猫と長女
翌日、昨日と同じ場所にて、
「来たか。猫」
待っていたのは、長女が袴姿で立っていただけだ。
「あれ? 今日は一人で?」
「いや、後から来る。それまで妾と遊ぶのじゃ」
「遊ぶって、どんな?」
「行くのじゃ! 妾のお気に入りの地に」
二人で行くと、大きな木がある所に来た。
「ここで何するの? それに、あの二人には?」
「二人には、ここに来る様に言っておる。さあ、行くぞ!」
そういうと、長女はどんどん木の上に登って行った。
「あっ⁉ 待って——」
「待たぬ! 待ってほしいのなら先に上に登る事じゃ」
長女は更に上に登って行った。
「仕方ないな。エリンギ行くぞ」
エリンギを頭の上に乗せ、オレも上に登る事にした。
「それにしても、速いな」
あの長女は豆粒みたいな大きさになっていて、オレより先に行っている。
「エリンギ、つかまっていろよ」
「わかった」
「いで! 爪立てるなよ‼」
「どうしろと言うんだ」
「取りあえず、落ちないようにしてくれ」
「最初からそう言え」
エリンギが落ちないようにすると、オレは本気で登った。
「ほう! 中々速いな。しかし、妾も!」
長女もスピードを上げて、更に速く高く登ろうとしている。
「あー! 負けるか‼」
オレも本気で登っていると、
「お姉さまー! 頑張って!」
「負けるな! 姉上!」
下の方から声がしたので見ると、三姉妹の二人が来ていて長女の応援をしている。
「おい! エリンギ! 応援……」
「ンニャンニャ……」
「する訳ないよな」
と、思っていると、
「猫も早く登れ!」
「猫も負けないで!」
エリンギではなく、あの二人が応援している。
「ようし!」
せめて同時に到着はしたいものだ。
「行くぞ!」
オレのスピードが上がり近くなると、
「本気になったか、急がねば」
長女も速くなったが、
「負けないぞ!」
「ああっ!」
ついにオレが追い抜いた。
「やった!」
「やるな。だが、まだ分からん!」
長女は更に速くなり、オレが抜かれそうになる。
「もう少し……」
「やべっ!」
もう少しで抜かれそうになると、
「ああっ‼」
長女が手を滑らせて、落ちそうになった!
「お姉さま!」「姉上‼」
「しまっ——」
「危ねえ‼」
何とか腕を掴んで救出に成功した。
「怪我は無いか⁉」
「あ、ああ……無事じゃ……」
「そっか。じゃあ」
腕を引っ張り上げ、枝に足を掛けると、
「感謝するぞ。猫。だが——」
「だが?」
「勝負はこれからじゃ!」
長女は負けずに追いかけていると、
「「着いた!」」
オレはてっぺんに着いたが、
「「ん?」」
長女も同着だったので、結果は引き分けだ。
「この勝負は引き分けじゃな」
「そうだな」
「次は負けぬが……見よ」
長女が指さす方向を見ると、澄んだ青空と大坂の町一帯が見渡せる絶景だ。
「はあー」
「妾らは三人でこっそり、ここに来て菓子を食べながら見渡すのじゃ。お主にも、そんな友はいるのか?」
「この世界には、八郎がいるけど、こんな所で遊んだことないなぁ。今度ここに連れて来てみよう」
「それならば、そうするといい」
二人と一匹で大坂を見渡していると、
「お姉さまー! 私も猫と遊びたいですー!」
「わたくしもー‼」
妹たちの声が聞こえてきた。
「そろそろ降りるとするか」
「ああ」
木から降りると、後の二人がやって来て、
「お姉さま! 次は私! 木に登っている間に決めました!」
「わたくしは最後に遊ぶぞ」
「ニャハハハ……」
次女と遊ぶ事になった。