猫と三女
三姉妹に連れられて、さっきの大きな木がある場所に連れられた。
「ここで、なにするの?」
「これをするのだ」
三女は木刀を投げたので、受け取ると、
「猫よ。これから武芸をする」
「いいけど」
三女は練習用の薙刀を持って構えている。
「男とか女とか関係ない。本気で行くぞ!」
「……ああ」
「負けてはならぬぞ」
「勝つのよ!」
「わかっている!」
姉二人は応援しているが、
「ふにゃ~あ」
エリンギは応援する気ゼロだ。
お互い構え直して、
「行くぞ!」
「来い!」
三女は上段からきたが、木刀でガードして攻撃に移る。
「てぇい!」
「はっ!」
攻撃をしたが、三女は薙刀でガードした。
「やるな。猫」
「そっちこそ!」
「行くぞ!」
三女が走り出し、横から叩きつけようとするが、
「たあ!」
「⁉」
オレも飛び上がって、
「えい!」
「きゃ!」
頭を木刀で軽く当てた。
「オレの勝ち!」
三女はへたり込んで、
「……負けた」
エリンギが走って来て、
「ふぎゃあ!」
「おいおい! エリンギ……ぎゃあ!」
オレは、なぜかエリンギに引っかかれた。
「くくっ……強いのは、あの猫かもしれんぞ」
「そうかもしれないわね」
「……こんなに、あっさり負けると悔しいな」
「いや、結構、筋は良かったよ。今、負けても、これから強くなればいいさ」
「だが猫よ。女相手でも手加減はしなかったな」
「したよ。あまり痛くないように」
「だが頭を狙ったではないか‼」
「教えてくれたんだ」
ある日の事、虎之助さんと鍛錬していると、
『中々、上手くなったな。猫よ』
『そうですか?』
『そんな、俺から次の戦いだ』
『?』
虎之助さんが屋敷に入って、しばらくすると、
『どうだ!』
女物の小袖を着た虎之助さんが出て来た。
『え~と……なにが?』
『女である俺に向かってかかってこい!』
『……虎之助さん。女物の小袖着ただけじゃ、傾奇者になっただけじゃないですか。女だと思われたいのなら、もっと上手にしないと』
『そうか。では』
また屋敷に入って出て来ると、
『どう!』
女口調で厚化粧した虎之助さんが出て来た。筋肉質の体と髭面の顔なのに、白塗りにお歯黒と言うアンバランスな姿だ。
『虎之助さん。髭は……?』
『髭は剃らないわよ‼ 武士の証よ!』
『でも……女装……』
耐えろ。耐えろ、オレ!
『くくくくっ……お、お主、笑わせるな。不気味だ』
見学していた左衛門さんも笑いをこらえているが、オレはついに……。
『ぎゃははははははっ!』
『何で笑うのよ! 猫、お——わらわを女と思ってかかってくるのじゃ!』
『わ、わかりました! な、なんとか、やってみます!』
オレも笑いを堪えて戦うが、
『たあ!』
『甘いわ!』
普段より速く叩かれてしまった。
『いいか、猫。相手を女と思って手を抜いてはいけない』
『でも、女の子でしょ』
『女とはいえ、死に物狂いで戦う女に対して手を抜くのは、死に急ぐ行為。女が死ぬ気で戦うのなら、手を抜かずに戦え! 相手は覚悟を決めているのだ。死にたくないのなら、戦え‼』
虎之助さん……本当に戦う男なんだな……。
『……わかりました』
『そうだ。……手は抜くな』
『でも、手を抜くより最大の敵は虎之助さんの顔ですけど……』
『それは厄介だな!』
『何だと! 猫! 左衛門! いい覚悟だ——』
『虎之助さん。失礼!』
オレは持っていたスマホで写真を撮った。
『その音は、俺の姿を閉じ込めたんだよな? 何故だ?』
『弥九郎さんに見せようと思って——』
『何ぃ‼ 猫‼ どうやって消すんだ⁉ 壊せばいいのか⁉』
『ぎゃー‼』
オレと虎之助さんとで追いかけっこになったな。
「そんな事があったから、本気で戦う相手には、本気で行くようになったのさ」
「……なるほど、それで本気でか」
座っていた三女は立ち上がり、ほこりを払ってから、
「……今回は負けたが、次は負けないぞ」
「ああ、次も勝つさ」
「次は、わたくしが勝つ」
「ああ、もうこんな時間」
空は赤くなり、カラスの鳴き声がする。
「さあ、帰るぞ。いつまでも帰ってこないと、妾らを探しに来るぞ」
「夕餉が待っていますね」
「そうだな。帰らねば」
「じゃあ、送って——」
「構わぬ、妾たちだけで帰れる」
「その心遣いに感謝します」
「猫の力に頼る訳にはいかない」
「そっか……じゃあ」
オレが帰ろうとすると、長女が、
「そうじゃ。もし、また会いたいのなら、大坂城に来るがよい」
「えっ⁉」
「そうね。大坂城なら、いつでも会えるわ」
「大坂城に行けば、いつでも勝負できる」
「えっ、ええっ⁉ 大坂城にいるの⁉」
「おおっ、そうじゃ! 大坂城に来るがよい! 友を紹介する!」
「えっ⁉ 友達⁉」
「ふにゃ(女か)⁉」
「猫の話は友から聞いた。その友に会わせてやる! また、いつでも来るのじゃ!」
「ああっ⁉ 友達って、誰⁉」
三姉妹は去り、オレとエリンギだけが残った。