猫の怒り(後編)
夜中、宇喜多詮家の屋敷に男が現れた。
「おい」
「⁉ 何者だ⁉」
宇喜多詮家を蹴り飛ばして叩き起こしたのは、怪異な服の男だ。
「何者だ⁉ 何処から入って来た⁉」
宇喜多詮家は刀を持ち、抜刀した構えた。
「はっ、どうでもいいだろ。それより、お前知っているか?」
「何を?」
「坂崎直盛と言う男だ。そいつは、重臣を毒殺し、主君に反旗を翻した事で御家騒動を引き起こし主君から家臣を奪い、後の戦で敵対するだけでなく、城を完成させた後、完成させた者を殺害し、出奔した甥を匿った男の家臣を人質にして、その男を殺しかけたが、家臣に止められたものの、手紙によって発覚し、匿った男は改易され、その妻も消息不明だ。……それは自分の実の姉なのに、そして、寡婦になったある姫君の縁組を依頼され、結婚まで行きかけたが、その姫君は別の男との縁組が決まり、面子が丸潰れになり、その姫君を誘拐しようとしたが、計画がばれ、家臣によって殺害され、墓は坂崎ではなく、坂井になった男だ」
「そ、それがどうした⁉」
「そんな男だ。どうしたらいい?」
「そんな男は、殺してしまえ!」
「どんな風に?」
「罪人の様に、斬首にしろ!」
「そうか、斬首か。優しいな」
「優しい? 辱めを受けるのだぞ‼」
「首を斬るだけで済むのだ。優しいじゃないか」
怪異な服の男は、握りこぶしを胸の高さに上げ、開いたかと思うと、
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」
何も無いのに、宇喜多詮家の腕と足は強引に引きちぎられる様だ。
「坂崎直盛と言うのは、お前の事だ。お前は斬首が望みか。叶えてやるぞ」
「う、腕があああああああああああああああああああああああああ、あ、足がああああああああああああああああああああああああああああああああああ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ‼」
肉が裂け、血が飛び散る音は絶叫によってかき消された。
「腕と足はサービスだ。お前は、どこぞのバカ猫をいじめた報復だ。——さて、そろそろ、本番だな」
右手に持っていた刀は手から離れ、宙に浮いた。
「ひ、ひいいいいいいい……」
「苦しいだろ、一発で成功はさせないさ」
「ぎゃああ‼」
刀は宇喜多詮家の首を少し斬っただけだ。
怪異な服、それは青い色の猫耳と尻尾が付いたパーカーと青いジーンズとスニーカーだ。
パーカーのフードで隠れた髪の色も青い。
そこから見える顔は美男だが、何処か皮肉屋な男だと感じさせる。
青づくめの怪異な服の男は言った。
「もう、死にかけか。——最後に俺の名前を教えてやる。俺の名前はエンリケだ」