行き方について(後編)
その二人組が私に向かってくると、
『ちょっと、やめなさいよ』
『ああ、やめな』
『何だと⁉ この‼』
ガラの悪い男の一人が薫ちゃんに襲い掛かると、薫ちゃんは飛んで、首の後ろを蹴り飛ばしたわ。
『ぎゃあ!』
『あっ⁉ おい⁉ この‼』
もう一人が紅葉ちゃんに襲い掛かると、紅葉ちゃんは護身用の警棒を使って頭を叩いたわ。
『ぐわあ!』
二人であっという間に倒すと、
『ここに腕が立つ娘がいるぞ!』
『すごいな! 本当か⁉』
瞬く間に人が増えて、
『歩きづらいわね』
『本当』
どうしようかしらと、と思っていると、
『何や、強い娘さんやな』
男の人が剣をしまうような仕草をして出て来たの。
『⁉』
『何よ?』
その、男の人はテレビに出て来る長身のイケメン俳優のような人で、一瞬、安土桃山時代にもナンパはあるのかって思ったわ。
『えっ⁉ な、何ですか⁉』
『助けようかと思ったけど、その必要はあらへんな』
『な、なに……』
『嬢ちゃん達、もしかして、誰かに会いたいとか……』
『あっ⁉ えっと、その……』
『会いたいんやろ? 儂が会わせたる』
『あー。その……』
『アウグスティヌス、その様な言い方では、話の要点は得ていません』
『『『ええっ⁉』』』
私達は驚いたわ。月曜の夜中の番組に出て来る高槻市のラッパーが目の前にいたから、って事は、このイケメンは俳優で、私達はやっぱり映画かドラマのロケに……なんて考えていると、高槻市のラッパーは、
『アウグスティヌス、猫殿に会わせると言いなさい』
猫殿? 誰の事かしらと、思っていると、薫ちゃんが、
『あの、サインください‼ ほんの五十枚ほど!』
『さいん?』
『さいん……確か、猫殿の話では花押の事ですね』
『ああ、花押かい。で、何で欲しいんや? 五十枚も』
『高槻市のラッパーのサイン、ネットオークションより、店で売ったら、それなりの値段で買い取ってもらえるかもしれないから!』
『私の花押を誰が欲しがるのですか?』
『……欲しがる人はいるのよ! だから、サインして‼ あ、サインだけ下さい。○○ちゃんへ、とかは要りませんから』
『完全に転売目的じゃん』
『いいじゃない。お金はいくらあってもいいのよ!』
『そうだけど……失礼だろ』
『失礼じゃないわよ』
『『…………』』
その人達が呆れていると、
『その嬢ちゃんの目の色が似てる人がおるんで、声をかけたんやけど…………』
『えっ⁉ その人について詳しく教えてください‼』
『お、落ち着くんや! 恐らく、猫さんはもう大坂城におるはずや!』
『お、大坂城!』
『ああ、あそこや』
修学旅行で見た大阪城と違い、巨大な黒い天守閣が際立つ大坂城があった。
『こ、ここに……翔が……』
『行きましょうや』
その俳優風の男の人は、お付きらしき人に箱を持たせていた。
『この箱には何が入っているのですか?』
『ああ、菓子と酒や。予定より遅れてしまったもんやから、儂らで取りに来たんや』
『何に使うのですか?』
『本来は言いませんが、猫殿の友人なら言いましょう。宴の為の物です』
『宴なら、いいんじゃないの?』
『……宴のような時こそ、危険なのですよ。皆、浮かれていますから』
『着きました。ここが大坂城や』
大坂城に着くと、土木作業をしている人達が沢山いて、周りを見渡すと、
『……』
『どないしたん?』
あの俳優風の男の人につかみかかって、
『翔、ここで奴隷みたいな事させてないでしょうね!』
聞くと、俳優風の男の人に剥がされて、
『なんでや! 猫さんは今頃、宴や』
『翔も宴に参加しているの⁉』
『せや! 猫さんに、さぷらいずをしてるだけや!』
『翔は無事なの……』
つい、泣いちゃって、
『泣くなよ。もう少しの辛抱だからさ』
『翔、待っていなさい』
『うん……』
そうしたら、手ぬぐいが出されて、
『猫殿の時代では、笑顔こそ幸せの象徴だと言っていました。猫殿と再会するのなら、笑顔で再会しましょう』
『……はい』
手ぬぐいを受け取ると、
『猫さんは中や』
涙を拭きながら、大坂城のある場所に行くと、
『私が先に入ります。上様の許可が出れば、中に』
戸が開くと、
『王の兄ちゃん、どしたん?』
一年ぶりに聞いた声、
『翔の声……』
『くるみ! ガマン!』
『翔、いるの⁉ 本返せ‼』
それで、薫ちゃんが行こうとするのを、
『まだや! 右近さんが——』
『どうでもいいわよ!』
『どうでもって、ちょっと——』
『ちょっとじゃないわよ!』
『とにかく、まだ——』
『どいて!』
そして、今に至るの。