猫と過去
「猫丸、いい天気だな。川で遊ばないか?」
「ああ」
オレたちは天気がいいので、川で遊ぶ事にした。
「川って言っても……」
川は川でも、備前島が川に浮かぶ島なので遠出をした気分とかにはならない。
「川で遊ぶ、か……」
「川で石を投げてみるか?」
八郎が石を投げると、対岸まで行かずに沈んだ。
「上手くいかないな」
「オレに任せろ……えいっ!」
オレが石を投げると、石は対岸まで行った。
「すごいな。猫丸!」
「見たか!」
「……猫丸は遊戯とか上手いな。武芸も得意だし、私もお主みたいになりたいものだ」
「オレみたいって……八郎だって鷹狩とか茶の湯とか連歌とか得意じゃん。オレなんか茶の湯に至っては、王の兄ちゃんに怒られてばっかりなんだぞ」
「そうか……お互い出来ない事があるのだな」
「ああ、お互い精進だな」
石を投げ飽きると、八郎が話をしてきた。
「猫丸、お主が国に居た時は、どの様な事をしてきた?」
「えっ⁉ 前、話したんじゃ——」
「それは、お主が国の話だ。猫丸が国元でどの様に過ごしてきたか知りたいのだ」
「そっか……」
そういえば、八郎に言っていなかったな。
「オレは……」
それは、ある朝の事、
『翔、朝や』
『ああ、わかっとるって』
ご飯に味噌汁って時もあれば、トーストにスープって時もある朝食を家族全員で食べて、皆、学校や仕事に出かけるんだ。
『行って来ま~す』
『行って来る!』
オレが最初に出て、その次に姉ちゃんが出て、その後、父ちゃんとじいちゃんは仕事、それから少しして、母ちゃんとばあちゃんはパートに出て、家はペットが留守番しているんだ。
それが一日の始まりだ。
オレは陸上部と体操部の兼部だから、どっちかの朝練には必ず顔を出している。
その後、授業を受け、給食を食べて、掃除をして、また授業をして、部活して帰るのが、学校の一日なんだけど……大体、授業では五教科は寝て、それ以外は一応しているのが、オレの授業態度なんだ。あっ! でも、保健は寝ているけど体育は大活躍してるぜ。
「体育とは、体を動かす事だろう。猫丸らしいな」
「よせや」
そんな授業態度だから、先生には怒られ指名されて、わかりません! って言う日々なんだ。八郎……笑いをこらえるな。
「すまない」
こんなオレにも、ちょっかいを掛けてくるクラスメイトがいる。
その一番はブサイクこと、学級委員長の坂本くるみだ。
幼稚園の頃からの付き合いで家も近所で、町の行事では必ず顔を見せる古くからの付き合いだ。
オレが寝てれば起こすし、掃除をさぼれば怒るし、テストの成績が悪いのなら怒って勉強会をしようとするし、宿題を忘れたのならば怒るし、オレに対して、いちいちうるさいんだよな、ブサイクって……。
「ぶさいくとは、その者は醜いのか?」
「ああ、ブスだブス、毎日怒っている顔しか見た事がない」
「そうか。では、そういう事にしよう」
あと、オレの姉ちゃんもクラスメイトなんだよなー。
「猫丸、お主の父や母は聞いたが、姉の話は聞いた事が無い。教えてくれないか?」
「……オレの姉ちゃんなんて…………」
オレの姉ちゃんは、オレと同じ目の色で尻尾があって、猫っ毛、猫目が印象的で、はっきり言って、その辺のアイドルやモデルよりスタイルのいい美人でまあ、学校だけじゃなく、他校の男子にもモテて……だけど女子にも好かれていて、学校の成績は首位で運動神経も抜群なだけでなく、他の事もカンペキで、事実、美術の作品や書道のコンクールに作品を出せば金賞を取る。優等生の人気者……それがオレの姉ちゃん。
「優れているのだな。猫丸の姉上は」
「他にも人より優れているのは沢山ある。けど……多すぎて言えない」
「それは、さぞかし自慢の姉上だろうな」
「自慢? 自慢にならねえよ」
「そうなのか?」
「ああ」
姉ちゃんなんて……姉ちゃんなんて、なあ……。
「姉上と何かあったのか?」
「いや、別に無いけど……」
無いけど、無いけどなあ……。
「無いのなら、いいではないか。……そうだ。父上が大坂城に来いと言っていた」
「大坂城に?」
「そうだ。大坂城に呼ばれたのだ」
「大坂城で何があるんだ?」
「さあ、行ってみないとわからないが」
オレたちは大坂城に行く時、
「聞いたか。中々、腕が立つ娘がいるぞ!」
「本当か⁉」
そんな噂が聞こえたが気にせず、大坂城に向かう。
大坂城に着くと、
「あれ?」
「誰もいないな」
大坂城の中は人っ子も無く、静かで普段の大坂城とは違う。
「うーん。静かだな」
「猫丸、何処に行く?」
「取りあえず、山里曲輪!」
行ってみたが、美しい景色だけで誰もいない。
「次に天守!」
も、財宝があるだけで、誰もいない。
「……奥御殿?」
…………以下、誰もいない。
「八郎。何か、あったのか?」
「そうだな。表御殿に行ってみてはどうだ?」
「表御殿……そうだな」
オレたちは表御殿に行く事にした。
「着いたぞ」
表御殿御対面所も誰もいない。
「いないじゃん」
オレが出ようとすると、
「猫丸。少し探してみては、どうだ?」
「探す?」
言われてみて探したが誰もいない。
「いないな」
オレが出ようとすると、再び八郎が、
「猫丸、もう少しだ! 探すぞ」
「もう少しって……」
オレが、八郎に言われて周りを見渡すと、
「うわっ⁉」