猫と商売(その2)
町を見ると、
「皆、やってるなー」
「本当だな」
大道芸に独楽を使い、子供同士、ヨーヨーで競い合い、傾奇者がけん玉でパフォーマンスをして女の子の気を引いている。
「猫丸、近々、上様が大会をする気でいるみたいだ」
「そうなの⁉」
「そうだ。猫丸も出場するのか? 優勝出来るかもしれないぞ」
「いや……」
出てもなぁ……。孫七郎さんがなあ……。一番強いから、わからないし。
「へえ、大会するの?」
「「如月⁉」」
「大会の賞品は?」
「それは、わからないが?」
「ふーん。弥九郎様が賞品なら、がんばれるけど」
「如月、あのな」
「だってぇ、そういうコト出来るのなら、ボク、世界一どころか宇宙一、目指すよ」
「剣玉とか得意なのか? 如月」
「得意だよ。見る?」
糸の無いけん玉を取り出して、したかと思うと、ヨーヨーを華麗にして、最後に独楽を使って美しく舞う様に見せた。
「す……すげぇ……」
「如月、中々の才覚だ」
「ふん」
すると周りが、
「見たか⁉ 今の?」
「ああ、糸が無いぞ‼」
「探すか! 作るぞ!」
周りは如月のけん玉を見て、更にブームに火が点いた。
「ああ、これで更に難しく……」
「猫丸なら何とかなるだろう」
「何とかって……」
それから日が経って、
「さて、今日はどうしようか?」
「おい、あれ」
「ん?」
「見つけました」
以前のけん玉などを教えた人だが、その人が女性を連れている。
「この人は?」
「ああ、彼女は私と同じ村の出身でね。生活苦で、ここに欠落してきた者だ」
「その人に何を……」
「何かいい方法は無いかと聞きに来たのだ」
「なるほど、なにか特技は?」
「わたくしは、においに関しては人よりいいぐらいですが」
「におい、か……」
エリンギが小声で、
「任せろ! においならば——」
「そうか。じゃあ——」
エリンギが言った物を集めに行った。
そして、
「そこの殿方、武士ですか?」
「いかにもそうだが」
「ならば、この伽羅の油はいかがですか?」
「伽羅の油?」
「はい! ぜひ、こちらに来て伽羅の油をお使いください!」
武士を店内に入れ、髷を結う時に伽羅の油を使うと、
「これは、何と言う良い香りだ!」
「この伽羅の油を使えば、髪は美しく芳しい香りがします」
「ほう。だが、見栄えにこだわっても意味が無いのではないか?」
「いえいえ、真の武士ならば、死ぬ時は美しくありたいものでしょう。いきなり襲われて殺されて、そのままでは美しくないでしょう」
「確かに」
「それならば、普段から美しく装い、いざ、準備をせずとも、武士ならば美しく死にたいものでございましょう」
「そうだな。死ぬ時がみっともないのは恥ずかしいものだ」
「その為の極上の匂い付き鬢付け油『伽羅の油』いかがですか? 他にも香り袋やその他諸々色々ありますよー‼」
「買おうか!」
「買った!」
「一つくれ!」
「はいはい! まいど!」
伽羅の油だけでなく、香り袋も全て売れた。
夕方、女の人から、
「こんな素晴らしい物の製法を教えてくれるなんて……このお礼に、ぜひ、備前にも店を作ります」
「ああ、悪いな」
その後、
「なんか会う大半の人、伽羅の油の匂いがするよな。ん? 八郎⁉」
「猫丸。私も伽羅の油を付けてみたのだが……どうだ?」
「ああ……」
八郎は別に付けなくても、いい匂いがするのに……。
「今や伽羅の油は武士にとっては欠かせない物だ」
「そうなの?」
「ああ、伽羅の油は普段から身だしなみを整えておく、つまり、いつ死んでもいいと言う事だ」
「って⁉ 八郎⁉ 付けてるじゃん⁉」
「当然だ。私も武士だ。いつ死んでもいい覚悟は出来ている」
「八郎~‼」
「伽羅の油を付けぬ者は武士ではない! と言われている。そういった背景もあるから皆、付けているのだ」
「ああ~」
作らなきゃよかったかもしれない。教えてくれたのはエリンギだけど。
「猫丸。それより明日は、剣玉や手車や独楽の大会があるぞ」
「ああ、そうだったな」
「孫七郎殿や如月は強敵だが、猫丸なら勝てる」
「勝てる、のか……?」
「賞品は黄金十枚だぞ!」
それを聞いたエリンギは目を光らせて、
「バカ猫! 絶対に勝てよ‼」
「エリンギ、お前の金にはならないぞ」
「何⁉ もう教えないぞ‼」
「わかったわかった。勝てるようにがんばるよ」
「がんばるじゃなくて、勝てよ! 絶対に‼」
「エリンギ、一番の重荷だな」