猫と有徳者
ある日、大坂城にて、
「あーあ。ヒマだな」
ヒマなので、一人で大坂城に行くと、門から二人の男性が出て来た。その人たちがオレに気付くと、
「猫!」「猫さん!」
「虎之助さん! 弥九郎さん!」
「「ん?」」
二人が顔を見合わすと、
「何でいるんだ⁉」「何でおるんや⁉」
「えーと、じゃあ——」
オレが逃げようとすると、弥九郎さんが右腕を掴み、
「猫さん。儂の買い物に付き合ってほしいんやけど……」
「えっと……」
すると、虎之助さんが左腕を掴み、
「猫、狩りに行こうと思うのだが……」
「えーと……」
「買い物や!」「狩りだ!」
「あのー……」
「どっちだ!」「どっちや!」
「わあ!」
両腕が放され、二人とも、刀を抜いている。
「買い物か狩りか、どっちだ⁉」
「買い物やろ!」
「狩りだろ!」
「あー……」
二人とも、刀をオレに向けている。
これって、完全にどっちを選んでも、その先に待っているのは死ですよねー‼
「そのー……」
「「ん⁉」」
その時、門が開く音がした。
「二人とも、すまないが、猫丸と茶の湯をする約束をしているんだけど」
小一郎のおっちゃんだ‼ でも約束って……?
「猫丸、や・く・そ・く・したよね」
「あ、はい! しました‼」
よくわからないけど、そういう事にしよう。
「そういう事だから、二人とも。——行くよ。猫丸」
「は、はい」
オレと小一郎のおっちゃんで、山里曲輪の茶室に行った。
「ほお~。はあ~」
「そういえば、猫丸はここで茶会をするのは初めてかい?」
「上様の案内の時は見学だけでしたから」
「そうか。じゃあ、ゆっくりすればいいよ。私以外は誰も見ていないし」
「そうですか~。では」
オレがリラックスしていると、小一郎のおっちゃんが愛想よく、
「猫丸、九州で戦がある事は知ってる?」
「ぶー!」
「どうしたんだい? お茶を噴いて? 普通に九州で戦が起こる事を教えただけだけど」
「さらっと言わないでくださいよ! 驚きますよ!」
「まあ、安心して猫丸。被害は少なくするから」
「そういう問題ですか⁉」
「君の国では、多い方がいいのかい?」
「いや、それは……少ない方がいいです」
「そうかい。首とか沢山取った方がいいけどね」
「オレの国は人殺しをしてはいけないって、なっていますから」
「そんなに違うんだね」
「そうですよ」
「じゃあ、猫丸の国について教えてくれないか? 私達の国の違いを知りたいから」
「いいですけど」
小一郎のおっちゃんにも、オレの時代の事を教えた。ヤバい事は、言わない様に説明した。
「本当に不思議だね」
「そうでしょうか?」
「猫丸にとっての当たり前は、私にとっては未知の話だからね。聞いていて興味深いのさ」
「ああー‼ そうですか」
その後、町中でエリンギに会ったが元気がない。
「また、フラれたのか?」
「ふん!」
みたいだな。
「エリンギ、小一郎のおっちゃんから、お菓子貰ったから、食べて元気だせよ」
「ああ」
エリンギと一緒に帰っていると、
「エリンギ。あのさ」
「何だ?」
「金儲け、どうしたらいい?」
「そうだな。あれを見ろ」
「あれは……」
見ると、美女を連れ贅を尽くした着物を着た男がいる。
「あれはな——」「有徳者だよ」
後ろから如月が現れた。
「如月‼」「如月! こらぁ‼」
エリンギは怒っているが、気にせずに続ける。
「有徳者はね。生活苦などから村を去った者が、大都市に行き商売で成功した者の総称さ。運と才能があれば、有徳者になれるのよ」
「如月!」
「キクラゲの言いたい事をボクが全部言っただけだよ」
「そっかあ、悪いな。如月」
「どういたしまして」
不機嫌なエリンギは如月に対して、
「ふん。お前は小西家で何をするつもりだ?」
「別に? 猶子として、好き勝手しているだけだよ」
「小西如清には猶子はいなかったし、それに堺政所は如清じゃないだろ」
「ああ、デブサだよ。……本来なら」
「本来なら? それに誰? デブサって?」
「弥九郎様や景、ゴミの実の父の事よ。デブでブサイクな隆佐、略してデブサ」
「ヒドい言い方だな。おい」
「そして本来なら、デブサが堺政所になってたんだけど、どこぞの誰かによって前の堺政所は追放されちゃって、それで予定より一年早く、しかも一五九四年にデブサが死んで、その後釜にゴミがなるはずだったのに、ゴミが先に堺政所になったのよ」
「……エリンギ、それって、ダークヒーローってヤツ?」
「さあな」
「……知らない方がいいわよ」
「そうか」
なんか一人と一匹は、そっけなかった。
「それより、猫ちゃん。付いて来て」
「えっ?」
「弥九郎様。『買い物に行く』って言ってたから『ボクも行く』って言ったけど『他のを誘うんや』と言って、一人で行ったのよ。その相手を探しに——」
「如月。今、弥九郎さん、一人だよ」
「えっ⁉ そうなの⁉ 待っていてください‼」
高い靴を履いた如月は、器用に走り去って見えなくなった。