猫と金儲け
「金儲けって、どうすればいいんだ?」
「お前、人商人に売られたらどうだ。いい金になるぞ」
「八郎がいるのにか?」
「気にしなくていい。売られては逃げ、売られては逃げ、の繰り返しをすれば、その金は全額、俺が使って——」
「エリンギィィィ‼ また自分が使うのかよ!」
「では、どこかから盗んで来たらどうだ? 例えば、あのオネエのところとか」
「……エリンギ、それはダメだろ」
「ならば、如月を利用しろ! スマホで南蛮かぶれの写真を盗撮するか、何か手に入れてこい! 例えば褌とか⁉」
「やめんか‼ ヤバいだろ! それはオレが‼」
「じゃあ、どうする気だ?」
「うーん。オレが見世物になるとか?」
「前、見世物になっただろ。そんな物で儲かるのか?」
「甘いな、エリンギ、オレには必殺技がある」
オレの尻尾で竹の棒を持ち、枡を投げ、
「どうだ! 尻尾枡回しだ‼」
竹の棒でカラカラ回すが、エリンギはアクビをして、
「くだらん」
「……そうだよな。それに何年かかるんだろう。……そうだ! エリンギ! お前の猫ダンス……」
「あの踊りは機嫌がいい時か、可愛い女の子に見せる物だ‼ そんな、見世物目的では踊らんぞ!」
「前、踊ってたじゃん」
「女の子の為だ」
エリンギのダンスはダメだし、
「……こうなったら!」
「?」
また、頭を下げて、
「エリンギ様! 何か知恵をお貸しください」
「結局、俺頼みか」
「はい! 何かいい知恵を?」
「いいだろう。貸してやる。その代わり」
「その代わり?」
「マージンは九割寄こせ!」
「高すぎるわ!」
紆余曲折あったが、なんとかマージンを金一枚で抑えてもらった。
「まずはボンボンの理解を得る事だ」
「八郎にか、それで?」
「それは——」
「ふんふん」
夕方、
「猫丸、どうした?」
「実は、八郎——」
エリンギとオレで八郎に、やり方を説明した。
「そうか。これは……いいかもしれないな」
後日、
「皆に集まってもらったのは他でもない。新田に関する事だ」
八郎の横にオレとエリンギがいて、その前には重臣たちは左右に並んで座っている。
「若様。新田とは、開発をなさるのですか?」
「そうだ。備前には大河川があり、島々に囲まれ、干潟が形成されやすい土地だ。まずは新田開発を児島湾から始め、倉田・幸島・沖に大規模な開発を、その後、河口にも開発を進めようと思うのだが……」
「ですが開発しようにも、干潟ですよ。どの様に開発なさるのです?」
「それは、新田となる部分に潮止めの堤防で囲い、干拓する」
「かなり大規模な工事になりますな。その後、問題があります」
「問題は田畑を灌漑する用水の事か? 確かに新田は海の底になってしまう。そのままでは海に流れず、水が溜まったままだ。その為、田の周囲に溝を掘り、土を田に被せ、新田の部分だけ土地を高くするのだ。更に先に言っておく、用水は海に面した所に樋門を作り、遊水池とする」
ざわざわしているが、八郎は話を続け、
「この新田開発は大規模な物になる。川も造ろうと思う」
「若様、どうしても水田に出来ない箇所は塩田にしますか? 児島なら塩田に向いています」
「塩田だけではない。木綿も作り生産するのだ」
「「「おおっ……」」」
「成程、これならば……」
「若様、ここまで考えるとは……」
「……けっ」
周りが感心し喜んでいると、八郎はあっさりと、
「いや、私ではない」
「えっ⁉」
周りはどよめき、お互いの顔を見合わせ、もう一度、八郎を見る。
「若様、では?」
「全て、猫丸が考えた事だ」
「ええっ⁉」
エリンギが不機嫌そうだ。それもそうだ。これは全てエリンギが言った事だからだ。
「猫が……」
「やはり、ただの猫ではないか」
「いや、その、あの……」
八郎は小声で、
「猫丸、えりんぎが喋れるとは言いづらいだろう。それで、猫丸一人の事にしたのだ」
「でもなあ……」
「ふー‼」
エリンギが八郎に威嚇をしていると、八郎が、
「えりんぎ、夕餉に鯛をもう一尾付けるから、機嫌を直してくれ」
「ふにゃああん‼」
「鯛でいいのか……」
こうして開拓は始まり、長い期間を掛けて、工事をする事になった。
「猫丸、感謝するぞ。この国は豊かになりそうだ」
「まあ、金があれば、誰も困らなくて済むしな」
「戦をするにも、付き合いをするにも、金は必要だからな」
「戦……」
「金が入れば……豪遊、豪遊……」
「エリンギ、金一枚だけだぞ」
「ふんっ! どっかから——」
「エリンギ‼」
開拓中のある日、エリンギと一緒に、
「エリンギ、まだまだ、する事あるんだよな?」
「ああ、まだ言わないが金儲けする手段は沢山ある。これからしていくぞ」
「わかった。オレも協力する。けど」
「けど?」
「エリンギ、すごいよなー。こんな事を思いつくなんてさ」
エリンギの頭をなでながら言うと、
「すごいか? あれは、後に池——何でもない」
「何でもないって……何だよ‼ 教えろよ!」
「何でもないと言えば、何でもない事だ。俺はガールハントに行って来る」
エリンギは走ってどこかに行ってしまった。
「ああ! おい! エリンギ!」