猫と商売(その1)
如月が去った後、
「エリンギ、どうする?」
「何をだ?」
「有徳者を目指す人たちに、何か知恵を貸すか?」
「なぜだ?」
「知恵を貸して成功させる。そして、支店を備前に作る。そして商売を活性化させる。そしたら、もっと儲かるだろ」
「バカ猫にしては考えたな。足りない知恵でな」
「まあ、な」
エリンギが珍しく褒めたので、気をよくして、有徳者を探していると、
「どこにいるのかなー?」
「簡単に見つかるわけないだろ」
「ですよねー。じゃあ……」
木の看板を作り、
『有徳者になりたい者、募集!』
と、作ったが誰も来ない。
「当然だ。怪しいと思わんのか、バカ猫」
「どうしよっか? 取りあえず……探すか?」
歩いて、町の中を探してみた。
「うーん……」
探してみたが、一人も見つからず、夕方になった。
「いないな」
「簡単には見つかるものじゃないぞ。それより夕飯だ」
「まあな」
明日、鍛錬の後、
「うーん。いないな……」
周りを見ながら探していると、
「うーん……」
「「うわっ⁉」」
男の人にぶつかった。
「ああ、すみません! すみません!」
「こちらこそ……」
男の人は上の空の様だ。
「あのー。何か考え事をしていたみたいですけど、どうしました?」
「実は、生活苦で田舎から出てきて商売をしようと思っていてね」
「えっ⁉」
「それで、どのような商売にしようか悩んでいただけだよ」
「それ‼ オレも協力させてくれませんか⁉」
「どうしてだい?」
「実はかくかくしかじかで——」
「そうですか。それで」
「オレも協力したいのです。ダメでしょうか?」
「いいけど」
場所を変え、どのような商売がしたいのかを聞くと、
「商売は何でもいいけど、それと言った取り柄がないからな」
「少しでも、あればいいんです」
「私が得意な事は手先が器用であるぐらいだが……」
「手先か……」
小声で、
「どうする? エリンギ?」
「まったく……そうだな。あれはどうだ?」
「あれ?」
「紙と筆をよこせ」
エリンギがこっそり、何かの設計図を二枚描くと、
「これでよし、これを見せて作れ」
その設計図を渡すと、
「これを作るのですか? やってみましょう」
「オレも教えますし、道具も調達します」
道具を調達し、エリンギが言った事をオレが教えて、二週間かけた物は、
「出来た‼」
丸い玉に三つの皿の……けん玉と、二枚の円板の真ん中に糸を巻き付けた……ヨーヨーに、お椀を二つ合わせた……独楽の完成だ。
「完成しましたが……どのように使う物ですか?」
「これは……」
町中に出て、オレがけん玉の技を披露すると、
「あれを見ろ!」
「何だ⁉ あの玉は?」
「何やら、すごい動きだ!」
けん玉が終わると、次にヨーヨーを見せた。
「何故、回っているのだ⁉」
「不思議だ⁉」
「目が回るな」
最後に独楽のパフォーマンスを見せたら、
「あれは何だ?」
「見た事が無いぞ」
「不思議な物だ」
独楽のパフォーマンスが終わると、
「この独楽は南蛮や明で遊ばれている独楽でございます。そして、最初に見せた物は剣玉と言い、これも明の遊具で、その次の物は手車と言い、それもまた明の遊具でございます」
「「「おおーっ‼」」」
「剣玉は五文、手車は八文、独楽は十文で売っております! なお、今、剣玉や手車、独楽を全て購入した方には数量限定で剣玉や手車や独楽の極意書を付けます‼」
「「「おおおおーっ‼」」」
「欲しい方はお早目に、数に限りがあります‼」
「買うぞ!」
「両方ともくれ!」
「父ちゃん欲しい‼」
「お、押さないでください‼」
こうして、けん玉とヨーヨーと独楽は全て売り切れになった。
「こんなに売れるとは……これもそれも、あなたのお陰です!」
「いやー。そんな……」
「ぜひ、お礼を——」
「だったら、備前にも店を建ててくれませんか? それが一番の礼です。それにこれからが始まりですよ」
「そうですね。まだ、始まったばかりですよね」
その後、
「猫丸、お主がしていた。剣玉と手車を手に入れたぞ!」
「あ、八郎も?」
「当然だ! 父上が持っていて、私が持っていないのでは話にならない」
けん玉とヨーヨーと独楽は爆発的な人気が出て、大人も子供も皆遊んでいる。技を決めた者が、ヒーローなのも、現代と同じだが……。
「ああ、猫丸。孫七郎殿が怒られていたぞ。『熱中しすぎじゃ!』と、やっかみもあるかもしれないが」
「はは……」
孫七郎さん、すぐ全部プロ級になったな。それに上様もオレにこっそり、『教えろ』って言ってたし、
「今や剣玉と手車を持たぬ者は武士ではないと言われている」
「なんで?」
「剣玉や手車は非常時の武具になるからだ。武士は皆、こぞって買いに行くのだ」
「……」
「昔、そんなアニメやドラマがあったな」