-31- くわっちー、くわ―、くわーっ、くわアアーッ! くわーッ!
公園の広場には特設ステージが設けられており、壇上ではご当地の芸能人が司会を勤め、伊河市の萌えキャラクター(マスコットキャラクター)の声を担当した声優がゲストで出演しており、トークショウが行われていた。
「桑井さーーーん! こっち見てくれ!」
「メッチャ可愛いよー!」
「くわっちー、くわ―、くわーっ、くわアアーッ! くわーッ!」
周りには多くの人たちが集まり、特に一部のコアのファンが大いに盛り上がっていた。
「あれは……一体なんだ?」
人目が付かない広場の端でステージを眺めていた爽太たちは、異質な熱気にたじろいでしまっていた。
「え? 藤井くん、知らないの?」
「なにか有名な人なの?」
「伊河市のご当地キャラクター・美湯の声優さんだよ」
ご当地キャラクター――町をイメージしたゆるキャラや萌えキャラであり、今では珍しくもなくなった町興しの一種ではある。
爽太たちが暮らす伊河市も、その手の流行りに乗り、美湯という萌えキャラクターを創った。だが、今どきご当地の萌えキャラクターなど変哲もない。そこで独自性を出す為にプロの声優を起用したところ、思いの外、人気が出たのであった。
「へー。ウチの市って、そんなことをやっていたんだ」
自治体が行っている町興しや行事などは、市民は案外知らないものである。
「私もそういった話しは詳しくないけれど、ミアちゃんが教えてくれてね。今、凄く人気が出ているみたいだよ」
説明を受けながら、ステージに立つ声優の方を見る。とても可愛らしい女性が、その美湯のキャラクターの声を演じて見せていた。
「そうだ。藤井くんは好きなアニメとかマンガとかないの?」
「……無いね」
「へー珍しいね。私達の年頃だったら、好きな漫画とかが一つ二つは有っても良いのに」
「昔は読んでいたけど、先見の明の所為かお陰か……話しの先の展開が解るようになってからは、興味とかが失くなってしまったよ」
「えっと……それは……」
何とも言えない表情を浮かべてしまう稀衣。自分には理解し難い答えだった為だ。
先見の明の弊害の一つでもあるが、
「別に気にしないで良いよ。漫画とかアニメとか読まなくても生きてこれたから」
爽太は慣れたように軽くいなした後、「しまったな……」と落ち込んでしまった。
せっかく稀衣が話しを振ってくれたのに、盛り上げるどころが早々に打ち切ってしまった。普通だったら、稀衣が言う通りに好きな漫画とかはあるはずだ。そこから話しを広げていくものだが――
そう、自分は普通ではない。だから、今の自分がある訳だ。
悶々と後悔する中、
「あれ? ってことは……」
ふと声優がゲストとして出演している新たな情報で推察し、周辺を見渡すと、
「……あ、尾林さん。右田さんたちだ」
ステージ付近に右田水愛を含む友達グループの姿を発見した。
アニメ好きで、ましてや声優のことを稀衣に教えてくれた水愛が、ここにやってくるのは自明の理だった。
「尾林さん、どうしようか。ここから離れる?」
「うん、そうだね」
二人はステージから離れてはいたが、万が一にも備えて遠くに離れた方が良いと稀衣は判断し、速やかに静かにこの場を立ち去ったのだった。




