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備前宰相の猫  作者: 山田忍
122/153

猫と出航

 如月は相変わらずくっついたままで、弥九郎さんは話だした。

「猫さん、坊ちゃま、この海にまつわる怖い話をしましょうか?」

「怖い話?」

「せや、猫さん。幽霊船って知っていますか?」

「幽霊船? 知ってるけど、それが?」

「ゆ、幽霊船だと‼」

 八郎はオレに抱き着いてガタガタ震えている。

「八郎、驚きすぎだよ」

「幽霊船だぞ! 驚くなと言う方が無茶だ‼」

 エリンギが肩に乗り小声で、

「まあ、幽霊の類いは本気で信じていたからな」

 八郎を見ると、まだ震えている。

「八郎、妖が出ているマンガ見ただろ。そん時は嬉しそうに見ていたし、八郎のいとこが死んだ時だって震えていないじゃないか」

「あの様な、愛らしい妖なら怖くはない! それに骸だけなら平気だ‼」

「八郎……」

「話を続けて、最近、見慣れぬ異国の船が現れて、中から幽霊が出てきては、島々で悪さをしているんや」

「な……⁉」

「悪さ? 悪さって?」

「奇天烈な着物を纏った幽霊が人を殺し、金品や食料だけでなく、女子供も連れ去って行く幽霊達や」

「ひ、人を⁉」

「恐ろしいでする‼」

「か、帰るぞ!」

「せやから、姫様達、一旦帰るんや」

 涙目で八郎が、

「ゆ、幽霊が人を……お、おぞましい! そ、それでどの様に人を殺すのだ?」

「……八郎」

 震えながら聞くなよ。

「剣や銃を使って殺してるんや」

「剣や銃って……本当に幽霊かよ⁉」

「それは分かりまへん。ほんまもんか偽もんか調べてみんと分からんって事や」

「「「「「「…………」」」」」」

「さあ、一旦帰り——」

「幽霊と友達になりたいから行く‼」

「江ちゃん! なにを言ってるんだ‼」

「幽霊がいるのだろう。それは興味深い事だ! ぜひ、連れて行ってくれ!」

「えっ⁉ ええっ⁉」

「於江が残るなら、妾も……」

「私も二人を置いていく訳には……」

「そ、そんな‼」

「帰るんや‼ 幽霊と仲良くなったら祟られるだけや‼」

「祟られるのなら、祟り返せばいいだけだ」

「な、何やと⁉」

「まあ、妾らには如月がいるからのう、大事は無いはずじゃ」

「そ、幽霊退治したら、一回ね」

「阿呆か‼」

 お豪ちゃんも何か考えてから……。

「お豪もお兄様と猫様の活躍が見たいのでする‼ お豪も残ります!」

「そ、それは危険だ‼ お豪を危険な目に遭わせる訳にはいかない!」

「でも……お豪もお兄様や猫様の活躍を見たいのでする!」

「想像だけでええんや‼ せめて、貴女様だけでもお帰りに——」

「ふにゃあ」

 エリンギがお豪ちゃんの体をスリスリしている。

「えり……お豪は、えりが守ってくれます。もし降りろと言うのなら、ととさまに邪険にされたと言いつけまする!」

「何やとおおぉぉ‼ では、降りなくても構いません‼」

「嬉しいでする!」

 お豪ちゃんは笑みを浮かべて嬉しそうにエリンギを抱っこして、

「えり、お豪を守ってください! ——お兄様、猫様、心置きなく戦ってください」

「ふにゃあ!」

 エリンギはりりしく言っているが、八郎は、

「だ、だが……」

「八郎」

「……わ、わかった」

 今の八郎とエリンギに守れるのか?

「お、お豪、お豪は私が守る。危なくなったら私の側にいるのだ」

「オレも守るぞ」

「はい!」

 皆、わいわい言ってると、生気が無い弥九郎さんが如月の前でへたり込み、

「如月、姫様達を守ってください……儂、何でもしたる…………」

「本当! じゃあ、七度目!」

「ああ……七度でも十度でも構わん……」

「約束よ! やったぁ!」

 それにしても、

「エリンギ。なんで弥九郎さん、落ち込んでいるん?」

「秀吉お気に入りの姫君達、特にお豪ちゃんに、ほんのちょっとでも怪我させてみろ。小西家は改易どころではないぞ。……くくく」

「嬉しそうだな。エリンギ」

「猫丸。お豪を守るぞ」

「そうだな」

「行きましょうか? 幽霊船に」

 弥九郎さんは、いつの間にか立ち直っており、オレたちの側に来ていた。

「姫様たちは如月がおるからいいとして、お豪ちゃんもオレたちが守るし、幽霊船は弥九郎さん一人で調べて——」

「そ、そうだ! 小西殿、一人で調べるのだ‼」

「猫さん、家臣も連れて来ております。儂だけで行く訳ないやろ。それに猫さんと坊ちゃまも一緒に行くんや」

「オレらも幽霊船の中に行くのか」

「わ、私も行くのか⁉ 私はお豪を——」

「まあ、心配はいらんで、坊ちゃまは儂が守ったる」

「えっ?」

「……猫さん。手足の一、二本無しなっても、恨まんといてや」

「いやいやいやいや! それはムリだ‼」

「猫さんの猫は……知らん」

「ふぎゃあ(何だと)!」

 エリンギは得意のライダー……ならぬエリンギキックをしたが、弥九郎さんは軽く避けた。——が、エリンギは勢いよく飛んだため、見事、狭間を抜け、船の外に出て、

「ふにゃあああああ!」

 ポチャンと音がして海に落ちた。

「エリンギ!」「えりんぎ!」

 落ちてしまったエリンギを救出しに行こうと思い、狭間を掴んで板を登ろうとすると、弥九郎さんに肩を掴まれ、

「猫さん、坊ちゃま。祈るんや」

「でも……」

「猫さんの猫がインヘルノに行ける様にや……」

「弥九郎さん……」

 インヘルノ……それは地獄。

「キクラゲの事よりも、いいわね。弥九郎様に守ってもらえるなんて」

 如月の声は、普段の甘い声だがその中には、どこかトゲがある。だが、すぐ甘い声に戻り、

「ねえ、弥九郎様。ボクも危ない目に遭ったら、助けてくれる?」

「阿呆。自分、身ぃ守れるやろ。何で儂が如月を——」

「まあね。だけど、一回ぐらいあっても、いいんじゃないの? それとも何? 男色の相手として——」

「阿呆! それはないわ! ボケェ‼」

「あらあら、怒られちゃった……」

 如月は離れて女の子たちと会話をした。

 そして、弥九郎さんを見ると、

「——約束や」

「えっ?」

 小声で、そんな事を言ったのかもしれない。

 それから穏やかな風に乗り、船は順調に進み、

「もう少しで幽霊船も見えてきます。場所は豊島(てしま)の所や」

「豊島?」

小豆島(しょうどしま)の近くの島だ」

「そっか」

 更に船は進んで行き、

「見えたで、あれが幽霊船や」

「き、来たのか⁉」

「これが、幽霊船か……」

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