表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
備前宰相の猫  作者: 山田忍
119/153

猫と三女

 三姉妹に連れられて、さっきの大きな木がある場所に連れられた。

「ここで、なにするの?」

「これをするのだ」

 三女は木刀を投げたので、受け取ると、

「猫よ。これから武芸をする」

「いいけど」

 三女は練習用の薙刀を持って構えている。

「男とか女とか関係ない。本気で行くぞ!」

「……ああ」

「負けてはならぬぞ」

「勝つのよ!」

「わかっている!」

 姉二人は応援しているが、

「ふにゃ~あ」

 エリンギは応援する気ゼロだ。

 お互い構え直して、

「行くぞ!」

「来い!」

 三女は上段からきたが、木刀でガードして攻撃に移る。

「てぇい!」

「はっ!」

 攻撃をしたが、三女は薙刀でガードした。

「やるな。猫」

「そっちこそ!」

「行くぞ!」

 三女が走り出し、横から叩きつけようとするが、

「たあ!」

「⁉」

 オレも飛び上がって、

「えい!」

「きゃ!」

 頭を木刀で軽く当てた。

「オレの勝ち!」

 三女はへたり込んで、

「……負けた」

 エリンギが走って来て、

「ふぎゃあ!」

「おいおい! エリンギ……ぎゃあ!」

 オレは、なぜかエリンギに引っかかれた。

「くくっ……強いのは、あの猫かもしれんぞ」

「そうかもしれないわね」

「……こんなに、あっさり負けると悔しいな」

「いや、結構、筋は良かったよ。今、負けても、これから強くなればいいさ」

「だが猫よ。女相手でも手加減はしなかったな」

「したよ。あまり痛くないように」

「だが頭を狙ったではないか‼」

「教えてくれたんだ」

 ある日の事、虎之助さんと鍛錬していると、

『中々、上手くなったな。猫よ』

『そうですか?』

『そんな、俺から次の戦いだ』

『?』

 虎之助さんが屋敷に入って、しばらくすると、

『どうだ!』

 女物の小袖を着た虎之助さんが出て来た。

『え~と……なにが?』

『女である俺に向かってかかってこい!』

『……虎之助さん。女物の小袖着ただけじゃ、傾奇者になっただけじゃないですか。女だと思われたいのなら、もっと上手にしないと』

『そうか。では』

 また屋敷に入って出て来ると、

『どう!』

 女口調で厚化粧した虎之助さんが出て来た。筋肉質の体と髭面の顔なのに、白塗りにお歯黒と言うアンバランスな姿だ。

『虎之助さん。髭は……?』

『髭は剃らないわよ‼ 武士の証よ!』

『でも……女装……』

 耐えろ。耐えろ、オレ!

『くくくくっ……お、お主、笑わせるな。不気味だ』

 見学していた左衛門さんも笑いをこらえているが、オレはついに……。

『ぎゃははははははっ!』

『何で笑うのよ! 猫、お——わらわを女と思ってかかってくるのじゃ!』

『わ、わかりました! な、なんとか、やってみます!』

 オレも笑いを堪えて戦うが、

『たあ!』

『甘いわ!』

 普段より速く叩かれてしまった。

『いいか、猫。相手を女と思って手を抜いてはいけない』

『でも、女の子でしょ』

『女とはいえ、死に物狂いで戦う女に対して手を抜くのは、死に急ぐ行為。女が死ぬ気で戦うのなら、手を抜かずに戦え! 相手は覚悟を決めているのだ。死にたくないのなら、戦え‼』

 虎之助さん……本当に戦う男なんだな……。

『……わかりました』

『そうだ。……手は抜くな』

『でも、手を抜くより最大の敵は虎之助さんの顔ですけど……』

『それは厄介だな!』

『何だと! 猫! 左衛門! いい覚悟だ——』

『虎之助さん。失礼!』

 オレは持っていたスマホで写真を撮った。

『その音は、俺の姿を閉じ込めたんだよな? 何故だ?』

『弥九郎さんに見せようと思って——』

『何ぃ‼ 猫‼ どうやって消すんだ⁉ 壊せばいいのか⁉』

『ぎゃー‼』

 オレと虎之助さんとで追いかけっこになったな。

「そんな事があったから、本気で戦う相手には、本気で行くようになったのさ」

「……なるほど、それで本気でか」

 座っていた三女は立ち上がり、ほこりを払ってから、

「……今回は負けたが、次は負けないぞ」

「ああ、次も勝つさ」

「次は、わたくしが勝つ」

「ああ、もうこんな時間」

 空は赤くなり、カラスの鳴き声がする。

「さあ、帰るぞ。いつまでも帰ってこないと、妾らを探しに来るぞ」

「夕餉が待っていますね」

「そうだな。帰らねば」

「じゃあ、送って——」

「構わぬ、妾たちだけで帰れる」

「その心遣いに感謝します」

「猫の力に頼る訳にはいかない」

「そっか……じゃあ」

 オレが帰ろうとすると、長女が、

「そうじゃ。もし、また会いたいのなら、大坂城に来るがよい」

「えっ⁉」

「そうね。大坂城なら、いつでも会えるわ」

「大坂城に行けば、いつでも勝負できる」

「えっ、ええっ⁉ 大坂城にいるの⁉」

「おおっ、そうじゃ! 大坂城に来るがよい! 友を紹介する!」

「えっ⁉ 友達⁉」

「ふにゃ(女か)⁉」

「猫の話は友から聞いた。その友に会わせてやる! また、いつでも来るのじゃ!」

「ああっ⁉ 友達って、誰⁉」

 三姉妹は去り、オレとエリンギだけが残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ