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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と別れ

 翌日、

「翔、帰ろう」

「……」

 今のオレの服は一年前、初めてこの時代に来た制服姿で着ている。

「翔、帰ったら、まずは勉強よ」

「……」

 八郎やエリンギもいない。ただ、普通に食事して終わっただけだ。

「翔、どうしたの?」

「……」

 誰も見送りに来ない。……その方がいい。

「翔‼」

「ん?」

「翔、帰って皆に会った後は、お勉強よ」

「ああ……」

「翔……」

 だけど、気になる事が……。

「ブサイク……」

「なに?」

「……なんでもない」

 エリンギは教えてくれなかった。八郎や皆の未来……。それがどうなるのか聞けなかった。

「……」

 ただ四人で歩いている。一緒に帰るため歩いている。

 けど、その足取りは重い。

「……」

 それから、どのくらい経ったのか、姉ちゃんが口を開いた。

「ここよ。この場所に着いたの」

「ここか」

 大坂の町の中心に来ていた。そんなに経っていなかったのかと思っていると、

「あ……」

「いたのね」

「来ていなかったら、帰れなかったな」

「……‼」

「やあ、三週間ぶりと一年ぶりだね」

 オレたちを待っていたのは、一年前、オレをこの時代に送り込んだ怪しい男だ。一年前と同じ全身チェックの姿に笑っているような顔だ。

「お前……!」

「まあまあ、これで帰れるんだよ」

「そうよ。帰れるのよ」

「……」

 確かにオレを送ったのなら、オレを元の時代に戻す事も可能だが……。

「……その前に聞かせてくれ」

「何だい?」

「八郎はどうなるんだ?」

「あ、それなら——」

 ブサイクが言いかけたが、怪しい男は手でブサイクの口を塞いで止めた。

「さあ、どうなるんだろうね」

「……」

 もし、八郎が幸せに天寿を全うするのならいいけど、でも、そうでなかったら……八郎はどうなるんだ⁉

 それに、他の人もどうなるんだ⁉ 皆が幸せならいいけど、不幸な終わり方だったら、どうすればいいんだ⁉

 歴史の書き換えって、いくらバカなオレでもよくないって事は分かる。けど、今まで会った人たちを悲しませたくない!

「さあ、行くよ」

「翔、ほら」

「真ん中に」

 オレは三人に連れられ、真ん中に来た。

「ブサイク」

「なに? 翔」

「————」

「えっ⁉」

「はい。お帰りなさい」

 怪しい男はシャッターを押した。

 と、同時に飛び上がった。

「「「あっ!」」」

 姉ちゃんたちはいなくなり、残されたのは、怪しい男とオレだけだ。

「あれ? じゃあ、もう一度……」

「しなくていい。オレはまだ帰らない」

「帰らないの? 二度と帰れないかもしれないのに?」

「わかっている。けど、オレは八郎や他の人が悲しい未来だった時、オレが何もしていないのが嫌なだけだ」

「自分の人生、棒に振るのかい?」

「今まで会った人が幸せなら、それでいい」

「……そう。君でよかった」

「後、聞かせてもらうぞ。なんでオレを——」

「さあて、時間だ」

 怪しい男は消えてしまった。

「くっ⁉ 逃げたのか⁉ ?」

 足に温かい物が来たので、見るとエリンギが体を摺り寄せていた。

「エリンギ、怪しい男見なかったか? 全身チェックの」

「俺は今来たばかりだ。——お前、帰らなかったのか?」

「ああ、オレはオレでする事がある。だから、その、またヨロシクな‼」

「ふん」

 エリンギは歩き出した。

「どこに行くんだ?」

「宇喜多屋敷に、だろうが」

「あっ……そうだな」

 宇喜多屋敷に帰る途中、

「エリンギ。オレ、どんな顔して帰ったらいいんだろ?」

「普段通りでいいんじゃないのか?」

「そうだな」

 宇喜多屋敷に着くと大声で、

「八郎ー‼ 居るかー‼」

 誰よりも速く、

「猫丸ー‼」

 八郎が走って来て、抱き着いた。

「猫丸! 帰って来たのか⁉」

「ああ、帰って来たぞ」

「猫丸……」

 八郎は泣き出してしまった。

「おいおい。帰って来ただけなのに、大げさだな」

「猫丸……皆に言おう……」

「あっ、そうだな。結局、帰らなかったんだよな」

 八郎は涙をぬぐい、

「猫丸……。私はお主の飼い主だ」

「ああ」

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