猫と商売(その3)
「やったじゃないか。猫丸」
「……ああ」
「何がやったじゃないか、だ。二位だぞ! 二位! 一位は黄金十枚だぞ! 二位では黄金五枚しかないんだぞ! 如月に負けやがって‼」
「えりんぎ、お主……その足の下にある物は何だ?」
エリンギの足には黄金五枚がある。
「キクラゲ、全額遊ぶ金に使うんでしょ」
「き、如月‼ ふぎゃあああ‼」
エリンギは構えて怒っている。
「如月。お前、すごいな。あんな技やこんな技、出来るなんてさ」
「ああ、猫丸が出来ない技をこなすとは……」
「ふふ。寝技ならもっと得意よ」
「ふぎゃあああああ‼」
「キクラゲ、黄金五枚じゃ不満みたいだね。ボクの賞金全額あげるから、今夜、弥九郎様の屋敷に夜這いするの手伝ってくれる」
「いいぞ!」
「せっかく優勝して、祝福の口吸いをと思ったら、もういなくなっていたのよ。何か用があったのかしら?」
「口吸い?」
「キスの事だ」
「……」
わかる気がする。如月に言ったら怒るけど。
「如月、小西殿が嫌がる事はしない方がいいぞ」
「男の人は、皆好きじゃないの?」
「……」
「バカ猫は苦手だぞ」
「じゃあ、ボクが苦手じゃ——」
如月は少し着物をはだけさせ、色目を使いオレに擦り寄ってくると、
「あっ、小西殿は今、高山殿の屋敷に——」
「そうなの。待ってて、今、祝福の——」
言い終わるよりも速く、如月は去ってしまった。
「八郎、助けてくれたのは嬉しいけど、王の兄ちゃんに怒られない?」
「怒られるだろうな。猫丸の為とはいえ……私が全て請け負う」
「ああ……また、オレからも謝っておくよ」
「俺から見たらどうでもいい事だが、話を戻して、けん玉大会では如月との差は僅差だったからな」
「んー。一点の差で二位になると悔しいよなー。……でも、如月は上手すぎるんだよな」
「確かに如月は、かなりの腕前だったな」
「また大会はあるのか?」
「それは、わからないな。父上の気分しだいだ」
「またあるのなら、勝て‼ 次こそ勝てよ! バカ猫!」
「次はな……が、オレには鍛錬もあるんだけど」
「知るか‼」
それから日が経って、
「ヒマだ」
「ヒマだな」
ヒマなので散歩をしていると、
「ん?」
何か踏んだかと思えば、男の人だった。
「人! 死体か⁉」
「う……うう……」
「ち、違うな。生きているな。あのー? どうしました?」
「あ、ああ……は……」
「は?」
「腹減った……」
「へっ⁉」
その人の腹からは、かなり大きな腹の虫が鳴いていた。
こんな事、前にもあったぞ! が、放っておくワケにはいかず、
「そ、そっか、じゃあ、屋敷に来てくれ」
行き倒れを宇喜多屋敷に連れて行った。
その最中、エリンギが小声で、
「バカ猫。お前、本当に人助けするのだな。だから、ここに来たんだろ」
「仕方ないだろ。放っておけないだろ」
宇喜多屋敷にいる八郎に、事情を説明しにいこうとすると、
「八郎、かくかくしかじかで——」
「……ああ、ならば用意しよう」
なんだか八郎は元気がない。
「ん? どしたん? 八郎、まさか怒られたとか?」
「そうだ……。高山殿は恐ろしいな……」
どんな風に怒られたかは、想像しない方がいいな。
「顔だけなら、怖くないけど」
「……それよりも、その者に食事を」
行き倒れが食事をし終わると、
「助かりました。まさか助けていただけるとは」
「気にしなくてもいい。それより、何故倒れていたのだ?」
「実はお金が無くて……それで、行き倒れてしまったのです」
「お金が無い? なんで?」
「元は漁師をしていましたが、一山設けたくて、漁師をやめて、大坂に来たのです」
「有徳者になるためか?」
「はい。やっぱり世の中は厳しくて、こんな田舎者じゃ上手くいかず、行き倒れる有り様になったのです」
「漁師ねえ……エリンギ」
「そうだな——」
「八郎、この人と二人になっていいか? 話がしたいんだ」
「ああ、構わないが」
八郎が出て行くと、ある物を作ってみる事を提案した。
その後、
「猫丸、一緒に行かないか?」
「どこに?」
「すしなる物が売っているのだ。食べに行かないか?」
「ああ。行こうか」
道でひときわ賑わっている所がある。そこには屋台があり、その暖簾は汚れているし、今も暖簾で指を拭いていく客もいる。
「いらっしゃい……猫さま! あんたのお陰で一儲け出来たよ! 感謝しますよ!」
「そんな、それより——」
「わかってます‼ あれは守ります!」
「猫丸、あれとは……」
「秘密だ」
「それより、いかがっすか? 鮨は? 奢り——」
「今日は客だ。お金は払うよ」
「そうですか。へい、おまち!」
握ってくれた鮨は、鯛の鮨一貫だが、その大きさは現代の2.5倍のサイズだ。
「よかったら、ワサビもどうぞ!」
ワサビは自由に付けられるように置いている。ちなみに無料だ。
「大きいけど、久しぶりだな。寿司」
「そうなのか? 私は初めてだが、猫丸の国にはあるのだな」
「ああ!」
だけど、これ、十日間の修行で覚えた付け焼刃なんだよな。本来は十年以上かかるのに……八郎には黙っておこう。
「それにしても、鮨と言うのはいい物だな。これならば戦でも食べる事が出来る」
「戦……」
「ああ、いいですね! 戦の時に出しましょうか?」
「頼む」
「代金は一貫八文になります!」
「安いな。また行こう」
「ああ」