猫と思い出
宴はお開きになり、姉ちゃんたちと宇喜多屋敷に帰る事になった。
その内の一室を案内して、
「ここが、お主らの部屋だ。好きに使うといい」
「わかったわ」
姉ちゃんの顔は嬉しそうだ。
「……」
「どうした?」
「夜の翔との様子……ふふふ……」
それを聞いた八郎は毅然とした態度で、
「猫丸とは、何もしていないぞ」
「なら妄想するわ」
「姉ちゃん」
完全に脳内お花畑だ。
「翔、ここでは元気だった?」
ブサイクが不安そうな目で見つめている。
「ああ、色々あったけど、元気に過ごしているよ」
オレの返事を聞いたブサイクは安心した表情になり、
「よかった! どんな事があったの?」
「実は……」
オレは四国征伐から話した。
四国征伐で八郎にあった事、大坂で追いかけまわされた事、堺で見世物になった事、岡山で事件が起きた事を話した。
話を聞き終わったブサイクは、
「……っ! 翔……」
涙を流して、オレに抱き着いた。
「ブサイク、なんで泣くんだよ⁉」
「翔……あんた……ひどい目に遭っているのに……その時、私は……翔の力になれないなんて……」
「…………」
ブサイクがこんなに思っていたなんて、ブサイクがオレの力になりたい気持ちだけで、助けてくれた人たちと同じくらい嬉しい。こんな気持ちを懐くなんて、昔のオレではありえない事だ。
「ブサイク」
小声で、
「……ありがとう」
「⁉」
ブサイクが顔を赤くして、
「な、何よ⁉ 翔⁉ 頭がおかしいんじゃないの⁉」
「いや」
なんだか嬉しくなった。
その時、戸が開いた。入って来たのは、八郎と姉ちゃんと紅葉だ。
「あれ? 二人とも出てたの?」
「ああ、使いの者って感じの奴らが、大坂城の女の子たちが誘っているんだ」
『大坂城でお主らの事について知りたいのじゃ』
『猫の国は、どのような国か知りたいのです』
『聞かせろ』
「って、言ってるみたいなんだ」
「なるほど、あの三姉妹なら聞きそうだな」
「どうしようか? 行きたいけど……」
「行ってあげたら喜ぶよ!」
「じゃあ、行こっか。翔、連れて行って」
「ああ! けど」
「けど?」
「姉ちゃんはダメ‼ 絶対に変な事、教えるから!」
「変な事? 何を?」
姉ちゃんは白々しい態度で言った。
「なにをって、姉ちゃんの腐った事をだ!」
「腐ってないわよ。普通の事よ」
「普通の事が腐った事なんだ!」
「いいじゃない。私も行くわよ」
「マジで? どうしようか?」
「猫丸、大坂城に行くのか? 私も大坂城に行きたいのだが」
「八郎も? いいけど……」
「おおっ‼」
姉ちゃんの大きな歓声が聞こえた。
「なに喜んでいるんだよ⁉ 喜ぶな‼」
「いいじゃない。カップリングでしょ。あんたたち」
「何がだ‼」
「猫丸、かっぷりんぐとは……?」
「八郎、聞くな!」
いくら八郎でも、説明したくない事もある。
「大坂城、連れてってよ」
「ああ、いいよ。紅葉は」
「だーかーらー、何で、私は駄目なのよ⁉」
「姉ちゃんは腐っているからだ」
「猫丸、猫丸の姉は何処が腐っているのだ。何処も腐っている様には見えないのだが……」
「全てだ! 全て‼ 以上!」
「待て! 全てとは——」
「馬鹿猫、居るか?」
オレたちが揉めていると、石治部さんが来ていた。
「石治部さん、来てたの⁉」
「来ていては、いけないのか?」
「いえ……びっくりしただけで……」
「石田殿。石田殿が来ると言う事は、何か用があるのか?」
「そうだ。そこの娘に用がある」
「なに⁉ 女装⁉」
「?」
「い、石治部さん。聞かなかった事に……」
「私たちに用って、なに?」
石田殿は咳払いをし、
「実はそなた達に用があるのだ。上様が、是非来てほしいとの事だ」
「上様が? 何の用?」
「馬鹿猫が知る用ではない」
石治部さんが言うと、八郎は少し考えてから、
「恐らく、想像つくが」
だが三人は、
「ふーん。いいけど」
「早く済ませてよね。こっちも用があるから」
「……」
ブサイクがオレを見た。
「まあ、なんかあったら、オレに言いな。すぐ駆けつけるから」
「……わかったわ」
「では、行くぞ」
石治部さんと姉ちゃんたちは大坂城に行く事になった。
二人だけになり、少ししてから、
「……八郎」
「どうした?」
「心配だ。行ってみる」
「大坂城にか? やはり、お主の姉や友は気に掛けるのだな」
「違うって、姉ちゃんが何するか、わからないからだ」
「何するとは、何をするのだ?」