猫とご馳走
「大坂に着いた」
「帰って来たな」
「ふにゃあ! ふにゃあ!」
「弥九郎さん! ご馳走は⁉」
「ああ、ご馳走か。それは……」
弥九郎さんは、とある場所まで連れて行ってくれた。
「ん? ここは……」
「へいっ! らっしゃい!」
見慣れた鮨屋だ。
「弥九郎さん。ここ、鮨屋じゃ……」
「小西殿……私は、鮨屋に来た事があるのだが……」
「妾らもじゃ」
「ボクもゴミの金で食べたよ」
「お豪は初めてでする! どの様に食べるのです?」
「では、私が食べ方を教えよう」
八郎が、お豪ちゃんにお寿司の食べ方を教えている最中に、オレは弥九郎さんに聞いてみた。
「弥九郎さん。何で鮨なんですか?」
「海の美味い物やからや。早よ、食べるんや」
「ふぐ……」
オレの口の中に鮨を詰められた。
「だけど、新鮮なお魚ではなく、鮨とはずいぶん安上がりですね」
「鮨も美味い魚やろ、全て奢ったる」
「だが、言われると安上がりだ。ご馳走と言う感覚ではないな」
「オレも鯛のお造りとか考えたもんなー」
「……」
弥九郎さんは何か隠しているようだが、
「……弥九郎さん。何かあるのですか?」
「…………無いんや」
「えっ?」
「…………無いんや、儂が好きに使える金が」
「えっ⁉ お金無いの⁉ 弥九郎さんって、服装ハデなのに!」
「こう見えて、金を使っているんや」
「使ってそうですね」
髪も染めて、メガネかけて、ピアスもしていますからねー。
「弥九郎様、お金無いの⁉ だったら、ボクがデブサかゴミから——」
「やめんか‼ 阿呆!」
「じゃあ、ボクの——」
「もっと、やめるんや‼」
「じゃあ、金を使う事をやめたら、どうですか?」
「それは……やめられません」
「何故だ?」
「まあ、人には色々理由があるんや」
「そうですか」
なんだか隠したいみたいだし、聞くのはやめるとしよう。
だが、あれだけは聞こうと思う。
それから、鮨をお腹いっぱいに食べて、
「…………」
「あ……や、弥九郎さん。別に悪気があった訳が……」
「……構いまへん」
全員が食べ終わると、軽く百貫は超えていた。ほとんど、オレかエリンギかお初ちゃんが食べた物だ。
「弥九郎様、ボクが出しましょうか? その分、回数を——」
「嫌や! 全額出すわ!」
弥九郎さんは全額出して、早々と大坂城に行った。
「猫様、お兄様、また明日!」
「また明日じゃ」
なぜか、皆、明日と言っている。
そして、その帰り道、孫七郎さんに会った。
「おお、猫。知ってるか?」
「何をです?」
「明日、鮨屋を呼んで、鮨を振る舞う事になっているのを」
「へっ?」
「知らなかったのか? 知っているのは、ほんの限られた者しか知らないからな。姫君達と一緒に居たから聞いたのかと、思ったのだが……」
「そ、そんな……」
「食べてしまったが、気にしなくてもいいだろう」
「食ったのか。俺は、まだ食べた事が無い」
「ああ、そうですか。鮨は美味しいですよ」
「美味いのか。だが、俺は鮨より、書物や刀剣や武芸や女の方に興味あるのでな。ほとんど、関心がそっちの方にいってしまっている」
「そういえば孫七郎さんは、書物や刀剣の時は別人みたいにハキハキと喋りますからね。何だかオタクみたい」
「「おたく?」」
「ある特定の分野に関心があり、その物事に詳しい人の事ですよ」
「……確かに、俺はそういった物は好きだ」
「おたくか、その様な者も猫丸の国には存在するのか?」
「まあ、いろいろな種類の人たちが。それをひとくくりにするのは難しいですけど」
「猫丸の国は、やはり不思議だ。いくら聞いても飽きない」
「そんな奴らがいるのか。俺と話が合う奴もいるのか?」
「さあ……それは、わかりませんけど、いるかもしれませんね」
孫七郎さんは微笑んで、
「いるかもしれないか……」
オレの身近にそういう人がいるからなー。その人の事は言わないでおこう。
八郎に聞かれる日まで……。
「では、帰るとしよう」
「そうだな」
「では、また明日だ」
孫七郎さんと別れると……。
「あっ⁉」
「猫丸、どうした?」
「悪い、八郎。一人で帰ってくれ」
「あっ、帰るのは構わないが、何かあったのか⁉」
「あと、エリンギも頼む!」
「ね、猫丸⁉」
オレはあの人を見かけたので、八郎にエリンギを預けてから、聞いてみたい事があるので行った。
幸い、一人なので聞きやすい。
「あの……弥九郎さん‼」
「ん? 猫さん。何や?」
「あの……船に乗った時、『約束や』って言ってましたけど……約束って何ですか? 後、一人だけなら誰を助ける気だったんですか⁉」
「……さあ、約束した人が多すぎて、わかりません」
「あっ‼ 弥九郎さん‼」
弥九郎さんは早歩きで去った。