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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と皆

 姉ちゃんたちが来てから二十日になった。

「翔、明日帰るわよ」

「もう二十日か。そういや、宿題片付けないと」

「翔……」

「……」

 明日帰るのか。

 一年か、長かったな。けど、

「八郎。オレ……」

「どうした。猫丸。帰るのだろう」

 普段通りだが、八郎はソワソワしている。

「八郎、不安か?」

「私が何故、不安なのだ? 猫丸には一族が居るのだろう。私の事なぞ気にするな。それより、猫丸の一族の事だ」

「あ……」

 八郎、わかりやすいよ。無理しているのがわかるよ。

「八郎、出かけて来る」

 出かけて、まず、左衛門さんの屋敷に来た。

「左衛門さーん! いますかー?」

「ああ、猫か。入れ」

 左衛門さんと鍛錬をしていると、虎之助さんがやって来て、

「猫、居たのか。俺も混ぜてくれ」

 二対一の鍛錬を少しして止めると、

「……猫、もう終わりか?」

「あ、はい」

「そうか……」

 左衛門さんも虎之助さんも寂しそうだ。

 左衛門さんの屋敷を出て、宇喜多屋敷に帰ろうとすると、

「子猫」

「ぎ、刑部さん⁉」

 宇喜多屋敷の前にいたのは、菓子を持った刑部さんだ。

「子猫、僕は菓子を佐吉と食おうと思ってきた。子猫も食わぬか?」

「あ、じゃあ、いただきます!」

 刑部さんと石田屋敷に行くと、

「刑部と……馬鹿猫か。入れ」

 エリンギとお菓子を食べていると、

「馬鹿猫」

「な、なんですか⁉」

 エリンギを見ながら、

「その猫も連れて帰るのか?」

「エリンギは野良猫です。どこかで自由に暮らしていけますよ」

「ふにゃあ(ああ)」

「そうか。宇喜多殿が飼わぬのなら、私が飼おう」

「あ、まあ、いいですけど」

「子猫、寂しいのう……」

「石治部さん。刑部さん」

 会う人、皆寂しそうだ。

 宇喜多屋敷に帰ると、

「猫さん」

「猫殿」

「弥九郎さん。王の兄ちゃん。なんで?」

「猫さんの顔を見に来たんや」

「同じですよ」

「二人とも……」

「……ただそれだけです。……信仰を忘れずに」

「…………」

 二人も去ってしまった。

「猫丸、夕餉を食べよう」

「ああ」

 夕食後、

「猫丸、父上達だ」

「上様が⁉」

「猫、帰るのか?」

「別れを告げに来ました。子猫」

「上様と北政所様、小一郎のおっちゃんに孫七郎さん⁉ 来たのですか⁉」

「これで最後になると思うとな」

「一度くらい顔を見に行かないと、いけないでしょう」

「何も言わないのは嫌だ」

「だから来たのさ」

「「……」」

「そんな悲しい顔するな。後味が悪い」

「そうですね。なら、今から大坂城に——」

「ならぬ‼ 五もじらは見たら悲しくなるだけじゃ!」

「五もじなら意地でも子猫が帰るのを止めます」

「……そっか」

「猫、これで最後じゃ」

「子猫の顔が見れて良かった」

「……楽しかったよ」

「もう会えないのか」

 上様と北政所様、小一郎のおっちゃんに孫七郎さんも去って行った。

「……」

 上様たちが去って、更に暗くなった時、

「猫ちゃん」

「き、如月⁉」

 どこからか如月がやって来た。

「帰るんでしょ。別れを告げに来たよ。じゃあな」

「おい!」

 如月は風のように去った。

 寝る前、

「猫丸、今日は一緒に寝ないか?」

「えっ⁉」

「いや、初めのように一緒に寝ようと思っただけだが……」

「寝るの?」

「ああ。そうしたい」

「……わかった」

 姉ちゃんの事は気にせず、今夜は寝る事にした。

 が、夜中、八郎が寝ると、

「エリンギ、いいか?」

「どうした。バカ猫?」

「外に出てくれ」

 エリンギと屋根の上で話をした。

「エリンギ、オレの姉ちゃんもブサイクも紅葉も一人でやっていけるヤツだ」

「それがどうした?」

「オレ、思ったんだ」

 ずっと聞かなかった事がある。

「八郎は……宇喜多秀家はどうなるんだ?」

 聞けなかった。怖かったから聞けなかった。八郎の未来。

「八郎はどうなるんだ?」

「…………」

「後、左衛門さんも虎之助さんも刑部さんも石治部さんも弥九郎さんも王の兄ちゃんも……お豪ちゃんも……まだまだいる。その人たちはどうなるんだ?」

 オレが問い詰めるとエリンギはうつむいて、

「さあな」

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