猫と忍び
本日は雨が降っていた。
今回は自主練だけで、後は八郎とエリンギの二人で遊んでいた。
八郎がオレのタブレットでマンガを読んでいると、
「猫丸、お主のまんがは、いつ見ても面白い物だな」
「そうか」
八郎は、世界的に大ヒットした忍者マンガを興味津々で読んでいる。
「そうだ。この忍者と言う兵は強いな。このような者が居れば、宇喜多の軍は連戦連勝、間違いなしだな」
「忍者と言う兵って、八郎、お前んとこにも忍者ぐらいいるだろ」
「猫丸」
「なに?」
「忍者とは、何だ?」
——は?
「あのー? 八郎? 忍者、いるだろ。宇喜多にも」
「忍者は初めて聞いた。忍者とは、このような怪異な力を持つ者の事を言うのだろう?」
「八郎、あの——」
「透波や乱波、忍之者と言えばわかるか?」
「ああ! 忍之者の事か‼ 忍之者ならわかるぞ‼」
「忍者いないのか?」
エリンギが小声で、
「バカ猫、戦国時代に忍者と言う者は存在しない」
「ええっ⁉」
「どうした?」
「何でもない」
またエリンギは小声で、
「忍者と言うのは戦国時代には、さっきの透波や乱波、忍び、などと地域によって違う名前で言っていて、江戸時代から忍者と言う言葉が出来たのだ。ちなみに軍師も言葉自体は古代中国にあり、江戸時代になってから言われ、この時代では、占いや祈祷が主流で軍師ではなく、軍配者と呼ばれていたのだ。あの時、黒田官兵衛は軍師と言われても『何じゃ、それは?』と言ったのも、そのためだろう」
「そっか~。で、エリンギ」
「まだ何だ?」
「江戸時代って、いつ?」
オレがわからないので聞くと、エリンギは怒って、
「はあ⁉ アホか‼ 知らん‼」
「ああ! なんだよ!」
「どうした。猫丸?」
「いや、なんでもない!」
「こいつがバカだと、言っただけだ」
「エリンギ!」
八郎はオレたちのやり取りは気にせず、
「ふむ、忍者は忍之者の事か。では、呼んでみようか。——かとり‼」
「何ですかー⁉」
オレの後ろから声がして振り向くと、丸っこく愛嬌のある背の低い男が片足でバランス良く立っていた。
「紹介しよう。この者が忍之者である、かとり、と言う者だ」
「お初にお目にかかりますー‼ かとりと言いますー‼ 今後ともヨロシクー‼」
「よ、よろしく……」
って言うか、いつの間に⁉
「かとりは、言動はああだが、忍之者としての実力は、かなり頼りになる」
「そんなー‼ ほめすぎですよー‼」
かとりは身をくねらせているが、気にせずに、
「えっと……その……」
「どうした、猫丸?」
「忍びって、もっと、こう……強そうに……」
はっきり言って、かとりの外見では強そうに見えない。
「別に強い弱いは関係ないのさー‼ とにかく情報を持って帰ればー‼」
「そうなの?」
「確かにー‼ 武芸が出来ればー‼ 逃げやすくなるけどー‼」
「逃げるだけ?」
「そー‼ あとー‼ その土地に住んで永住して情報を得る忍之者もいるよー‼ その場合は妻や子がいる場合は、忍之者であることを隠し続けるけどー‼」
「じゃあ、聞くけど、忍者って影分身とか——」
「したように見えるのならあるけどー‼」
「そっかあ、見えるだけか……」
「何で落ち込んでいるのー⁉」
なんだか幻滅した。現実はそうなんだな。
「もしかしてー‼ 忍之者を知って落ち込んでいるー⁉」
「……はい」
「まあまあー‼ 落ち込まないでー‼ 少し教えてあげるからー‼」
「そうですか」
「冷静だねー‼ 外に出てー‼ 特別だよー‼」
かとりに言われて八郎と外に出ると、振っていた雨も止んでいて、空は晴天になっている。
「うおっ⁉」
近くで大きな爆竹のような音がした。かとりは音の方向に行き、
「これはー。百雷銃って言って、これに火をつけて驚かせ、銃を持っていると警戒させて、逃げるんだー‼」
「えっ⁉ そうなの⁉」
「次にー‼ みゃーあ」
「ん? 猫? 猫は……」
エリンギを見たが、エリンギの鳴き声ではない。
「みゃーあ。これは物真似だよ。このような音で、呼吸や身じろぎと言った音を誤魔化すのだー‼」
「へー! すごい上手だな!」
「興味を持ったー⁉ その次はー‼ とっておき、手裏剣術ー‼」
かとりは手裏剣を一発、木に当てた。
「おおっ‼ 忍者だ!」
「では、最後にー‼ 水蜘蛛だー‼」
水蜘蛛って忍者って感じだよなー。
「これで水の上を——」
「沼の上を歩くのだー‼」
「……」
やっぱり、二次元は二次元、現実は現実なんだな……。
「どうしたのー⁉」
「何故、猫丸、落ち込むのだ?」
「ふん。現実と空想の違いを知り嘆いているだけだ」
「そうなのか⁉」
そりゃあ、八郎が知っている忍術はこんな現実的な物だけど、オレが知っている忍術はハデに敵を倒す忍術だもの。
「猫丸、使える者が限られる忍術は忍術ではない。ある程度の者が出来なければ、忍之者の数は少なくなってしまう」
「そうそうー‼ 忍之者に向かない者もいるけどー‼ みぃんな忍之者になって活躍しているよー‼」
「そっかあ……」
現実を知っても、皆の憧れ、忍者にか……。
「皆が出来ると言う事は、猫丸も忍之者になれるのだ」
「オレも忍者に……」
忍者になったオレを想像してみる。うん、活躍している。
「お主の身のこなしなら、すぐに見事な忍之者になれること、間違いなし‼」
「そうなの?」
「ああ、かとりも言っている。猫丸なら、すぐになれるぞ!」
「八郎!」
オレも忍者か……忍者にか……と、思っていると、
「その代わりー‼ 状況しだいでは死んで任務を達成する事もあるよー‼」
「やっぱり嫌です!」