猫と子供達
ある日、
「八郎も花房のおっちゃんも用事か。退屈だな」
「退屈か?」
外を見ると天気も良く、お出かけ日和だ。
「エリンギ、出かけないか⁉」
「そうだな。可愛い雌猫がいるかもしれないし、行くか!」
「お前な」
石山城を下りて、城下町を離れ、村の方向に行くと、
「ほー。村だ」
村は畑や田んぼがあって、のどかな昔の村みたいだが、その村人はオレに気付くと、
「!」
「⁉」
「あれ?」
村人は急いで戸を閉め、隠れてしまい、外には誰もいなくなってしまった。
「なんで逃げるんだよ?」
オレが歩くと、
「⁉ いで‼」
肩に石が当たった。
石を投げた方向を見ると、
「来るな!」
「あっち行け! 化け物!」
「来ないで‼」
石を投げた三人組は、一人は高くリーダー格に見える少年と、小さな男の子と、その中間の大きさの可愛い女の子だ。
「ふにゃ!」
一人、可愛い女の子がいるから、エリンギは上機嫌だ。
「えっと……」
三人組に聞く耳は無く、
「化け物‼ 出てけ‼」
「やっつけてやる!」
「この村に足を踏み入れないで!」
まだ、石を投げつけてくる。
「ええ~~。なんで?」
エリンギは小声で、
「その目と耳と尻尾だろ」
「あっ!」
大坂では慣れてしまったが、ここは備前だ。大坂とは違って、オレを見ていない人も多いんだ!
「えっ——」
「怪物! 消えろ!」
「それ!」
「出ていって!」
また石を投げだした。
「そんな……はあ……」
仕方ないので離れる事にした。
「行くぞ、エリンギ」
「おい! 可愛い子」
「逃げるぞ」
文句を言うエリンギを連れて一人、山の近くに行くと、
「おおー!」
お花が、たくさん咲いている。その近くには透き通った小川もあり、遊ぶのにうってつけの場所だ。
「八郎やお豪ちゃんが居ればなあ」
「お豪ちゃん……お膝が恋しい……」
「エリンギ。あのな——ん?」
近くに声がしたので木陰に隠れて様子を見ると、
「今から化け物退治を行う!」
あの石を投げた三人の子供たちが作戦会議をしている。
「化け物はどこに?」
「それを今から探すのだ。左右の目の色が違い、耳と尻尾が生えた化け物を捕まえて、その首を村に持って帰るのだ」
「持って帰れば、村の皆は安心するわね!」
「そうだ。村の平和は私達にかかっているのだ」
それを聞いたオレたちは、
「マジかよ! おい!」
「さて、ここにバカ猫が——」
「言うなよ! エリンギ!」
エリンギが大声を上げようとしたのを口を押えて黙らせた。
「言うに決まっているだろ。かわい子ちゃんがいるのに!」
「やめろ!」
「ふぐ!」
「とにかく、離れるぞ」
エリンギの顎と口を押え、逃げようとすると、
「うわあああああん‼」
「⁉」
三人の子供たちを捕まえた盗賊が現れた!
「こんな所にガキが三人も」
「しかも、皆高く売れそうだ!」
「やりましたね」
盗賊たちが子供たちを連れて行こうとすると、
「待て!」
「ん?」
「そいつらを返せ!」
盗賊はオレを見るなり、
「うわあ! 怪物だ‼」
「逃げろ!」
「ひいいいいい!」
盗賊たちは子供たちを捕まえたまま逃げ出した。
「待ちやがれ!」
「ぐあ!」
「ぎゃあ!」
「ひい!」
逃げる盗賊を後ろから一人ずつ殴って気絶させた。
「……」
「ぐすん」
「うわ~ん‼」
泣いている三人の縄をほどいていると、リーダー格の男の子が涙声で、
「……何故、助ける⁉」
「そりゃ、誘拐されそうになったから助けるに決まっているだろ」
「……!」
「だから、気にするなよ。家まで送ろうか?」
「……ううん。帰れる」
「え~ん。うぐ……」
「……ぐす。うん」
「泣くなよ」
「あっ、あの……」
「うん?」
「ごめんなさい! 石を投げて」
「すまない」
「……ごめんなさい」
「いいって、帰るぞ」
皆で村に帰った。