猫と交渉
が、
「きゃああああああ!」
「は、放すのじゃ!」
「い、痛い!」
「放せ‼」
振り向くと、家臣が倒れていて、敵の数人がお豪ちゃんや三姉妹を羽交い絞めにして捕まえている。
「あっ⁉」
「これで、形勢逆転だな」
敵の一人がお豪ちゃんにピストルを突き付けている。
「お豪!」
「お兄様! 猫様!」
八郎が近づこうとすると、
「おっと、風穴開けたいのか?」
それでも、八郎は近づこうとする。
「八郎やめろ‼ こいつ、近づくと、お豪ちゃんを撃つ気だぞ!」
「何?」
八郎が止まると、敵は更に要件を言う、
「武器を捨てな。捨てねえと、女どもは皆殺しだぞ」
「何を言っているのだ?」
オレは分かるけど、八郎や他の人たちは分かっていない。けど、如月だけは、
「武器を捨てろって、そうしないと女の子達を殺す……って言ってるわ」
「な!」
「く……」
仕方なく、オレたちは武器を置いた。
「さて、どうしますか? 船長?」
「いいっ⁉」
現れたのは、顔面を覆う長く伸びた真っ黒な髭を編み、顔の両側が燃えており、目はおぞましく両目が輝いていて、腰にはピストルが三艇ある。
こいつが明らかに、あの船のボスであるとわかる。
「女は高く売れる。男は俺らに刃向かったのだ。……全員殺せ。そして、金目の物と食糧と酒を見つけ出せ」
「おおっ!」
「そして……」
「うおっ!」
そのボス格の男はオレを掴んで、
「こいつは俺が飼う。いいな」
子分たちは戸惑ってから、
「おおー‼ そうだ! そうだ!」
「悪魔には怪物が似合うだろ」
「ま、待てよ!」
ボス格の男が、オレを連れ去ろうとすると、
「待て‼ 猫丸に何をする⁉」
八郎が近づくと、子分が斬ろうとしたが、八郎は間一髪で避けた。
「何をする‼」
「女を連れて行け!」
「へいっ!」
「いやっ! 助けて!」
「何処に連れて行く気じゃ!」
「放して!」
「やめろ!」
お豪ちゃんや三姉妹が連れられそうになると、
「待つんや!」
弥九郎さんが大声で叫んだ事で、子分たちの動きが止まった。
「?」
「食糧と金は全部やる」
「……食糧と金は全部あげます」
「あれ?」
なんで、弥九郎さんが喋った後に如月が喋っているのだろう?
「その代わり、まずは姫君達を助けたい」
「……その代わり、まずは女の子達を助けたいのです」
「持ってくるんや」
「は、はっ!」
数人の水夫が食糧や金銀を持って来た。それを見た男は感心した。
「後、持っているのは……」
弥九郎さんはピアスや指輪を外して、金銀と同じ所に投げた。
「これでどうや。姫君は見逃してくれるやろうか?」
「これでどうでしょうか。女の子達は見逃してもらえるでしょうか?」
ボス格の男は少し考えてから、
「……女は逃がしてやれ」
「えっ、あ、はい……」
羽交い絞めにされてたお豪ちゃんや三姉妹は救出され、如月の元に集まった。
弥九郎さんも一瞬だが、安堵の表情を浮かべた。
捕まえていた下っ端の敵たちは小声で、
「もったいないな」
「船長が言っているから無理だろう」
なんて言ってる。が、ボス格の男は話を続けた。
「……だが、男は皆殺しだ」
如月が弥九郎さんに耳打ちすると、弥九郎さんは八郎を見て、
「そこの少年や家臣と水夫の命は、儂の首で」
「……そこの少年や部下の命は、私の首で……」
「ほう、この船の船長か?」
また如月は耳打ちをした。
「……せや」
「……そうです」
「だが、首は一つだけだぞ。……一人だけだ。誰を助ける気だ?」
如月は耳打ちをしているが、どこか体が震えている。
「それは……勿論……首で足りへんのやったら、全身切り刻んで持っていったら、ええやろ」
「⁉ …………首で足りないのならば…………全身切り刻んで持っていけば…………いいでしょう」
「なっ⁉ 弥九郎さん⁉ 正気か⁉」
「小西殿⁉ やめるのだ‼」
如月は弥九郎さんに抱き着き、涙目で見つめている。
「……弥九郎様ぁ……いや……」
ボス格は笑い、
「それは良い考えだな! そうしよう! おい! 錆びたカットラスがあっただろ!」
「はい!」
下っ端は錆びて切れ味の悪そうなカットラスを持ってきた。
「さて、どこから切り刻んでやろうか? その顔か? それとも、指か?」
ボス格の男は切れ味の悪いカットラスを持ち、弥九郎さんに近づけた。
「小西殿……やめ——」
「坊ちゃま! 動くな!」
向かおうとした八郎は動きを止めた。
「……」
如月が動こうとすると、
「如月もやめるんや」
「でも……!」
「でもや、あらへん! 如月、大勢の人を死なせたいんか⁉」
「弥九郎様さえいれば、ボクは——」
「儂なんかより、ええ男は腐るほどおるやろ。儂がおらんでもええやろ」
「いやだ! ボクは弥九郎様が大切なんだ!」
「言う事聞くんや! 如月」
弥九郎さんは如月の肩を抱いた。
「…………」
「小西殿……」
「どうすればいいんだ……」