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ショートショートSFシリーズ

超寿(ちょうじゅ)

作者: 藍 うらら

 時は2XXX年。ついに、人類は永遠ともいえる寿命を手に入れた。

 平均寿命は数百歳を超え、定年は120歳となった。

 かつて、人類の寿命の限界はいくら長くなったとしても120歳までだと言われていた。

 ところが、人類は自らその壁を乗り越えたのだ。


 本日で120歳を迎えるS氏は、これからある場所へ向かうべく街の外れを闊歩していた。

 S氏は、昨日まで現役バリバリのサラリーマン生活を送っており、120歳の誕生日の前日である昨日をもって約80年勤め上げた会社を退職した。

 思い返せば、これまでの120年もあっというまだった気がする。かつて6年間だったといわれる義務教育期間は、現代では20年間あり、S氏はその義務教育を経て高等教育機関で10年学んだ。

 会社では、泥臭い営業を積み重ねて、最後には部長にまで昇進することができた。

 様々なことがあったようだが、今になってみればそこまで長く無かった。


 しかし、そんな生活も昨日までである。

 120歳を迎える今日からは、心機一転新しい生活が始まるのだ。

 この超寿社会において、120歳を迎え定年した暁には、政府の施設で何不自由ない生活が保障されるのである。

 S氏の両親も、120歳を迎えたころにそれぞれその施設へと入居した。

 それ以降、会えてはいないが恐らく今も元気にやっていることだろう。

 少しばかり、寂しい気もしたがその寂しさも今日までである。

 自分自身もその施設に入居する年齢を迎えたのだから。


 S氏は弾む鼓動を抑えながら、その施設へと向かった。

 その施設は、街の郊外にあり、それはもう広大な土地に作られた立派なものだった。

 中へ入ると、そこには多くの同志たちが今か今かと入居待ちしているようだ。

 しばらくして、S氏の順番がやってきた。

 案内の女性から、名前を呼ばれ、言われるがままに先導されていく。

 そして、ある一室に入ろうとした時、S氏の視界は暗転した。



「--様、ご到着です」


 案内役の女性による先導のもと、ある男性が運び込まれてきた。

 その部屋は、実に広大なもので、そのなかは人間で埋め尽くされていた。

 無論、彼らの身体は正常に生命活動を維持している。

 だが、その人間たちは微動だにしない。

 確かに人類は寿命の壁を乗り越えた。ひとつの壁を残して。


 そしてしばらくして、S氏もまたその一員に無心のまま加わった。


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