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備前宰相の猫  作者: 山田忍
134/153

猫と動画

 ブサイクが見せたのはピンク色のケースに入ったスマホだ。

「スマホ?」

「これよ」

 ブサイクがスマホを取り出すと、そこに居た全員がやって来て、

「こ、これは⁉ 猫の不思議な板⁉」

「違う物もあるのか⁉」

「見せて見せて‼」

「きゃっ、翔、これを見て!」

 もみくちゃにされながら、ブサイクはある動画を見せた。

「これは……⁉」

『翔、帰って来て……』

『翔、怖い思いはしていないか?』

『とにかく、帰って来て……家は寂しいのよ』

『皆、寂しいんだ……』

「⁉」

 夢で見た。夢に出ない日は一度もない。オレにとって大切な人たち……。

 涙を流しながら、オレの事を思う人たちの姿を見ると、その声を聞くだけ……。

「父ちゃん‼ 母ちゃん‼ じいちゃん‼ 婆ちゃん‼」

 今まで泣きそうになった事はあったけど、ついに泣いてしまった。

 今まで泣きそうなになったけど、ついに泣いてしまった。

「「「「「「「「えっ⁉」」」」」」」」

「皆……」

「翔、それと……」

 ブサイクが次の動画を見せた。

『翔』

『翔、帰ってこい!』

『元気なの⁉』

「う……皆……」

 クラスメイトたちだ。皆、三年生になっている……本当に一年経っているんだ……けど、皆、オレの事を……。

「それから、ほら」

『翔』

『翔』

『翔』

「うう……」

 部活の先輩や後輩たち、近所のおっちゃんやおばちゃん……。皆がオレを心配している……。

「翔、最後に……」

 最後の動画は、

『みゃあ』

「⁉」

 久しぶりに見たペットの猫の動画、今までエリンギばかりだったけど、エリンギじゃ、猫じゃらしで遊んでくれないし、オレを見ても引っ掻いたり噛みついたりしない猫。

 あいつに会いたいなあ。

「ふー」

 エリンギが不機嫌そうにうなっているが、石治部さんの顔が何となく赤くなっているように見える。

「翔、帰ろう。ね」

「……」

 確かに、帰りたくなった。でも……。

 オレは八郎を見た。八郎も戸惑った表情だ。だが、それは八郎だけではない。全員が八郎と同じ表情なのだ。

「あんた、分かっただろ。あんたを心配している人たちが待っている事を……それに見な」

 ブサイクの次は紅葉がスマホを見せてくれた。

「ん?」

「あ」

 紅葉が見せてくれたのは、月曜の夜中にしている番組だ。これはヤバいので、

「紅葉‼ 消せ‼ とにかく消せ‼」

「ゴメン、間違えた」

 紅葉は消してくれたからいいけど……。

「猫丸、今のは何だ?」

「今、右近さんが——」

「気のせいや! 気のせい!」

「猫丸、金やふどうさんと言う言葉が聞こえたのだが——」

「そんな言葉無い‼」

「ああ、これだよ」

 紅葉が見せてくれたのは、お昼のワイドショーだ。

『続いて香川県高松市で行方不明になった少年のニュースです』

 画面には生徒手帳のオレの写真が映っていて、お茶の間の主婦に人気の司会者と女子アナが映っている。

『北島翔君が行方不明になって、ちょうど二か月が経ちますが、現在も行方が分かっていません』

『まだ、見つからないのでしょうか?』

『現在、これと言った目撃情報も無く、香川県警ではビラを配り、目撃者を捜しています』

『これ単なる家出とか、だったらいいけど、話を聞くと、そんな子ではないし、身代金とかも来ていないし……一体、何でしょうね?』

 オレが行方不明になったのって、ニュースになってんのかよ⁉

「翔、あんたの家族も学校も毎日、マスコミの対応に追われて大変だったのよ」

 動画で見た父ちゃんや母ちゃんたちもやつれていた。これはマスコミとかに色々言われたんだろうな、その苦労を思うと余計悲しくなってくる。

『続いて、愛媛県松山市で——』

 紅葉はスマホを消した。

「翔、帰ろう」

「……」

 オレが落ち込んでいると、姉ちゃんは嬉しそうに、

「でも、翔。あんたが飼われているのなら、こっちは気にしなくてもいいの。ペットとして、幸せならそれでいいの」

「姉ちゃん!」

「そうなのか⁉」

「八郎‼」

「取りあえず、その板とそなたらの状況を考えれば、子猫の一族は皆、子猫の事で苦労している言う事だねえ」

「……翔がいないから、クラスも雰囲気違うし、学校にいても楽しくなかったもの……」

「ブサイク……」

 オレがブサイクの元に駆け寄ろうとすると、

「猫丸‼」

 八郎が呼びかけたので、止まると、

「帰ってしまうのか?」

「あ……」

 そうだ。帰ってしまえば、色々ゴタゴタはあるが、平和な生活が待っている。

 だが、八郎やお豪ちゃんなどといった、ここで出会った大切な人とは、もう会えないのだ。永久に。

「……」

「翔……」

 ブサイクが切なそうな表情を浮かべている。

 その時、オレは重要な事を考えてしまった。

「……なあ、教えてくれないか。どうやって、ここに来たんだ? ここは戦国時代だ。お前らじゃいけない世界、教えてくれ……どうやって、この時代に来たのか?」

 その答えにブサイクが、

「そうね。教えてあげる。私たちがどうやってここに来たのかを……」

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