猫と妻
数日して、
「いったいなんだろ?」
「長岡殿、私達に見せたい者とは」
「女なら大歓迎だ」
長岡殿に呼ばれたオレたちは長岡殿の屋敷に行く事にした。
「来ましたよー」
「……よく来たね。……宇喜多殿と…………化け猫……」
「⁉ 長岡殿⁉ な、何だ⁉ その着物は⁉」
長岡殿はゴシック王子な服を着て、オレたちを出迎えてくれたけど、これって……。
「……これ? ……化け猫の姉が教えてくれた着物…………作り方だけ聞いて……後は某が考えて……装飾をしたのさ…………」
「す、すげーな」
この時代で、よくぞここまでのセンスと思う! どれだけ、姉ちゃんの本を読んだんだ? それとも才能ってヤツ?
「……それより……見てほしい……来て…………」
オレたちは屋敷の一室に行くと、
「……見て……」
「おおっ⁉」
「えっ⁉」
「ふにゃ!」
「……」
ゴスロリのワンピースを身に纏った美しい女性が、誰⁉
「……美しいだろう……某の妻さ…………」
「お、奥さん、いるんですか⁉」
前来た時、会わなかったぞ‼
「……いるよ……大半の者は……」
「そ、そうですか……」
確かに他の人の屋敷に行った時、刑部さん以外の奥さんには挨拶したぞ! って事は刑部さん……。
「それよりも……どうだい…………美しいだろう……」
「あ、ああ……そうですね……」
「綺麗だな……」
「ふにゃあ」
エリンギがお腹を見せてゴロゴロしている。
「そう……じゃあ…………」
長岡殿は抜刀して、
「死ね!」
「えええっ⁉」
「なっ⁉」
長岡殿が襲い掛かった。
「そ、そんな、何か悪い事でも‼」
「美しい着物を自慢したい! その着物を纏った妻を見る! その美しさに皆、魅了される! だから死ね!」
「なんですか⁉ それ⁉」
「ね、猫丸! まずいぞ‼」
「そ、そうだな。ここは‼」
八郎の腕を掴み、
「逃げるぞ!」
「そうだ!」
「……」
だけど、長岡殿の奥さん、この騒ぎに動じないなんて……それに、どこか表情も悲しそう。
「待て!」
外に出たけど、長岡殿が追いかけてくる。
「どうする⁉ この様な時は⁉」
「誰かの屋敷に避難する‼」
「そ、そうか。では、何処に?」
「そうだ——⁉」「⁉」
後ろから鉄と鉄が当たる音がしたので見ると、黒い着物を着た背の高い男の人が刀で長岡殿を止めている。
「あ……」
「何をしている与一郎?」
「し……師匠……」
なんと止めたのは宗易さんだ‼
「与一郎。何故、刀を振り回していた?」
「……そこの二人が……妻を見たから……です……」
「やはりそうか。お主の嫉妬深さは聞いておったが、宇喜多殿と猫は人の妻を奪い取るような者か?」
「……」
「とにかく戻るのだ。妻を置いてはならないだろう」
「…………はい」
長岡殿は大人しく去ったが、
「宗易さんって強いんですね」
「この程度なら誰でも出来る事だ。では、行かせてもらおう」
「あっ」
宗易さんも去って行くと、
「どうする?」
「ん? えりんぎは……?」
「あっ⁉ いない‼」
エリンギ、まさか……。
「ふにゃああああああああ!」
「待て! うぬは雄だろう! 何故、膝の上に座っているんだ!」
エリンギと長岡殿の大声が見ると、
「ふにゃああああああ!」
エリンギは抜刀した長岡殿に追いかけられていた。
「長岡殿……」
「オス猫にも容赦ないんだな」
「えりんぎはどうする?」
「八郎、放っておこう」
「……そうか。では」
オレたちは帰る事にした。
「ふにゃああああああああああ‼」
その夜、
「バカ猫‼ なぜ、俺を助けない⁉ 酷い目に遭ったぞ‼」
「エリンギなら自力で帰って来るじゃん。前だって海に落ちたけど、いつの間にか船にいたじゃん」
「長岡殿の奥方には変な事をしていないだろうな?」
「してない‼ 膝の上でゴロニャンしていただけだ!」
「エリンギ」
普通の猫なら可愛いけど、エリンギじゃあなあ……。