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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と降伏

「次はどうするんだ?」

「次は岩倉城を攻めるのだ」

「また戦か」

「だが、次からは孫七郎殿と行動するのだ」

「……そう言う事だ。猫丸」

「うっ……」

 また文学青年はガン見している。

 夜になり、若様と一緒に寝る前に聞いた。

「お前、平気か?」

「何がだ?」

「人を殺す事、だけど」

「殺したくは無い」

「えっ⁉」

「殺してしまうと、今後の内政に影響が出るからだ」

「……そうですか」

「それより猫丸。お主、何があった? あの血は何だ?」

「あれ、エリンギが合戦場に行くから、つい……」

 エリンギは不愉快そうだ。

「えりんぎを追いかけてか……。よく、合戦場に行けたな」

「ああ、なぜか——」

 オレが、その先を説明しようとすると若様が、

「猫丸、明日はお主も連れて行くぞ」

「えっ、ええっ!」

 オレも初陣か⁉

「安心しろ。お主は戦に参加しなくてもいい」

「そ、そうか……」

 翌日、オレたちは岩倉城と言う所に行った。

「——黒田殿がいるから、俺の想像より早く終わるかもしれない」

「そうかのう?」

「この四国の地に黒田殿のほどの奇計が思いつく者はいない。そんな黒田殿が居られる俺達の勝利は目に見えている」

「……孫七郎殿、それは慢心じゃ。たとえ鳥なき島でも油断を足元をすくわれますぞ。前の様になりたくないじゃろう」

「そう、だな。油断は禁物だ」

「その心構えじゃ」

 そうして、岩倉城と言う所に着いた。

 エリンギにこっそりと、

「なんか城って言うより、砦だな」

「お前みたいな無知の人間が思い描く城ばかりでは無い。天守が無くても城としての機能がある城も、城と言うのだ」

「えっ⁉ そうなの⁉」

「そうだ。覚えろ」

 エリンギと話し込んでいると、若様が現れて、

「猫丸、この城は険要の地だから攻めるよりも軍略で屈服させる事にした」

「えーと、これは……」

「黒田殿の策だ。それを父上におはかりするのだ」

「それもか」

 オレたちが話していると、黒田官兵衛が入ってきて、

「宇喜多殿」

「何でしょうか? 黒田殿?」

「材木を集めてもらえるか?」

「その材木は一体——」

「城内の楼より高い井楼(せいろう)を組み立てるのに使うのだ」

 エリンギに小声で、

「井楼?」

「矢倉と言えばわかるか?」

「それなら、ギリギリで……」

 若様と黒田官兵衛は話を終え、

「皆の者、これより材木を集める」

「「「はっ!」」」

 兵は散り散りになり、木々を切り出して材木を集め出した。

「猫丸、私は兵の様子を見て来る。少し待っていろ」

「ああ」

 若様が去って、エリンギを抱きしめていると、

「不安か?」

「なにが?」

「見世物になる事が、だ」

「なんで、お前が言うんだよ。お前はオレが見世物になることで、ご馳走が食べれて嬉しいんじゃねえのかよ」

「嬉しいよ。だが」

「だが、なんだ?」

「……お前が俺を強く抱きしめたから、不安かと聞いているのだ」

「えっ、そうか?」

 オレはエリンギを強く抱きしめたつもりはないが、強くなったらしい。

「見世物はもう覚悟は決めている、けど……」

「けど?」

「あいつが人殺しの世界で生きて、死体を見て生きている事が嫌でな。どうしたら、あいつがそういう世界で生きなくてもいいのかと、考えてな」

「——お前は、お人よしだな。あれは生まれた時から、この世界が常識なのだ。お前の常識を押し付けられても迷惑なだけだ」

「わかってる。けど……」

「猫丸!」

「あ! 若様!」

「猫丸、この城は堅固で守備する兵将も兵士も武勇に優れた者達だが差し支えない。この戦は我等が勝利するのだ」

「勝つのか」

「ああ、そして伊予や羽柴殿の一宮城を制圧すれば大分有利になる。そうすれば、お主を父上の元に連れて帰る事が出来る」

「そうか」

「まあ、待っていろ。猫丸」

 日に日に井楼って言うのが出来ていき、完成すると一日に三度、ほら貝を鳴らし砲撃した。

「うっわぁ~。うるせぇな~」

「ふにゃ~」

 耳を押さえているが、それでも聞こえて、体に響くくらいの大音量だ。

 オレでこれなら、エリンギには苦痛だろうな。

「なあ、この音の大きさで山が崩れて、オレたちが巻き添えになる事はないよな」

「それは無い。猫丸」

「——が、それが目的じゃ」

「黒田殿」

「これにより戦意を削ぎ、降参させるのが目的じゃ。もう、そろそろかのう」

 その後、岩倉城は降参し、城を明け渡した。

「猫丸、一宮城もあと少しだ。お主を連れて帰る事が出来る」

「そうですか」

「ふにゃ~ん」

 エリンギは嬉しそうだ。

 それから、一宮城に行く事になった。

「岩倉城の明け渡しは聞いたよ。一宮城も落城したし、あとは伊予だけ、だね」

「私達が応援に行きましょうか?」

「伊予の応援は不要だと言っているし、彼らは入り用無いと思うよ」

「は、はあ……」

「長宗我部に降伏を勧めてみるよ。どう出るかは、わからないけど」

 数日後、

「長宗我部が降伏したよ。後は伊予と戦後処理だ」

「本当ですか⁉ では、私に出来る事は?」

「しなくてもいいさ。それよりも、猫丸を連れて帰るのだろう。伊予の方面は障りないし、戦後処理は、私と黒田殿の方でしておくから」

「えっ⁉ よろしいのですか⁉」

「ああ、構わないよ」

 ああ、来てしまったか……。覚悟していたけどな。

「猫丸! 行くぞ!」

「……わかった」

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