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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と備前

 数日後、オレ達は、備前に行く事になった。

「本来なら、もっと早く備前に行く予定だったが、急用が入り遅れてしまったな」

「構わねえよ。別に」

「それより、城はまだか?」

 オレの肩に乗っているエリンギが八郎に向かって聞いた。

「エリンギ、猫丸、もう少しだ」

「もう少しか」

「着いたぞ。これが宇喜多家の城——」

「ありゃ」

「その名も石山城だ」

 八郎だから立派な城……ではなく、水辺に近い小高い丘にある城だ。

「猫丸、えりんぎ、ここが、お主らの部屋だ。自由に使うが良い」

 板張りの何も無い部屋だが、十分遊べる広さだ。

「後で座布団を持ってきてくれ。俺の寝床が欲しい」

「当然だ。猫丸の布団とえりんぎの座布団は持ってきてもらおう」

「悪いな」

 その後、城を一通り案内してもらった。

「案内は以上だ。後は好きにするが良い」

「わかった!」

「雌猫! どこだ! 雌猫ちゃん!」

 エリンギは勝手に飛び出した。

「……エリンギ」

 一人で自由に行動すると、見知った顔に会った。

「花房のおっちゃん! 元気‼」

「ああ、猫か。久しいな」

 四国征伐以来の花房のおっちゃんだ。元気でよかった。

「久しぶり! だけど……」

「どうした?」

「武芸の鍛錬は、どうしようかと思って」

 備前には左衛門さんも虎之助さんもいないので、一人でするやり方も心得ているが、やっぱり練習相手が欲しい。

「武芸か? 儂でよければ相手になってもいいが」

「ホント⁉ やった‼」

「感心じゃ。今からするか?」

「はい!」

 お互い構えて、隙を伺っていると、花房のおっちゃんはオレを睨み、

「猫よ。来い」

「えっ……?」

 花房のおっちゃんは構えたまま、オレを睨みつけているが、

「行くぜ!」

 オレが走って攻撃しようとすると、

「はっ!」

「!」

 花房のおっちゃんは避けて、オレの頭に木刀が振り下ろされた。

「いってえええええ!」

「猫よ。まだまだじゃ!」

 そういうと、花房のおっちゃんは避けるかガードされるかで、一回も当てる事が出来ない。

「隙あり!」

「いて!」

 また頭を叩かれた。

「いってえええ! この!」

 もう一度、立ち向かうが……結果は……。

「くっそ~~!」

「ふっ」

 全戦全敗だ……。

「くやし~! 確かに、まだまだだって事は知っているけど、一回ぐらい当ててもいいじゃないか‼」

 左衛門さんや虎之助さんには一回、攻撃を当てた事あるのに! 一回ぐらい当たるだろ!

「悔しそうだな。猫」

「ったりまえだ! もう一回‼」

「もう夕暮れだ。相手になるなら、また明日じゃ」

「う……」

 オレの腹の虫が鳴った。

「さて、夕餉が出来ておろう。夕餉を食い、体を休め、また明——」

「食ったら、もう一回‼」

「——やれやれ、仕方ないのう。……だが、食ったら一刻は休め」

「……わかった」

 夜中、

「でりゃー!」

「はっ!」

「いで!」

 結果、一回も当てられなかった。

「くそー」

「猫、落ち込むな。これだけは言える」

「?」

「四国の野伏せりぐらいなら簡単に倒せるじゃろう。これからも武芸に励むのじゃ」

「あ……わかった」

「では、体を休めるのじゃ」

「……はい」

 ちなみにオレは気付いていなかった。

 この鍛錬を見ていた人がいた事に。

 翌朝、

「猫丸殿、よろしいですかな」

「誰ですか?」

「覚えていないか。四国で顔を会わせた程度だからな」

「四国で⁉」

 オレの物覚えの悪い記憶の中で思い出してみる。

 確か、この人、八郎が叔父上って……⁉

「……えっと、八郎のおじさん?」

「そうなるな。儂は宇喜多七郎兵衛忠家と言う、儂の兄は若様の父上なのだよ」

「って‼ なんだかすいません!」

「何が? 昨日は武芸に励んでいた様だが……」

「え、あ、ごめんなさい‼」

「だから何故、謝る。むしろ、武芸に励むのは感心だと言いたいのだ」

「あ、そ、そうですか……」

「猫丸殿が武芸に励めば、それを見て若様も鍛錬してくれれば、と思っただけだ」

「ああ……」

 そういえば、八郎が鍛錬しているところって見た事ないよな。

「そうすれば……いや、何でもない。ああ! 話を変えよう! こっちは——」

 八郎のおじさんは手を向けたが、そこには誰もいない。

「いない……まったく! 勝手にうろついて……すまない。猫丸殿、また後日会おう!」

「はあ」

 八郎のおじさんは去ってしまった。

「こんな所に居たのか、猫」

「あっ! 花房のおっちゃん!」

「どうやら、七郎兵衛殿に捕まっていた様だな」

「まあ、お話を」

「では、昨日の続きだ」

「はい!」

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