猫と三姉妹
散歩をしていると、鮨屋の屋台が見えた。
「相変わらずだな」
鮨屋は客が入れ替わり入っている。
そこで繁盛している鮨屋をのぞくと、
「これもいいのう」
「ん?」
みすぼらしい着物を着て、鮨をたくさん食べている客がいる。
「あと、これも」
その客の顔をのぞき込むと、見た事ある小柄でしわくちゃの顔……これは……?
「上様!」
「あっ⁉ これ‼ 猫! 静かにするのじゃ」
上様に口を押えられると、周りは騒がしくなり、
「上様だって⁉」
「殿下様なら大坂城では⁉」
「本物なら、何でこんな所に⁉」
上様は黄金三枚投げ、
「代金じゃ! 受け取れ‼」
「えっ⁉ き、金⁉」
「行くのじゃ!」
オレは口を押えられたまま、連れて行かれた。
その後、大坂城で着替えた上様と奥御殿に入り、
「まったく、猫よ。余だと民の前で言う者がいるか」
「いやあー。すいませんねー」
「はあ……。だが確かに、噂通り鮨は美味であった」
「誰から聞いたんですか?」
「御伽衆の連中や師匠、八郎からじゃ、鮨なる美味な物が大坂の町にあると聞いたので、美味ならば大坂城に呼び、おねねや五もじらにも、ご馳走しようと思っただけじゃ」
「ああ、それで上様、お忍びで……何かすみません」
「よい。後日、呼ぶ事にしよう。その時は猫も来るがよい」
「はいっ!」
大坂城を出て、宇喜多屋敷に帰る途中、
「放すのじゃ! 無礼者‼」
「助けて」
「何するのよ‼」
「へっへっへっ、お嬢ちゃん達、どこ行くの?」
「よかったら、俺たちと遊ばない?」
「あそこの路地でさ」
声の方向を見ると、三人組の女の子を傾奇者の集団が連れ去ろうとしている。
「エリンギ、行くぞ!」
「ふにゃあ‼」
助けに行くと、
「待て!」
「ああん?」
「乱暴はやめろ!」
「何だあ、殺すぞ? ガキ」
言い終わる前から刀を抜き、斬りかかった。
「たあ!」
が避けて、持っていた木刀で全員の頭を叩くと、
「くっ……逃げるぞ」
「へ、へい……」
傾奇者の集団は逃げ、残ったのはオレたちと三人組の女の子だけになった。
「ケガとかない?」
三人組の女の子の顔をよく見ると、皆、かなりの美人で似ており、年齢と身長こそ違うが、三姉妹であるかもしれないと思った。
「誰も怪我は無い。感謝する」
背が高く、長めの小袖を着たオレより少し年上の長女らしき女性が言うと、
「はい。貴方のお陰でございます」
背が低く、単の小袖を着た少女が嬉しそうに言う。
「礼を言うぞ!」
袴姿で、二人目の少女と同じぐらいの身長の少女が元気に言ったら、長女らしき女性はオレを見て、
「もしかして、猫か? 備前の猫か?」
「そうですけど」
女の子たちは目を輝かせて、
「そうか! これがか! 初めて見た!」
「まあ、どうりで不思議な目をしているかと」
「尻尾だ。柔らかいぞ!」
次にエリンギを見て、
「そして、その猫が連れている猫が、この猫か」
「可愛い!」
「触らせろ!」
「ふにゃ~ん!」
エリンギは、おなじみのスケベオヤジの顔になった。
「そうじゃ、こうしてはいられない。妾らは噂で聞いた鮨屋に行きたいのじゃ。鮨屋はどこじゃ?」
「鮨屋? 鮨屋なら案内しようか?」
「本当か⁉ ならば頼もうか」
「楽しみ」
三姉妹を連れて鮨屋まで行く事にした。鮨屋は運よく席が空いていて、すんなりと座る事が出来た。
「へい、らっしゃい!」
「「「……」」」
三姉妹は座っているだけで、何も注文しない。
「食べたい物が分からない場合は、おすすめを頼むといいよ」
「じゃあ、おすすめで」
「あいよ!」
おすすめの握り鮨が出されて、三姉妹は幸せそうに食べる。
「これが鮨か」
「初めて食べたわ」
「美味いな」
「ところで、猫は食べないのか」
「まあ、普段から食べているから」
「こんな美味しい物を食べる事が出来るとは、うらやましいものだ」
「ニャハハハ……そうかな?」
三姉妹が鮨を食べ終わると、
「食べ終わると、おあいそ、って言うんだ」
「おあいそ!」
「まいど! 四百八十文になります!」
次女らしき少女が四十貫も食べていたからな。どうするんだろ? と思っていると、
「では、行くぞ」
三姉妹は出ようとしている!
「ちょっと待って! まさか、代金払わないの⁉」
「代金とは何じゃ?」
「えっ⁉」
この三姉妹、代金を知らない⁉
「……しかたないな。代金はオレが払うよ」
「まいどあり!」
当面、お金無いなって思っていると、
「猫、お主といると面白い事になりそうだな」
「何だか楽しそう」
「そうだ! よし! 猫、明日、この場所で会おうぞ!」
「明日、ヒマだから会うのはいいけど、名前は⁉」
「名前⁉ 名を聞くのか⁉」
三姉妹は全員顔を赤らめ、恥ずかしそうになった。
「えっ?」
「妾らの名を聞くとは、それは夫になる者か親しい者だけじゃ‼」
「夫って……結婚‼ 結婚なんてしないよ!」
「ならば、妾らの名を聞くな!」
「わかったよ。じゃあ、また明日な」