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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と戦場

「では、猫丸行って来る。必ず帰って来る」

 若様は馬に乗り、大声でオレの方に叫んだ。

「ああ、わかった。行ってこいよー!」

 オレはエリンギを抱えて軍勢を見送った。城でお留守番って事になり、そうして残ったのが、オレとエリンギと一部の非戦闘員たちだ。

 エリンギと、ある時はゲームをしたり動画を見たり、またある時は運動をして時間をつぶしているが、それが何日も続くと退屈になり、

「——ヒマだなー」

「ふにゃ~あぁ。——ヒマだ。こういう時は……」

「こういう時は?」

「合戦見学だ! ヘタな映画より面白いぞ!」

「えっ⁉ ええっ⁉」

「行くぞ! バカ猫!」

 エリンギは勢いよく飛び出て、合戦場の方向にまっしぐらだ。

「お、おいっ⁉」

 オレもエリンギを追いかける。オレは百メートル九秒台だが、猫のスピードはそれより速い。

 そうして走って行くと、目の前には、

「なんだ? 川?」

 速い流れの大きな川がある。

「そんな事はどうでもいい。これに乗って進むぞ」

 エリンギが指す方向には、川に浮かんだ大木がある。

「これに乗れ」

 エリンギは前足に大木を指しているが、どう見ても何の変哲もない大木だ。

「はあ⁉ 木だろ⁉ なにもなしで大丈夫か⁉」

「うるさい! さっさと乗れ!」

「あー。わかったよ!」

 エリンギに怒鳴られ、大木に飛び乗ると、そのまま、まっすぐに対岸の方向に流れ問題なく着いた。

「な、なんでだ?」

「さあな? それより行くぞ!」

「あ、ああ……」

 湿地帯を越えて先に進むと、太鼓や弓を射る音や火薬の臭いが強くなり、合戦の色合いが強くなっていく。

「着いた!」

「着いたって……‼」

 オレたちの目の前には、ドラマや映画の世界では無く、本物の合戦が広がっていた。

「これは……」

 槍を使って叩き合いや刺し合いをしたり石を投げたりして戦っている。

「⁉」

 足軽たちの足元には、首の無い死体がたくさんあり、その近くで倒れた兵の首を切り取っている者がいるが、夢中になっていたのか、後ろから敵に首を斬られて死んでしまった。

 そして、オレぐらいの年頃の足軽が槍や鉄砲を使って、同じ年頃の足軽を何のためらいもなく殺している。

 鉄砲で撃たれ血を流して倒れている者、矢が喉や目に刺さって死んでいる者、そして、

「うわあああああ‼」

「ぎゃあああああああ‼」

 城から大石を落とされて、顔が潰れ、脳や目が飛び出ているが、体がある事で人間であると理解出来る物があったが、それも大石が落とされ続けて、最後は原型を留めなくなった。

 火薬と血の臭い、土埃に鉄砲の音がする映像と違う本物の世界があった。

「あ……」

 オレが目を背けていると、エリンギが笑いながら、

「バカ猫、これが戦だ」

「う……」

 うっかり、もう一度見ると大石が当たって死んだ足軽の一人の残っている顔の半分を見て、前にオレの絵を描いていた人だったが、それもすぐに二度と見られぬ物になった。

「——あいつ、嬉しそうだったのに……」

「そんなものさ、人の一生と言うのはな」

「…………」

 これが日常となっている世界であいつは生きているのか。人殺しをして生きる世界に。

 そんな時、城から石が落ちなくなった。

 見ると、城兵たちが山を下りてきた。

「仙石殿の軍が、水の手を絶ったぞー!」

 それにより、山を下りて戦う事になり、山の下にいた軍勢は攻め出した。

「うおおおおおおおお‼」

「いけえええぇぇぇぇぇぇ!」

 ここから先は想像すら嫌だった。

 しかし、エリンギが楽しそうに、

「おおっ! あそこに可愛い雌猫ちゃんが!」

 エリンギは飛び出して戦乱の中に行った。

「あっ! おい! 待てよ!」

 オレはエリンギを捕まえようと出て、戦の渦中に入ると、

「おぉりゃあああああああ!」

「ぐああああああ!」

「な、なんだよ……」

 地獄絵図の中に来てしまったみたいだ。

 切れ腐った鎧を身に着けている痩せた足軽を煌びやかな防具を身に着けた足軽たちが、数人がかりで攻撃しているのを見て恐怖だと思いながら、エリンギを探していると、

「へへへへへ」

「いいっ!」

 見るからに目つきがヤバそうなヤツが! そいつが槍で攻撃してきて、最初は何とか避けたが、次は逃げようにも逃げられないって思った時、

「ぎゃああああああ!」

 そいつの首に、刀? いや、十字みたいな剣が首に突き刺さって顔や体に温かい液がかかった。その温かさが血飛沫だと気づいた。全身に血を浴びてしまい、声が出なくなった。が、すぐに冷静になると、気になるのは、ヤバいヤツを刺した人物だ。その顔は見えないけど、特徴で分かっているのは西洋風の甲冑である事だ。

 その人物が首に刺した剣を抜くと、ヤバいヤツはゆっくりと倒れた。と同時に、その人物は去ったが、去ったのと同時に何人かの足軽がヤバいヤツに群がり、その内の一人が首を切り取り掲げたのを見て恐怖に思い、エリンギを探す事よりも、逃げることにした。

 オレは逃げて、茂みに隠れていた。

 隠れてから、どれだけの時間が経ったか、わからないが、

「……フラれた」

 聞きなれた声がして足元を見ると、エリンギが戻ってきた。

「なにやってるんだよ! エリンギ!」

 オレが激怒しているが、エリンギはうなだれて、

「せっかく、可愛い雌猫がいたのにフラれるなんて……」

「なにが可愛い雌猫だよ! お前のせいで、オレがひどい目にあったじゃねえか!」

 オレが激怒したが、オレを見たエリンギは興味なさそうに、

「んっ? 血飛沫を浴びているだけじゃないか」

「浴びている問題じゃねえよ! 死にかけたんだ!」

「そうか。死ねばいいのに」

「何が死ねばいいのに、だよ! こっちは本当に死にかけたんだぞ! エリンギ、お前も見つかったんだし帰るぞ」

「帰るのか? まあ、それもいいだろう」

 オレはエリンギを抱えて帰った。

 数日後、若様が帰って来た。

「帰って来たぞ! 猫ま——何だ、それは⁉」

 ああ、オレの制服は血まみれだったんだ。

「猫丸! 何だ⁉ その血は⁉ さあ! 着替えろ!」

 若様はオレのシャツを引っ張って脱がそうとしている!

「い、いや‼ いいんだ‼ 気にするな‼」

「猫丸!」

「だからいいって!」

 オレは捕まえようとする若様から逃げ出した。 

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