった。
今回は屋根が付いた極楽橋って橋を渡り、見学をする事になっている。
橋を渡った先には、上様とお豪ちゃんがいた。
「ごきげんさま! お二人とも! 新しい着物、似合っています!」
お豪ちゃんが駆け寄り、上機嫌であいさつをした。
「おお、よく来た。さあ、行くぞ」
「行きましょう。お兄様、猫様」
「ふにゃ~ん」
エリンギは飛び上がり、お豪ちゃんの腕の中に来た。
見ると、長屋みたいな家がたくさんあり、その周りで侍らしき人たちが素振りや読書などをしている。
「ここは芦田曲輪と言い、本丸守備の侍が住んでいる場所じゃ!」
次に栗林公園に匹敵する美しく風情のある庭園がある。
「すげ~」
「ここが山里曲輪じゃ! 猫よ! お主の国に、これ以上の庭園は無いじゃろう!」
栗林公園と言う美しい庭園があります。って、言おうかと思ったら、
「お豪は、この山里曲輪のお花を見るのが好きなの。猫様、この曲輪の木々や花々は美しいでしょう!」
「あ、ああ……」
言えなかった。あんな幸せそうに言われると、言えない。
そうして、しばらく歩くと、
「向こうに見えるのが表御殿じゃ!」
「ああ、あの時」
こうして余裕を持って見ると、やっぱり表御殿はリッパで大きいな。
「さあ、行くぞ。次は天守じゃ!」
「はあ~。これって……本物?」
「そうじゃ! 全て本物じゃ!」
天守の中には、着物や武器だけでなく金銀財宝があり、オレみたいな一般人がお目にかかるとしたら、せいぜいリユースショップに置いてある物ぐらいだ。
「ふにゃあああ!」
お豪ちゃんの腕の中から、エリンギが飛び出した。
「エリンギ?」
なんとエリンギは金の板を口にくわえて、素知らぬ顔をしている。
「エリンギ」
「……」
「その口にくわえている物はなんだ」
「……」
「返すんだ! 泥棒猫め‼」
エリンギから金の板を取り返すと反撃が始まった!
「ふぎゃあああああ‼」
「お前が悪いんだろう!」
「しゃー(何がだ)!」
オレとエリンギがケンカをしていると、上様が、
「その金一枚程度くれてやろう」
「ふにゃ!」
「えっ⁉ でも、こんな、ろくでなし猫に……」
「猫、お主にもくれてやろう。何、これから金は要り様じゃろう」
「えっ? そんな……」
「猫丸、受け取るのだ。父上の気遣いだ」
「猫様!」
「——じゃあ、一枚だけ……」
オレが金を一枚取ると、足元からガシャガシャと音がしたので見ると、エリンギが、どこからか用意した布の上に金の板を何枚も置いている。
「一枚って言っただろ! なに、勝手に増やしているんだ!」
「ふしゃー(増やして悪いか)!」
「行くぞ。猫丸、えりんぎ」
布だけ取り、金の板は置いたまま、エリンギを連れて天守見学の続きをした。
「ふー(待て)!」
天守を見回ると、次は奥御殿を見に行った。
奥御殿は風呂と殺されかけたと言う記憶が強くて、あまり行く気にはならなかったが、上様の気遣いを無駄にしたくないので行くことにした。
寝室や台所と言った部屋から、どれも高級そうな着物や甲冑や長刀などを見ていると、バラエティでしているセレブの豪邸見学をするリポーターの気分だ。
その後、座敷でお茶とお菓子をご馳走になった。
「猫よ! どうだ!」
「えーと、すごいお城ですねー」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」
「猫様は、どのようなお屋敷に?」
「屋敷って言うか……。普通の家に」
「猫丸の家は民と変わらぬ家だと、言っていたな」
「はい。ここまで大きくて豪華なのは、本当の大金持ちしか住めませんよ」
「ほう、そうか! 猫の国でも大金持ちか!」
その言葉を聞いた上様は上機嫌になり大笑いしている。
「そうですね」
「父上、猫丸の国は戦の無い太平の国です。多くの民は戦に関わらない仕事をし、病も怪我も治す事が出来る施設があり、遠い国の者同士が一刻もかからず便りを受け取り、飢饉も無く、安心して眠る事が出来る国が猫丸の国です」
「そ、そんな国があるのか……」
「素敵なお国、猫様! お豪に猫様の国を教えて!」
「お豪、今日はもう遅い。猫丸の話は明日聞こう」
「でも……」
「明日と明後日は用事があるのじゃ! 明々後日にしてくれないか? 余も聞きたいのじゃ!」
「ととさまも猫様のお話を聞きたいのですね! わかりました。明々後日にしまする。では猫様、お兄様、また明々後日」
「おう! じゃあな!」
「では、お豪。また明々後日」
こうして、一日は終わった。