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備前宰相の猫  作者: 山田忍
127/153

猫と帰還

「ん?」

 今まで、目の前にいた敵はいない。敵たちは全員、あの船に乗っている。

「じゃあな」

 船はパッと消えた。

「き、消えた⁉」

「な、何や?」

「ふにゃあ」

 足元から聞こえる、この愛らしい鳴き声は、

「エリンギ⁉ 無事だったのか⁉」

 エリンギは小声で、

「当然だ。簡単には死なんぞ」

「エリンギ、無事でよかった」

「見捨てようとしただろ」

「まあな」

「おい!」

 オレがエリンギと再会している間、周りは驚いている。

「ふ、船は、何処に行ったんや⁉」

「そうだ。船は何処だ⁉」

「ふにゃ~あ」

 そうだ。船が消えたんだ‼ どこに行ったんだ⁉

「エリンギ、大きな船があったんだけど、わかるか?」

「さあ、成仏でもしたんじゃないのか?」

「成仏って……それはないだろ‼」

「で、今までに、何が起こったんだ?」

「ああ、それは——」

 エリンギに今まであった事を説明した。

「そうか。そんな事があったのか。まずは、あいつが誘拐した女子供の場所を教えてやる」

「知っているのか⁉」

「ああ、それもこれも海に落ちた時に、俺を助けていれば、もっと簡単に解決した事なのに」

「簡単に、ってどうやってだよ!」

「それは秘密だ」

「はあ……いいけど、さあ……」

「それより、飯は?」

「あっ⁉ そうだ。弥九郎さん。食事は——」

「……無いわ。全部、賊にあげましたから……」

「そ、そんな⁉」

「ふぎゃあああああああ(全部だったのかあああ)!」

「猫丸、えりんぎ、命が助かったのだ。食事よりも、幽霊船の騒ぎが解決した喜びを祝おう」

「そうだよな……弥九郎さん、無事だし」

「何? どういう事だ? バカ猫?」

「実は——」

 エリンギに弥九郎さんの事を全て話すと、

「何ぃ⁉ あの南蛮かぶれが死ぬチャンスだったのか⁉」

「チャンスって……とにかく死にかけたんだ」

「くそっ‼ 俺がもっと遅かったら、あの南蛮かぶれのみじん切りが見れたのか‼ くそっ‼ 惜しい事をした‼」

「エリンギ、お前、弥九郎さんが嫌いでも、みじん切りなんて、よく言えるよな」

「ん? 細切れがよかったか?」

「そういう問題じゃねえよ」

「猫丸、えりんぎは恐ろしい事を言っているのはわかるが、あそこにも恐ろしい者がいるぞ」

「恐ろしい者?」

 その恐ろしい者がエリンギの首を掴み、

「キクラゲ、いい覚悟だな。ボクが皆に猫のハンバーグをご馳走してやろうか?」

 裸エプロンの如月が包丁を持って、エリンギに向けている。

「やめろ、如月! 可愛い猫に対する残酷な所業だな‼」

「キクラゲ、中身はクズだろうが」

「ぬいぐるみの様に外見は可愛い!」

 エリンギが焦っていると、

「如月、やめて! えりが嫌がっています!」

「そうじゃ、やめるのじゃ」

「かわいそう」

「震えているぞ」

 お豪ちゃんたちが助けに来た。如月から救出されたエリンギはガラにもなく、お豪ちゃんの腕の中で震えている。

「かわいそうな、えり。よちよち」

「ふにゃあ……」

 が、すぐスケベオヤジの顔になった。

 そして、お豪ちゃんが離れると、如月は弥九郎さんの腕を組んで、

「弥九郎様、食事が無いのなら、ボクを食べます?」

「阿呆、解決したんで上様に報告や!」

「上様に報告⁉ って事は上様も……」

「知っていました。儂が上様に報告した事や。……そしたら、坊ちゃまと猫さんを行かせろ、ってなったんや」

「上様、またオレたちを……」

「だが、父上にとっては予想していなかった事が起きたが、小西殿、どの様に説明するつもりだ?」

「ああ、姫君達が来た事やろ。まあ何とか、はぐらかします」

「お豪は怖かったけど、お兄様の活躍が見る事が出来て楽しかったでする!」

「妹たちも大事は無いし、船に乗ったし、楽しかったぞ!」

「幽霊と仲良くなれなかったのは残念だが、良しとしよう」

 お初ちゃんだけ、遠くを見て、

「お魚……新鮮なお魚が残念でした……」

「お初……」

「魚やったら、帰ってからご馳走したる!」

「「本当⁉」」「ふにゃ!」

「猫丸、お主まで」

「ああ、ほんまや!」

「わぁい! 嬉しい……」

「魚ー!」

 オレたちが喜んでいると、如月は弥九郎さんの腕を組み、甘い声で、

「弥九郎様、覚えています? 七回目……」

「何の事や?」

「え?」

 如月が目を白黒していると、お茶々さんが、

「しないのか‼ 男に二言は無いじゃろう!」

「ならば、上様に言いましょう」

「皆、傷物にされた、と言おう! 勿論、お豪殿も!」

「? わかりました!」

 その言葉を聞いた弥九郎さんは一気に生気が抜けて、

「……覚えとる……。したる……」

「やったわ! ありがとう!」

 如月は上機嫌だが、それと対照的に弥九郎さんは元気が無い。

「小西殿……己の行いだ」

「うん」

「ふにゃあ!」

「お兄様! 猫様! 見て下さい!」

「どうした?」

「なになに?」

「大坂の町が見えてきました」

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